お茶会で深まる絆①
アメルさんとそれなりに長く話したあとは、改めてリリウッドさんを探して他の席に移動する。いくつかのテーブルを眺めつつ移動していると、少し離れた場所に知り合いが座っているテーブルを見つけた。
穏やかな表情で紅茶を飲むカミリアさんと、緊張しまくりで表情がガチガチのロズミエルさんのふたりだ。
「こんにちは、カミリアさん、ロズミエルさん」
「こんにちは、カイトさん。お茶会は楽しんでいますか?」
「ええ、楽しませてもらってます」
俺が声をかけるとカミリアさんは穏やかに微笑みながら言葉を返してくれた。ロズミエルさんは一度椅子から立ち上がり、俺の耳元に顔を寄せてから口を開く。
「こ、こんにちは、カイトくん。あ、会えて嬉しいよ」
「こんにちは……その、なんというか、大変そうですね」
「し、しし、知らない人がいっぱい……怖いよ」
ロズミエルさんは、本人がこのお茶会は苦手と言ってた通り、いつも以上にガチガチになっている感じだった。まぁ、人見知りのロズミエルさんにとってはなかなかハードな行事のようだ。
界王配下幹部という立場的に不参加というわけにもいかないのだろうし、本当に大変そうである。
ただ、俺やカミリアさん……あとは他の七姫とか、大抵の界王配下とは話せるのだろうし、周り全て知らない人ばかりというわけでもないのだろう。
「よかったらどうぞ、カイトさんはあちこち回っているところですか?」
「ありがとうございます。ええ、リリウッドさんとも話したいと思って探してるんですが、なかなか見つからないですね」
カミリアさんが紅茶を用意してくれたので、お礼を言って席に座りながらリリウッドさんを探していることを伝える。
リリウッドさんは結構目立つと思うんだけど、アメルさんと会う前も探していたけど見つけられていない。
そう思っていると、隣の席に移動してきたロズミエルさんが、小さな声で告げる。
「……あの、カイトくん……リリウッド様は、最初の開催の挨拶のあとは居城に戻るから、基本的に会場には居ないよ?」
「え? そうなんですか!?」
「う、うん……どうしてもリリウッド様が居ると、皆が挨拶したがるし、そうじゃなくてもリリウッド様のテーブルに人が集まり過ぎちゃうから、最初と最後の挨拶、あと時々少しだけ顔を出すぐらいだよ」
「なるほど……どうりで、見つからないわけですね」
言われてみればなるほどという感じだ。たしかに、いくら挨拶とかは不要としていても、六王であるリリウッドさんの居る場所に人が集中するのは分かり切っている。
リリウッドさんの意図としては、ハーモニックシンフォニーの打ち上げというだけでなく、界王配下の人たちと招待客の交流にも重きを置いていると思う。
なので、自分のところに人が集中するような状況は望むところではないのだろう。
「……リリウッド様は、ひとつ上の階のバルコニーから会場の様子を見ていますので、そちらに向かえば会うことができますよ」
そう言って説明しながら、カミリアさんはなにか懐から小さなカードを取り出し、そこにペンでなにかを書き込んだあとで俺に渡してくれた。
「このカードを入り口にいる界王配下に渡してください。リリウッド様の場所に案内するように指示を書いておきましたので……」
「わざわざすみません、ありがとうございます。それじゃあ、この紅茶を飲み終わったら、ちょっとリリウッドさんに挨拶に行ってきます」
俺がリリウッドさんに挨拶ができるように取り計らってくれたカミリアさんに感謝しつつ、せっかく淹れてもらったので紅茶はいただいていくことにした。
「カ、カイトくん……よかったら、食べて」
「ありがとうございます。あっ、前に作ってきてくれた薔薇のクッキーですね。これ、すごく美味しかったので、また食べれて嬉しいです」
「そ、そう? 気に入ってもらえたなら、私も嬉しいよ。ま、また、言ってくれれば、いつでも作るからね」
ロズミエルさんが差し出してくれたのは、以前訪問してくれた際にも焼いてきてくれた薔薇の花弁が入ったクッキーだ。
上品な味わいで、普段食べるクッキーとはまた違う感じで、とても美味しい。
「あっ、そうだ。カイトくんに、少し聞きたいことがあったんだ」
「聞きたいことですか?」
「う、うん。カイトくんは、シンフォニア王都に住んでたよね? 王立美術館で古典芸術展が開かれるらしいんだけど、いつからか分かるかな?」
「う、う~ん、生憎と知りませんね。また調べて連絡しますよ」
展覧会の開始時期どころか、そもそも王立美術館に行ったことが無いので、よく分からないが……ネットとかもないわけだし、現地に住んでる人に聞くのが手っ取り早いのは理解できる。
せっかく頼ってくれたんだし、なんとか力になりたいものだ。
「え? そ、そんな、悪いよ……」
「いえいえ、少し調べればわかると思いますから……また、ハミングバードで連絡しますね」
「あ、ありがとう……カイトくんは、本当に優しいね」
そう言ってはにかむように小さく笑うロズミエルさん……すぐにまた表情は固まってしまったが、ほんの一瞬でもそういった顔を見せてくれるのは、それだけ俺のことを信頼してくれてるのだろうと思うと、なんだか嬉しかった。
シリアス先輩「新ヒロインの好感度を爆上げしたかと思えば、他のヒロインの好感度も上げてた……いい加減にしろよ主人公。しかも、このあとリリウッドとふたりきりで会うみたいなフラグもガッチリ建てやがって……」




