お茶会⑦
アイシスさんのテーブルはなんというか、非常に居心地がいい。恋人であり、天使といっても過言ではないアイシスさんと過ごす時間が楽しいのはもちろんだが、他のアイシスさんの配下の方とも話しやすい。
イリスさんは元々知り合いであり、家の地下にあるバーなどで聞き上手の性格であることは分かっていた。
ポラリスさんは、やや緊張が見て取れるものの会話がおかしくなったりということもなく、ごく普通に会話ができた。ただやはり、ところどころで強い尊敬の念というかそんなのを感じるのは不思議だが……まぁ、十魔と違ってこっちに変な害があるわけでもないので問題ない。
シリウスさんは実直な性格の騎士といった感じで、話していると真面目さが伝わってくる。会話の話題では鍛錬に関するものが多いので、戦王五将とかと話が合いそうな気がする。
とまぁ、そんな感じ皆性格がよくて話しやすい上に、イリスさんが上手く話しと話を繋げたりしてくれるので、会話が弾んでとても楽しかった。
「……う~ん、出来ればこのままここに居たいんですが、招待してくれたリリウッドさんとかとも話そうと思っているので、そろそろ俺は失礼しますね」
もうしばらく居たいという気持ちはあるものの、他の場所を回りたいという気持ちもある。特に……挨拶は不要ということではあるが、それでもリリウッドさんとも話したいと思う。
なので後ろ髪を引かれる思いがありつつも、断りを入れて席を立つ。
「……うん……わかった……私たちは……しばらくこの席にいるから」
「はい。また、他を回ったあとで時間があれば遊びに来ますね」
微笑みながら頷くアイシスさんに、軽く頭を下げたあと、イリスさん、ポラリスさん、シリウスさんとも一言二言話してから、テーブルを離れて他の場所に移動することにした。
……えっと、リリウッドさんはどこの席にいるんだろうか? ここからじゃ見えないし、移動しながら探すとするか……途中で知り合いがいれば話をするのもいいだろう。
ゼクスさんも居たし、他にも俺の知り合いが招待されている可能性もあるので、誰と会えるかちょっと楽しみではある……リリアさんの胃を心配する必要もないし……。
快人が去ったあと、アイシスと配下の三人は穏やかに会話をしつつ、お茶を楽しんでいた。
そしてそのテーブルを遠目に見つめながら、不思議そう……というよりは、なにかを考えるような表情を浮かべている者たちもいた。
死王アイシス・レムナント……彼女は、魔界はおろか世界単位で見てもトップレベルに恐れられている存在であり、死の象徴として有名だ。
故にこうした場で距離を取られるのは、アイシスにとっていつも通りのことであり、快人と恋人になって複数の配下を得たいまとなっては、まったくと言っていいほど気にしていなかった。
だからこそ、まだアイシス自身は気付いていなかった。アイシスを見る周囲の目が変わりはじめ……恐れ以外の感情が宿り始めていることに……。
そもそもの話ではあるが、アイシスは勇者祭以外の祭りや今回のような行事にはほぼ参加することはなかった。そういう場に出ると、己が拒絶されているのだと深く思い知ることになったから……。
しかしそれは逆に言えば、多くの者たちにとってもアイシスという存在を知る機会が少ないとも言えた。結果、死の魔力と噂話によって圧倒的な恐怖の対象と思われているものの、その実……たとえ爵位級であっても、アイシスと直接会話をしたことがあるものは少ないというのが実情だった。
もちろん快人と巡り合うまでのアイシスは、苛立ちから常に周囲を強く威圧していたというのも原因ではある。
だが、快人によって救われ、アイシス自身に変化が起きたことで……様々な部分に影響が表れ始めていた。言うなれば、凍りついていた大きな歯車が動き出したことで、連動していままで動かなかったはずの歯車たちも動き始めたとでもいうべきだろうか……。
「……あれって、死王アイシス様だよね?」
「うん」
「噂と違って、全然怖そうじゃないというか……魔力は凄いけど、優しそうな顔で笑ってるよね」
「たしかに、思ってたのと違うね」
アイシスの居るテーブルから少し離れた場所で会話をするのは、界王配下に属する子爵級の魔族がふたり……想像とは違って穏やかに配下と会話を楽しんでいるアイシスを見て、興味を抱いた様子だった。
実際、それ以外にもアイシスを見る目は変化している。六王祭や白神祭、そして今回のお茶会などでアイシスを見た者たちは、「噂ほど恐ろしい感じはない。というよりむしろ優しそう」という印象を抱くことが多かった。
それは徐々に行動にも繋がっていく……界王配下のふたりは互いに顔を見合わせて頷き合ったあとで、アイシスたちの居るテーブルに、少し恐る恐るといった様子で近付く。
そして、ふたりの接近に首を傾げるアイシスに、深く頭を下げながら口を開く。
「あ、あの、突然失礼します。し、死王様……えっと、私たちは界王配下の者なんですが……」
「もしご迷惑でなければ、お話とかさせていただければと……」
「……っ!?」
ふたりの言葉に、アイシスは心底驚いたといったような表情を浮かべた。なにせ、いままでにそんなことは一度もなかったのだから……。
だが、少しすれば嬉しさの方が勝り、アイシスは優し気な笑みを浮かべながら頷く。
「……うん……私も話してみたい……よければ……座って」
「「ありがとうございます!」」
快く承諾してくれたアイシスをみて、ふたりは嬉しそうな表情を浮かべて席に座る。その様子は周囲の目にも印象深く映っていた。
無論死の魔力がある以上、誰でも近付けるというわけではないのだが、死の魔力に耐えられる実力がある爵位級の者たちの中には、同様にアイシスと話をしてみたいと思う者もいた。
まるですべてが連動するように……宮間快人というひとつの特異点を切っ掛けとして、かつてアイシスが願った多くの幸せが、現実となりつつあった。
シリアス先輩「実際、本人の性格以外の要素で恐れられてたわけだし、偏見とかも強かっただろうから、その辺が解消されてくると変化は表れても不思議じゃないよな」
???「いまは、アイシスさんは幸せいっぱいで死の魔力が周囲に与える圧もかなり弱めですから、本当に爵位級レベルであれば、普通に会話できるでしょうね」




