お茶会⑥
ラサルさんに関する話がひと段落してゼクスさんが席を立ったあとで、アイシスさんがなにやらクッキーのようなものを取り出して、俺の前に置いてくれた。
「……クッキー……焼いてきた……どうぞ……カイト」
「ありがとうございます。ミックスベリーですかね? すごく美味しそうです。あっ、俺もチョコレートを持って来たので皆さんで召し上がってください」
ちなみにアイシスさんはもちろんネピュラの紅茶に関しては、以前家に遊びに来たときに出したので知っている。アイシスさんも紅茶をよく飲むので、茶葉をとも考えたのだが……やはり使いこなすのが難しくて断念した。
ただ、このチョコレートはまだ見せていない。というか、俺も数日前にネピュラに教えてもらうまで知らなかったので、目新しさもあると思う。
そんなことを考えていると、アイシスさんはクッキーをひとつ手に持ち、それをふたつに割ってから、零れないように手を添えて俺の方に差し出してきた。
「……はい……カイト……どうぞ」
「え? あっ、えっと……い、いただきます」
どうやら食べさせてくれるらしい。ふたりきりならともかくこの場では少々気恥ずかしさが強いのだが、楽し気なアイシスさんの顔を前に拒否するなどという選択を選べるわけもなく、俺は口を開けてクッキーを食べる。
ミックスベリーの甘酸っぱさとクッキーの味が程よく、とても美味しい。
「……すごく美味しいです」
「……カイトが喜んでくれたなら……私も……嬉しい」
なんとなくではあるが、アイシスさんのお菓子作りの腕も以前より上がっている気がする。
そして、軽く周囲を見て見るが……やはり、アイシスさんの死の魔力の影響もあり、あまり近くに人がいないため、注目を集めたりはしていないみたいだ。
ただし、イリスさん、ポラリスさん、シリウスさんは同じテーブルなのでバッチリ今のやり取りは見ており、なんというか……大変微笑まし気な表情を浮かべていた。
感応魔法から伝わってくる感情から読み取るに、アイシスさんが幸せそうで嬉しいという感じがした。
イリスさんのことは以前から知っているが、ポラリスさんとシリウスさんも純粋にアイシスさんを慕っている感じというか、いい関係を築けているような印象を受ける。
「あっ、そういえば、アイシスさん」
「……うん?」
「ネピュラが、アイシスさんに会ったら渡してくれって預かってたものがあるんです」
「……ネピュラが?」
そう、実は今日のお茶会に向かう前に、ネピュラから渡されていたものがあった。アイシスさんがお茶会に来るというのは、ハミングバードで連絡を貰って分かっていたので、会えたら渡して欲しいと言われていた。
ちなみに、渡されたのは高級感のある小さな木の箱だ。
「コレです。えっと、ネピュラがオリジナルの細工砂糖を作ってたのは知ってますよね?」
「……うん……すごく綺麗なの……私もアソートで……貰った」
「それで、アイシスさんをイメージした細工砂糖を作ったので、渡して欲しいと……」
「……私を?」
不思議そうに首を傾げるアイシスさんの前で、箱を開けると……中には口の広い瓶が入っており、中には砂糖らしきものが入っていた。
ただ、ネピュラの作品にしては珍しく、凝った見た目というわけではなく、普通の角砂糖の形を水晶っぽくしただけのものに見えた。
「……水晶? いや、氷ですかね?」
「……私が……氷の魔法をよく使うから……かな?」
「あ~なるほど、たぶん紅茶に入れると変化があるんだと思いますけど、入れてみますか?」
「……うん……ネピュラがせっかく作ってくれたんだし……見たい」
死の魔力を恐れないネピュラとアイシスさんの仲は良好で、俺の家に遊びに来たときはよく話している。というか、最初こそリリアさんたちも恐れていたが、ある程度接していればアイシスさんが優しい人だということはすぐにわかる。
そうなると、リリアさんなどは元々実力的には死の魔力のあるアイシスさんに近付けるわけだし、会話する機会も増えるというわけだ。
というか、俺の家に関して言えば、アニマ、キャラウェイ、イータ、シータ、イルネスさんと皆爵位級の実力者なので、普通に会話することができる。
「……わぁ……凄い」
「これは、綺麗ですね。見た目にそこまで凝った感じがしなかったので不思議に思っていましたが、演出の方に思いっきり凝ってたんですね」
アイシスさんが水晶の形の砂糖を紅茶に入れると、砂糖は瞬く間に姿を変え小さな太陽と月、そして複数のハートの形に変わったあとで溶けていった。
「……きっと……太陽は……カイトだね」
「じゃあ、月はアイシスさんってことですかね?」
「……うん……たぶん」
氷が溶けて太陽と月……俺とアイシスさんが、たくさんのハート……ラブラブであるという感じのことを表現したのかもしれない。
本当になんとも凝った演出である。そして、これを渡された際にネピュラが言っていた『他の方のも順に作ってます』という言葉の意味もなんとなく分かった。
たぶん、一通りの細工砂糖が完成したあとは、俺と恋人たちをテーマに細工砂糖を作っているのだろう。ちょっと照れ臭くはあるが、なんというか……やっぱり嬉しく、なんだが幸せな気分だった。
アイシスさんも同じ気持ちなのか、そっとテーブルの下て俺の手を握ってきたので、俺も少し強めに握り返した。
シリアス先輩「さすがに死霊の大賢者と言えども、イキって突撃かました挙句、姿見ただけで心が折れて初手土下座かました結果配下になったとは気づかなかったみたいだな……」
???「……いや、シリアス先輩……それ前回の話です。現実逃避はやめてください」
シリアス先輩「……いちゃらぶやめろ……」




