表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1158/2409

ハーモニックシンフォニー中編Ⅱ⑤



 カミリアさんの出し物を楽しみ、いよいよ七姫の中で最後となるロズミエルさんの出し物に向かうことになったが、まだ少しロズミエルさんの出し物まで時間があるため、先に少しカミリアさんの出し物の会場付近を見学することにした。


 本当にハーモニックシンフォニーではあちこちでいろいろな出し物をやっているので、こうして短い時間を潰すのは簡単である。

 いくつか演奏や創作ダンスなどを見ていると不意に視線を感じて振り返った。するとなにやらひとりの女性がこちらを真剣な表情で見つめていた。


 赤みがかった茶色のセミロングヘア、ウルフカットというのだろうか? 襟周りの髪が外側に跳ねるような髪型の女性。

 タンクトップに皮のジャケット、下はデニムのショートパンツと、ちょっとパンクスタイルっぽい恰好をした女性だった。

 特徴的なのは鋭い釣り目と、なによりも頭の犬……いや、狼のような耳と尻尾、獣人だろうか? 見覚えのない人ではあるが?


「……あの?」

「唐突なことを聞くが、お前はミヤマカイトという人物で間違いないか?」


 なにか用だろうかと声をかけると、女性は真剣な表情のままで問いかけてきた。


「え? ええ、その通りですか?」

「そうか……」


 どうやら女性は俺のことを知っているみたいで、俺が言葉を返すと軽く頷いたあとで、少し考えるような表情を浮かべた。

 そして、数秒の沈黙ののちに口を開く。


「……突然すまない。私はリュコリシアンというものだが、2~3分でかまわない。話をさせてもらってもいいだろうか?」

「ええ、大丈夫ですが……」

「感謝する。本来なら然るべき手順を踏んで会うべきだっただろう。その点に関しては謝罪する。迷惑かとも思ったが、偶然とはいえ巡り合えたのなら声をかけないわけにもいかなくてな……カイトと呼んで構わないか? 私の方もシアンと呼んでくれればいい」

「わかりました。シアンさんですね。それで、俺になにか用でしょうか?」


 シアンさんはどこかクールな印象を受けるそっけない感じの話し方ではあるが、言葉の節々にこちらへの気遣いが感じられるので、悪い人というわけではないと思う。


「お前の家に、キャットレイドが居るだろう? 生意気で慎重さの足りない、思い付いたら突発的に行動するような気まぐれで奔放な馬鹿が……」

「え? えっと、たしかにキャットレイドはいますが……キャラウェイと知り合いなんですか?」

「……出来れば首を横に振りたいが、たしかに知り合いではある。腹立たしいが縁もある……心底嫌いな相手だ」

「……」


 う~ん、悪態は付いている。だけど、言葉ほどキャラウェイのことを嫌っているようには思えなかった。なんとなく、クロノアさんとアインさんの関係というか、口では悪く言いつつもそこまで貶してやろうというような悪意の感情は感じなかった。

 すると、シアンさんは少し考えるような表情を浮かべ、軽く指で頬をかいたあと勢いよく頭を下げた。


「……ありがとう」

「は? な、なんですか? 急に……」

「馬鹿やらかしたアイツを、助けてくれて……お前に会ったら、一度お礼を言おうと思っていた。アイツのことは嫌いだったが、ずっと競い合っていた奴が、あんな風に落ちぶれていくのはどうしようもなく腹が立ってたんだ。けど、私にどうにかする力は無かった。カイトには感謝している」

「……えっと、もし違ってたらすみません。シアンさんは、もしかしてキャラウェイと縄張りが隣同士だったっていう魔族の方、ですか?」

「……ああ」


 やっぱりそうか。以前白神祭でキャラウェイが語っていた縄張りが隣で競い合っていた魔族というのが、シアンさんだったのか。

 確かキャラウェイも、シアンさんのことを嫌味ったらしく腹の立つやつみたいに言っていたが、その反面信頼しているような発言もしていたので、なんだかんだで互いを認め合ったライバルだったんだろう。


 そんなことを考えていると、シアンさんは顔を上げて微笑みながら告げる。


「時間を取らせて悪かった。これで、私の用件は終わりだ……あぁ、できればでかまわないが、私と会ったことはアイツには言わないでくれ」

「……わかりました」

「それじゃあ、これからもあの馬鹿のことをよろしく頼む」

「あっ、シアンさん」

「うん?」


 去ろうとしていたシアンさんを反射的に呼び止めたあと、俺は少し考えてから口を開いた。


「……もしよかったら、また今度うちに遊びに来てください。なんだかんだで、キャラウェイも貴女と会って話がしたいだろうと思いますし……」

「……そう……だな。また、アイツの馬鹿面でも拝みに行くのも一興か……」

「ええ、キャラウェイも喜ぶと思いますよ」

「ふっ……いいやつだな、お前。ちょっと気に入った……じゃあ、また、機会があれば訪ねさせてもらう。じゃあな、カイト」

「はい、また」


 楽しげに笑ったあと、シアンさんはこちらに軽く手を振ってから去っていった。やっぱり、少しだけ言葉遣いは荒めだが、いい人だと思う。





???「……なんて恐ろしいやつなんすか、マキナ。何が恐ろしいって、前にあとがきでも1万字以上、本編とかも合わせるといったいどれだけ長文放ってるか分からないのに『全然話題が尽きる気配がない』ってのが、なにより恐ろしいですね。無尽蔵っすか、アイツ……」

シリアス先輩「ワガコカワイイ、ワガコカワイイ……」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 今気づいたけどワガコカワイイってカイワガコワイのアナグラムなんですね……
[一言] カイトがいつの間にかキャラウェイさんを呼び捨てで呼んでた
[良い点] 洗脳完了してるw [気になる点] シアンさんが、我が子に馴れ馴れしいってママン矯正されないか心配
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ