お茶会②
お茶会は最初にリリウッドさんが開始の挨拶を行う以外は、本当に自由な形であり、初期のテーブルにも指定が無いので、俺は宣言した通りジュティアさん、エリアルさん、ティルさんの居るテーブルにお邪魔して開催を待っていた。
「楽しみですね~カイトクンさんの用意した紅茶さん、ティルも早く飲みたいですよ」
「同感……つまりは、私も楽しみにしている。期待が抑えられない様子……つまりは、ジュティアは私たち以上に待ち切れない感じがするね」
ニコニコと可愛らしい笑顔で話すティルさんと、穏やかに微笑みながら告げるエリアルさん。ふたりが仲が良いという話は聞いていたが、何気にこうして一緒に居るのを見るのは初めてかもしれない。
そして、エリアルさんの言葉通り、ジュティアさんは開始時間が近づいてきたこともあって、ソワソワと少し落ち着かない様子だ。
ジュティアさんはかなり小柄であり、ソワソワと体を小さく動かしている姿は、なんというかとても可愛らしかった。
そうこうしていると奥からリリウッドさんが現れ、拡声魔法で軽く挨拶をする。本当に簡単な内容で、ハーモニックシンフォニーではお疲れ様、今日はゆっくり親睦を深めて欲しいとそんな感じだった。
ともあれこれで、お茶会は開始ということになり……ジュティアさんのもう待ち切れないというような視線が突き刺さる。
それに苦笑しつつ、俺はマジックボックスから紅茶の入ったポットを取り出す。
「えっと、一応この中に入ってるんですが……俺、あまり詳しくなくって、注ぎ方とかもあるんですかね?」
なんか空気を含ませるように注いだりとか、そんなのを聞いたような覚えもある。
「そうだね。それなら、それなら、ボクが淹れようか?」
「あっ、お願いしていいですか」
「うんうん、任せて、任せて」
ジュティアさんは俺からポットを受け取ると、四つのカップを用意して慣れた手つきで紅茶を注いでいく。
「おやおや? おやおや? グロリアスティーに見えるけど……」
「ああ、ネピュラの茶葉はそれ単体で使うものじゃなくて、ブレンドして使うものなので」
「なるほど、なるほど……」
ジュティアさんは俺の言葉に相槌を打ちながらも真剣な表情でカップを見つめており、注ぎ終わったカップを俺、エリアルさん、ティルさんの前に置くとチラリとこちらを見た。
飲んでいいか? という確認のようだったので頷くと、ジュティアさんは少し緊張した面持ちで紅茶を一口飲み、驚愕に目を見開いた。
「なっ!? なにこれ!? なにこれ!? 凄い、凄いよ……味は間違いなくグロリアスティーだけど、ボクがどんな淹れ方をしたとしても、この味は出せない……どど、どうなってるの、ぜ、全然分からない!? なんで、なんで、この味が出せるの……」
心底驚愕したという表情のジュティアさん……たぶんというか、間違いなくジュティアさんは相当の紅茶好きであり、それこそアインさんのようにあらゆる紅茶を知り尽くしているのだろう。
だからこそ120%までに高められた味に、心の底から驚愕しているのだろう。
「驚愕……つまりは、私も驚いた。差か明らか……つまりは、前に飲んだグロリアスティーより明らかに美味しい」
「はわわ、凄いですよ。こんな美味しい紅茶さん、初めて飲んだです」
エリアルさんとティルさんも、紅茶の美味しさに驚いたような表情を浮かべているが、やはりジュティアさんの反応が劇的である。
ジュティアさんはしばらくブツブツと呟きながら紅茶を見つめていたが、不意に勢いよく顔を上げてこちらに詰め寄ってきた。
「カイト! 教えて、教えて、どういう茶葉を使えばこの味が出せるの!?」
「えっと、この茶葉は……」
興奮気味のジュティアさんに対し、俺はネピュラの茶葉について簡潔に説明していく。話を聞くたびにジュティアさんは目を見開き、本当に心の底から驚いているといった様子の表情を浮かべていた。
そして一通り説明が終わると、ジュティアさんは顎に手を当て真剣な表情で考え込む。
「……凄いよ、凄いよ。発想もそうだけど、なにより元の紅茶の味をまったく邪魔せずに、純粋に雑味だけを足せる茶葉っていうのが凄すぎるんだぜぃ。コレがあれば、コレがあれば、アレとかあの紅茶の味も……い、いや、それだけじゃない。この茶葉を使えば、いままでは駄目だった組み合わせのブレンドも、この茶葉を合わせることで調和するかも……本当に、本当に、この茶葉は……紅茶の革命だぜぃ」
「あ、あの、ジュティアさん?」
思った以上に真剣というか、鬼気迫るような表情で考え込んでいる。アインさんの時もそうだったが、やはりネピュラの茶葉は紅茶を知り尽くした人にとっては、とてつもなく魅力的なのだろう。
と、そんなことを考えているとジュティアさんが真剣な目で俺を見たあと、ガバッと椅子から降りて土下座した……ちょっと待って、なにしてるの!?
「ちょっ、ジュティアさん!?」
「カイト! 無茶なお願いなのは分かってる。でもでも、でもでも、ボクはどうしても、この茶葉が欲しいんだ……いくらでも出すから、なんとか融通を……」
「と、とりあえず起き上がってください!?」
いきなり土下座!? そこまでするほど欲しいのか……とりあえず、注目がえげつないので慌ててジュティアさんに土下座を止めさせる。
「……えっと、変な感じになっちゃいましたが、ジュティアさんも欲しがると思ってこの茶葉は一缶お土産に用意してます」
「ッ!?」
「あ、あと、ネピュラにも確認してまして、もしジュティアさんが欲しいようならアインさんと同じく月に一缶ほど譲ることも出来るみたいなんですが、まぁ、詳しい話はまたネピュラと直接話してもらうことに――うぉっ!?」
アインさんのように定期的に欲しくなるのではと思ったので、ネピュラにはちゃんと事前に確認しており、ジュティアさんに譲るのは問題ないとのことだ。
アインさんはお金を払って買っているみたいなので、その辺の値段交渉は後日ネピュラとしてもらうことになる……という話をしていると、感極まった表情のジュティアさんに飛び疲れた。
「カイトッ!? ありがとう、ありがとう!」
「ジュ、ジュティアさん、お、落ち着いて……」
なんか森の香りというか、いい匂いがするし、抱き着いてくるジュティアさんの体は少し体温が高いのか温かくて柔らかい。
テンションがとんでも無いことになっているジュティアさんは、嬉しそうに俺に抱き着いていて、なんとか宥めるまでにそれなりの時間を要することとなった。
シリアス先輩「あぁ、そっか……アインの時は事前にクロがテンションを抑えるようにって言ってたから、土下座とかその辺りのくだりを快人は知らないのか……」




