お茶会⑤
お待たせしました。書籍版十三巻の発売日は『7月4日』です! 公式HPなどは活動報告に記載してあります。
アイシスさんの新しい配下であるラサルさんと知り合いであるというゼクスさんの話には、アイシスさんだけでなくイリスさんたちも気になったみたいで、イリスさんが席を用意してゼクスさんはその席に座って語り始めた。
「……ラサル・マルフェク。死の殉教者という通り名で呼ばれる死霊術士で、ワシの知る限り間違いなく死霊術士としては魔界でトップでしょう。ただ、少々変わり者といいますかな、己の研究以外に興味がないところがありまして、黒い森の最深部にある洞窟に籠り、ひたすら研究だけを行っているような方ですな。それこそ、数千年に一度洞窟の外に出るかどうかというレベルで研究に没頭していましたな」
「す、数千年に一度?」
ゼクスさんの言葉に驚きながら聞き返す。要は、数千年洞窟に引きこもって研究ばかりしている方って感じか? いや、数千年に一度外に出るかどうかということは……通算だとそれこそ数万年とかの単位で、洞窟でひとり研究をしていたということかもしれない。
それはまた、なんというか……とんでもないな。
「ワシも死霊術を嗜む身ということもあり、それが縁で知り合った形ですな。とはいっても、彼女はおそらくワシの名前すらロクに覚えていないでしょうな。本当に研究以外には全く無関心で……しかしですな、つい最近会った際に、珍しく……いえ、初めてラサル殿に質問されたのですよ。死王……アイシス様に付いて」
「……私のことを?」
「ええ、不思議に思っておりましたが……いま思えば、おそらく彼女は長年続けていた研究に完成の目処が立ち、その後の身の振りを考えていたのでしょう。おそらくワシに質問した時にはすでに、アイシス様の配下になることを決めていたのでしょうな」
「……そうなんだ……それで……研究が終わってすぐ……急いで会いに来てくれたんだ……ふふ……嬉しい」
ゼクスさんはつい最近あった際にアイシスさんについて聞かれたと言っていたので、ラサルさんは本当に研究を完成させてすぐにアイシスさんの元へ配下になりに向かったわけだ。
ただ、話を聞く限りそれまでアイシスさんと接点があった感じではないけど……?
「ただ、やはり、彼女が誰かに仕えているという姿はイメージしにくいですな。アイシス様、ラサル殿はどんな感じでしょうか?」
「……ラサルは……すごく頭がいい……それに私のことを心配してくれて……いろいろアドバイスしてくれる……凄く……優しい子だと思う」
「ほぅ、それはそれは、意外と面倒見がいい一面もあるのでしょうかな? しかし、そうですな、彼女は切れ者ですしかなり慎重に事を運ぶタイプなので、今後アイシス様の参謀として素晴らしい働きが期待できそうですな」
「……うん……ラサルは……とっても頼りになる」
う~ん、アイシスさんの話しぶりを聞く限り、本当にいい人っぽい感じだ。もしかしたら、アイシスさんが覚えてないだけでどこかで会ったことがあるとか、あるいは元々アイシスさんに憧れてたりしたのかもしれない。
一応他の人の意見も聞いてみたいと思って、ゼクスさんとアイシスさんの話を聞きつつイリスさんにも尋ねてみることにした。
「イリスさんから見て、ラサルさんはどんな感じですか?」
「アイシス様のいう通り、かなり切れ者ではあるな。挑発的な言動をして、シリウスとよく喧嘩をしているが、それ以外に問題がありそうな部分はない。実際、先にアイシス様が口にしていたように、場合によってはアイシス様を窘めたりといった行動も取っていたし、アイシス様の面子を心配しているような様子であったな」
「なるほど、じゃあ、やっぱりアイシスさんの言う通り、いい人っぽいですね」
一瞬、なんの接点もないのにいきなり配下になるなんて、なにか別の目的でもあるんじゃないかと疑ってしまったが、話を聞く限り本当に面倒見のいい優しい人のようだ。
「ワシとしては少し意外ではありましたが、ワシと会っていた時と比べて、研究がひと段落したことで精神的にも余裕があるのやもしれませんな。まぁ、なにはともあれ、よい関係を築けているようなら、素晴らしいことですな」
「……うん……今回一緒に来れなかったのは残念だけど……また今度……カイトにも紹介するね」
「はい、楽しみにしていますね」
そうしてラサルさんの話がひと段落したタイミングで、ゼクスさんは席から立ち上がってアイシスさんに一礼する。
「それでは、ワシはこれで、長々と失礼いたしました」
「……ううん……気にしないで……よかったらまた……ラサルに会いに来てあげて……たぶん……喜ぶとおもうから」
「そうですな、またの機会にお邪魔させていただきます」
優しく微笑むアイシスさんに対し、ゼクスさんは綺麗な所作で一礼して去っていった。
アイシスさんの新しい配下……ラサルさんか、今回いろいろ知って興味が出たので、出来れば早いうちに顔合わせをしたいものだ。




