ハーモニックシンフォニー後編⑥
界王配下の人たちによる合唱は見事なものだった。かなりの人数の合唱で迫力もあったし、歌のレベルもかなり高くて、コレがメインイベントと言われても信じてしまいそうなほどに素晴らしかった。
そして会場が十分に温まっている状態で、リリウッドさんが登場した。いつもより豪華な服に身を包み、悠然とステージを歩くリリウッドさんは、まさに王と呼べる雰囲気があった。
リリウッドさんはそのままステージの中央に移動し、一度目を閉じて沈黙したあとで歌い始めた。
その歌はまさに圧巻だった。ひとりで歌っているはずで、決して滅茶苦茶声が大きいわけではない。しかしよく通る歌声は広場全体に響き渡り、聞く人の心を揺さぶる。
誕生日パーティの時の歌とは全く違う、圧倒的な存在感を感じる歌声はまさに圧巻の一言だった。
あまりにも凄まじい歌声に圧倒されているうちに歌は終わり、少しして割れんばかりの拍手が巻き起こった。
「……す、凄かったですね。快人先輩の誕生日パーティの時のカラオケ大会とは全然違うというか……」
「リリウッドが本気で歌えば、ボクも敵わないぐらいだしね」
クロの歌の上手さは俺もよく知っている。あの時のカラオケ大会でも、シロさんを除けばアリスかクロが一番歌が上手いと感じた。
そのクロが明確に敵わないと口にするぐらいのレベル……実際に聞いてみると、たしかに凄まじい歌声だった。それこそ、アリスでも敵わないかもしれない。
……まぁ、それでも、なおシロさんは別格だったのは、やはり流石というべきだが……。
「これで、ハーモニックシンフォニーも終わりなのか?」
「大きなイベントは終わりだけど、いまからしばらくこの広場では演奏が続いて、参加者が思い思いに歌ったり踊ったりできるようになるよ」
「へぇ、それはちょっと面白そうだし、もう少し残っててもいいかもしれないな……ちなみにクロたちは、どうするの?」
「ボクたちは、いまならロズミエルちゃんの最終公演の時間に間に合うから、それを見に行く予定だよ」
「なるほど」
そんなわけで、俺たちはもう少し広場に残ることになり、クロたちはロズミエルさんのミュージカルを見に転移魔法で移動していった。
リリウッドさんの歌が終わり、自由参加の音楽が流れる広場の雰囲気は……少し違うかもしれないが、盆踊りに近いイメージだった。
広場の中央付近で思い思いに踊ったり歌っている人たちと、それを遠巻きに見ている人たちという形で別れている。
俺たちも踊りや歌には参加せず、見学しながら楽し気な雰囲気を感じて雑談をしていた。
そのまましばらく眺めたあとで、そろそろ戻ろうかという話になったタイミングで不意に目の前をローブを着て顔を隠した人が横切ったかと思うと……。
「え? あっ、ちょっ!?」
そのまま、その人にすれ違いざまに手を掴まれて引っ張られたかと思うと、あれよあれよという間に中央付近の踊りを踊っている人たちの近くまで連れていかれてしまった。
なんだこれ? なにがどうなってるんだ?
俺が混乱していると、ローブの人は俺の手を取り、正面に向かい合うような体勢……いわゆる社交ダンスのような形になる。
そしてそのタイミングでようやく正面から見たことで、そのローブの人が誰かが分かった。
「え? リリウ――」
『しっ、出来れば名前は呼ばないでください。認識阻害魔法をかけてはいますが気付かれる可能性があるので』
「――あ、はい」
そう、ローブの人物はなんとリリウッドさんだった。ますます状況が分からないというか、そもそもなんでリリウッドさんがここに居るのだろうか?
首を傾げる俺の様子を見て察したのか、リリウッドさんは苦笑を浮かべながら説明をしてくれる。
『実は毎回、この広場の行事では皆の歌ったり踊ったりする姿を見に来ていたんです。今回はたまたまその際に貴方を見つけたので、つい嬉しくなってしまって、連れてきてしまいました。ごめんなさい』
「い、いえ、驚きはしましたけど……大丈夫です。けど、俺、なにをすればいいかよく分からないのですが……」
『ふふふ、少しだけ一緒に踊ってくれれば嬉しいです。もちろんリードはしますので……』
「わ、わかりました」
楽し気な笑顔を浮かべるリリウッドさんの言葉に頷くと、リリウッドさんは言葉通りに俺をリードして踊り始めた。
正面から密着すると、リリウッドさんの大変豊かな胸が当たるので俺としてはドギマギしまくりだったが、リリウッドさんは本当に楽しそうな表情を浮かべていた。
『カイトさんが来ているのは聞いていましたが、中々会う機会がなくて残念に思っていたのですが……こうして偶然会えたのは本当に嬉しいですね』
「えっと、俺もこうして会えて嬉しく思いますし、こうして踊るのも結構楽しいですね」
『そう言ってもらえると、ありがたいです。では、もう少しだけ私のワガママに付き合ってください』
不意打ち気味ではあったが、こうしてリリウッドさんと会えたのは素直に嬉しいに、なによりリリウッドさんが俺と会えたことを喜んでくれているのが、なによりも嬉しく感じた。
そうして俺は……楽しげに笑うリリウッドさんと共に、綺麗な音楽に合わせてしばしの間踊り続けた。
シリアス先輩「馬鹿なっ……ヒロイン力が、上がった……だと……」




