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黒き翼②



 偶然知り合ったアメルさんとのお茶、色は真っ黒だが味は普通の紅茶を飲みながら、アメルさんと言葉を交わす。


「……そういえば、アメルさんは、有翼族……でいいんですよね?」

「その通りだけど。なにか疑問に思う部分があったのかい? あぁ、なるほど、分かるよ。この黒い翼だろう? なに、大したことじゃないさ、少し夜の闇に染まってしまっただけだ。いや、もしかすると染まってしまったのは世界で、この翼はソレに反抗して黒くなったのかもしれないね」

「あ、いえ、えっと……有翼族の方を見るのは初めてだったので……」


 ここまでの会話でアメルさんが思いっきり思春期特有の病気を患っているのは理解できた。ある程度は聞き流しつつ対応するのがいいだろう。

 全てを細かく拾っていたらきりがない……なぜわかるかって? 俺もかつて発症していたからだ。


「有翼族を見たことがない? それは意外だね。それほど珍しい種族ではないのだが、もしかして君は地の獄に捕らわれていたりしたのだろうか?」

「いえ、えっと、俺は異世界人なので、単純にいままで見かけたことがなかっただけです」

「異世界人!? わ、わわっ、凄い! ボク、初めて会っ――こほん。異なる世界からの来訪者だったか、先に感じた運命の片鱗が見えた気がするね。特別な者というのは惹かれ合うか……ふふ、やはり世界は面白い」


 ……なんかいま、一瞬素みたいなの出てた気がするが、たぶん触れない方がいいのだろう。


「やっぱり異世界人は珍しいですか? まぁ、たしかに、勇者役とかと勇者祭で見かけたとしても、会話する機会はほとんどないでしょうしね」

「それもあるけど、ボクもまた戒めを持つ身ということさ。檻とは言わないよ、ボクにとっては世界そのものが檻のようなものさ。自由でいたいとは思うが、悲しいかな人には立場があり役割がある」

「……えっと、アメルさんは高い立場に居る人ということでしょうか?」

「ボクとしてはそんなしがらみは遠慮したいのだが、救いを求める声には応じてしまう性質でね。不本意ながら頂点に担ぎ上げられてしまっている。同族たちにとって、ボクという存在は太陽の如く眩しいのだろうね」


 う~んと、えっと……要約すると、最初の翼が特別云々の話から察するにアメルさんは有翼族の特殊個体で、本人的には望んでいるわけではないが、同族たちに長として担ぎ上げられているので、自由な時間はそれほど多くないとか、そんな感じかな?


「へぇ、アメルさんは有翼族の長なんですか、凄いですね。たしかに、カリスマ性とかありそうですしね」

「え、えへへ、そっかなぁ? そんなに凄いかなぁ……んんっ。ま、まぁ、優秀過ぎるというのも考えものというわけだね」


 時々うっかり素が出でおり、なんというか素の時はやたら可愛い声になっている。

 まぁ、確実に言えるのは、いまの喋り方に関しては完全にキャラを作ってるということだ。まぁ、悪い人じゃないというのは伝わってくる。


「……ああ、そうだ。アメルさん、お茶を出してもらったのでお菓子はいかがですか? チョコレートなんですけど……」

「漆黒の欠片か……美しいな。まるで夜に輝く星々のようだ、君の気遣いに感謝を――美味しいっ!?」


 不敵な笑みを浮かべつつ、チョコレートをひとつ手に取って食べたアメルさんは、よほど美味しかったのか目を輝かせて笑顔を浮かべる。


「凄いな、こんな美味しいチョコレート初めて食べたよ。いったいどこで買ったの?」

「ああ、これは、俺の家で栽培しているカカオで作ったチョコレートなんです」

「そうなんだ。ミヤマくんの家にはカカオがあるんだね! 凄いよ――っ!? し、失礼、精神の汚染が……くっ、大人しく封印されていろ……」


キラッキラの目で子供のように話していたアメルさんだが、途中でハッとした表情を浮かべたあと、包帯の巻かれた右腕を抑えつつ小芝居を始めた。

 そのまましばらく「くっ」とか言いながら、右腕と格闘したあとで、軽く肩で息をしながら俺の方に向き直る。


「……えっと、大丈夫ですか?」

「ああ、すまない、心配をかけたね。この右腕に宿る力はなかなか厄介でね。油断すると、ボクの精神を蝕もうと牙を向いてくるのさ。さすがは深淵の力とでもいうべきか、だがボクは呑まれたりはしないさ」

「た、大変ですね」

「こうして君のような理解者を得られたことは、今後の大きな助けになってくれるだろう。もしかしたら君は、ボクが探し求めていた闇の中に輝く一筋の光なのかもしれないね」


 おかしいな? 特別なことはしてない筈なのだが、会話する度にアメルさんからの好感度が上がっている気がする。

 なんか俺が己にとっての光かもしれないとか訳の分からないこと言い始めたし……あと、いつのまにか、理解者認定されてるんだけど……どうなってるんだ!?


「やはり、君との出会いは雷の一撃だった。君は、ボクに大いなる変革をもたらしてくれる……そんな気がするよ」

「……は、はぁ、なるほど……」


 よくはわからないが、なぜか相当気に入られてしまっているらしい。なぜだ? まさか、俺がかつて同じ病を患っていたことに気付いたとでもいうのか……。





シリアス先輩「説明しよう! 雷の一撃とはフランス語で『Le(un) coup de foudre【ル(アン)クゥドゥフードル】』……『一目惚れ』って意味で使われる言葉だ! つまり、早い話が、快人に一目ぼれしたってそう言うことなんだよ!? くそがっ!!」

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― 新着の感想 ―
[良い点] アメルさんが好きぃ...
[一言] 大丈夫?アメルさん。その人、六王の知り合いで三王の恋人だけど卒倒しない…?
[一言] S先輩を彷彿とさせる展開の速さ
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