ハーモニックシンフォニー後編②
ロズミエルさんに挨拶を終えたあと、なんとここでも舞台がよく見える席を特別に用意してくれてるみたいで、皆は一足先にそちらに移動。まだ時間に余裕があるため、俺が少しロズミエルさんと話をしていくことにした。
「舞台の準備とかは大丈夫ですか?」
「うん。私は本当に中盤と後半に少しだけ出て歌うだけだから」
ロズミエルさんは他に人がいると緊張から小声で話すが、話せる相手だけが居る場合は普通のトーンで話す。
囁くような小声で話すときは、人見知りが発動しているといった感じだ。
「それは、えっと……大丈夫なんですか?」
「ある程度距離があれば……あと、誰かと喋ったりするわけじゃなくて歌うだけだしね」
なるほど、そういえば近づかれると距離を取ろうとしていたりしたし、ある程度離れていれば大丈夫なんだろう。
そう考えていると、ロズミエルさんはスッと立ち上がりながら口を開く。
「カイトくん、紅茶でいいかな?」
「え? あっ、すみません気を使わせちゃったみたいで」
「ううん、気にしないで。公演時間もあるから、そんなにゆっくりとはできないけど、少しお茶するぐらいの時間はありそうだしね」
そう言いながらロズミエルさんが手に魔法陣を浮かべると、俺の前に丸テーブルと椅子が出現する。俺が席に付くと、すぐにロズミエルさんは紅茶を淹れて俺の前に出してくれた。
「ありがとうございます。そういえば、ロズミエルさんのところで七姫の出し物は全部回り終わるんですけど、その後にどこに行こうか迷ってまして、オススメとかありますか?」
「う、う~んと……次の公演の終了時間を考えると……」
俺の質問を聞いたロズミエルさんは、薔薇のデザインの懐中時計を取り出して時刻を確認したあとで告げる。
「中央のリリウッド様の居城の前がいいと思うよ。夕方から夜にかけて、数度リリウッド様が居城前で歌う……このハーモニックシンフォニーのメインって言っていいものがあるから、それを見に行くのがいいと思うよ」
「あっ、なるほど、たしかにリリウッドさんの出し物もあって然るべきですよね。教えてくれてありがとうございます」
「役に立てたなら、よかったよ」
考えてみれば当然ともいえる。七姫の皆がそれぞれ代表となって出し物をしているのだし、リリウッドさんが代表の出し物もあるだろう。
俺の誕生日の時に聞いてリリウッドさんが歌が上手いというのは分かっているが、あの時はリリウッドさんはアイシスさんをメインとしてサポートに徹していたので、メインで歌うのは初めて聞くことになるので楽しみだ。
「あっ、カイトくん。そういえば、カイトくんはお茶会にも招待されてるんだよね?」
「ええ、参加させていただくつもりです」
「そっか、私は毎回このお茶会が苦手で……あ、あんま話したこと人や知らない人もいっぱいくるから……けど、カイトくんが来てくれるなら、少しだけ気が楽だよ」
「……そういえばそうですね。ロズミエルさんは主催側の幹部ですし、挨拶に来る人とかも多そうですよね」
なんとなくではあるが、以前に家に来た際のことなどもありロズミエルさんは俺に対しある程度気を許してくれている感じがする。
少なくとも俺に関しては、緊張せずに話せる相手とは思ってくれているみたいだ。
「俺はお茶会についてもよく知らないんですが、どんなことをするんですか?」
「基本的には自由だよ。いくつもティーセットが用意されたテーブルとかが用意してあっげ、持って来た紅茶を出して迎える側になってもいいし、誰かが用意している席に訪れてもいいし、交流をメインにしてる感じだね」
「なるほど、七姫の方はやっぱりそれぞれテーブルをひとつ担当したりとか?」
「ううん。そういう決まりはないよ。全員で固まることはほとんどないと思うけど、ある程度は固まると思うよ……わ、私は基本的にリアと一緒だと思う。リアが居ないと、怖くて無理だし」
ロズミエルさんに話を聞いた感じで、ある程度お茶会のイメージも湧いてきた。やはりあまり固い感じではなく、七姫の方々にもある程度自由があるみたいな感じだ。
ただ、ロズミエルさんがいっぱいと口にしていたように参加者は多そうな気がする。
そんなことを考えつつ、時計を見ると……そろそろいい時間だった。
「そろそろ時間ですね。俺も観客席の方に向かいます。ミュージカル、楽しみにしてますね」
「う、うん。話に付き合ってくれてありがとう。カイトくんと話せて嬉しかったよ……出し物も楽しんでもらえるように、頑張るね」
「はい」
柔らかく微笑んで軽く手を振るロズミエルさんに一礼して、俺は控室から外に出て観客席に向かった。
シリアス先輩「あっ、そういえばそうだよな。界王陣営主催の行事で、リリウッドが出ないってのはあり得ないよね」




