お茶会で深まる絆④
リリウッドさんが軽く手を振ると、木の机と椅子が現れた。リリウッドさんに促されて椅子に座ると、リリウッドさんはカップとポットを出して紅茶を用意してくれた。
クロと一緒に住んでた頃というと相当昔のはずだが、リリウッドさんは非常に手馴れている感じで、少なくとも俺よりは圧倒的に上手いと思う。
『どうぞ』
「ありがとうございます。凄く手際がいいですね」
『ふふ、ありがとうございます。私自身は紅茶を飲む機会はほぼありませんが、アイシスが紅茶好きなので淹れるのを見る機会も多かったですしね……まぁ、アイシスの場合は、紅茶が好きというよりは誰かと一緒にお茶を飲むというのが好きなのでしょうね』
「……アイシスさん、今日も楽しそうにしてましたね」
たしかに、リリウッドさんの言う通り、アイシスさんは紅茶そのものが好きというよりは、誰かと話をしながらお茶を飲む時間というのが好きなのだと思う。
『いままでも、アイシスに毎回お茶会の招待状は出していました。他の者と、というのは難しくとも、いまのようにこのバルコニーでこうして私とふたりで紅茶を飲むのもいいかと思いまして……ただ、やはり、こういった場に来ると孤独を強く感じてしまうのか、いままでは不参加でした』
「そうだったんですね」
『ええ、ですが、カイトさんと出会ってアイシス自身にも心境の変化があったみたいで、今回初めて参加してくれましたよ』
「アイシスさんの配下もいつの間にか、4人に増えたみたいで、本当に楽しそうでしたね」
実際今回のお茶会でも、アイシスさんは非常に楽しそうな感じだった。ただ、アイシスさんだけでなく、イリスさんを始めとした配下の方々も楽しそうというか……なんとなくアイシスさんのところは、クロの家族のような雰囲気だと思う。
アイシスさんの人柄というか、配下というよりは仲のいい家族のような感じがして、凄くいいと思う。
そんなことを考えながら、ふとバルコニーからなんの気なく会場を見ると……アイシスさんの居るテーブルに、配下とは別の方がふたりほど座っているのが見えた。
「……あっ、アイシスさんのテーブルに誰かいますね」
『おや? 本当ですね。あれは……クレアとベラ、私の眷属ですね』
「界王配下の方なんですね。アイシスさんと話せてるってことは爵位級ですか?」
『ええ、それぞれクレオメとガーベラという花の精霊で、子爵級の実力者ですね。ふたりともアイシスとは直接の面識はなかったはずです。クレアが人と話すのが好きな子なので、おそらくクレアが提案してアイシスの元に行ったのでしょう……』
軽く説明しながらリリウッドさんは少し考えるような表情を浮かべた。
『……確かに、死の魔力の圧はアイシスの心身状態によってある程度変化しますが、それを差し引いても直接話してみようとあのふたりが考えたのは、やはりアイシス自身の変化でしょうね。なんというか、カイトさんと出会って心に余裕が生まれてから、アイシスはそれまでのピリピリした感じではなく、ホッと安心するような優しい雰囲気を纏うようになりましたからね』
「たしかに……なんというか、死の魔力さえなければ話しかけやすい雰囲気だと思いますね」
『ええ、なので、死の魔力の圧に耐えられる爵位級であるふたりは、アイシスの優しい雰囲気に惹かれて声をかけたのでしょう。楽しそうに話をしているみたいですね』
リリウッドさんの言う通り、アイシスさんはとても優しい雰囲気を持っている。というよりは、最初に会った頃のピリピリした感じや、不安そうで儚げだった雰囲気が、少しずつ変化している感じだ。
アイシスさん自身が自分に自信を持てるようになったというか……そう、『自分を好きになれた』というのがしっくりくる。
己をしっかり受け入れることができたおかげで、なんというかアイシスさんの持つ本来の魅力が表に出てくるようになったんだと、そう思っている。
『……なんというか、カイトさんは本当に凄いですね』
「え? 俺ですか?」
『ええ、貴方がアイシスを救った時、リグフォレシアで貴方と会った時……私は、せめて貴方だけでもアイシスの味方で居続けてくれれば、それで十分だと思ってました。ですが、貴方がアイシスにもたらした変化は、もっとずっと大きかった』
「う、う~ん、俺がなにをしたってわけでは無いですよ。アイシスさんは元々魅力的で凄い方で、その本来の姿を出せるようになったから、変化が訪れた……俺の力ではなく、アイシスさん自身の力だと思います」
『さぁ、どうでしょうか? きっとアイシスに尋ねても、私と同じように言うと思いますよ……貴方のおかげだと』
そう言ったあと、リリウッドさんはとても優し気な笑顔を俺に向けた。
『……本当に、貴方がこの世界に来てくれてよかったと……心から、そう思います』
それは本当に真っすぐな好意の籠った言葉であり、なんというか結構気恥しかったが……悪い気はまったくしなかった。
【クレア】(クレオメの精霊、花言葉は『あなたの魅力を心に刻む』)
クレオメの精霊であり、人と話すのが好きな性格。噂とは違うアイシスの優しげな雰囲気に惹かれて声をかけた。
【ベラ】(ガーベラの精霊、花言葉は『前向き』や『前進』)
クレアと仲が良くいつも一緒にいる精霊。クレアの提案でアイシスのテーブルを訪れた。優しいアイシスとの会話を楽しんでいる。
 




