ハーモニックシンフォニー中編Ⅱ②
クロは言うまでもなく魔界の頂点の一角六王のひとりであり、実質的に魔界のトップと言っていい立ち位置の存在だ。
そして家族たちの長でもあり、子供っぽい外見とは裏腹に穏やかで頼りがいがあり、包容力のある……なんというか、年長者らしい振る舞いが多い。
実際、俺の誕生日や海水浴などの時もそうだったが、大人数が集まると纏め役になるパターンが多く、それだけ様々な人から頼られている存在だ。
そんなクロだが、恋人である俺とふたりきりの時には時々普段よりずっと子供っぽく……表現するなら、甘えたいスイッチがONになるとでもいうべきだろうか、そんな状態になることがある。
これはクロが俺に対してだけ見せる一面であり、個人的には自分がクロにとって特別であることを確認できるというか、この状態のクロを見ていると幸せな気持ちになる。
「えへへ~」
「なんかはしゃいでるな?」
俺にピッタリと密着するように抱き着きながら、少し甘えた声で笑うクロの頭を軽く撫でながら聞き返す。手触りの良いサラサラの髪の感触と、漂ってくる香りがなんとも心地よい。
「こういうイベントでカイトくんと一緒にいると、なんだか嬉しくてね。ほら、白神祭の時とかは一緒に回れなかったしね」
「クロは確か来賓で広場に居たんだっけ?」
「うん。まぁ、どうしても祭り関係だと来賓になるパターンが多くて、なかなか回るのは難しいね。このハーモニックシンフォニーは実際はお祭りみたいなものだけど、名目は自然へ感謝する行事だから来賓とかは呼ばないから」
「なるほど……言われてみればたしかに、こういう祭っぽいので一緒なのは、六王祭以来か……そういえば、俺は2年ぐらい元の世界に帰ってたから知らないんだけど、六王祭って毎年開催にするんだったっけ?」
六王祭は初回のみ招待客での開催で、それ以後は一般客も参加できるようにして毎年開催にする予定と聞いていた。
「う~ん、それなんだけどちょっと調整したね。ていうのも、なんかボクたち六王から招待を受けるっていうのが、結構好評でさ……それを完全になくすのももったいないかなぁって、それで毎年6日間は一般客も参加可能な祭りにして、7日目は招待客のみの祭りって感じにしたよ」
「へぇ、というか毎回7日やるのか、大変じゃないか?」
「いや、流石に初回程アレコレ趣向を凝らしてないし、施設とかは初回開催のを使い回ししてるから、そうでもないよ」
「なるほど……また行ってみたいな」
「うんうん! さっきも言った通り7日目は招待客のみで人は少なめだから、一緒に回ろうよ」
「いいな、一緒に回ろうか」
「ほんと!? 約束だよ、次の六王祭だからね!」
俺が了承するとクロはパァッと明るい笑顔を浮かべる。とても可愛い。
「……っと、そろそろ始まるかな? 妖精たちが出てきた。クロ、本当にその体勢のままで聞くのか?」
「う~ん、カイトくんとくっついてたい」
クロの言葉に少し考える。クロの要望を受け入れるのは問題ない。俺だって恋人であるクロと密着しているのが嫌なわけではないし、むしろ嬉しい。
ただ、やはりせっかくなのは一緒に見たいところだ。
「じゃあ、こうしよう。こうして、クロ少し体を起こして方向転換して」
「え? こ、こう?」
「そう、それで……」
「ひゃっ……」
クロの向きを変えて、クロの膝の裏に手を入れスッとクロをお姫様抱っこの形で抱えて、その状態で膝の上に降ろす。
お姫様抱っこのまま座った形というか、椅子に座っている俺の膝の上にクロが横向きに座る形だ。
「これなら、密着したまま一緒に見えると思うけど……」
「お~たしかに! それにさっきの体勢よりカイトくんの顔もよく見えるし、凄くいいね!」
「いや、俺の顔じゃなくて舞台の方を見て欲しいんだけど……」
「ん~そうだね、カイトくんがキスしてくれたら、そうしよっかな?」
どこか嬉しそうな声色で甘えてくるクロに思わず苦笑する。期待の籠った金色の目でこちらを見上げてくるクロ……その頬にそっと片手を添え、顔を近づける。
元々距離は近かったこともあって、すぐに俺たちの距離は0となり、唇には甘くやわらかな感触がした。
するとまるで図ったかのようなタイミングで演奏が始まり、綺麗な音楽が聞こえるなんともいい雰囲気になった。
だからだろうか? つい雰囲気に流されてしまったのだろうか……軽く口づけしてすぐに顔を離すつもりだったのだが、つい腕の中の愛らしい恋人に夢中になってしまい、しばしそのまま唇を重ねたままで演奏を聞き続けた。
シリアス先輩「あぁぁぁぁぁぁ!? くそっ、くそぉぉぉ!」
ドクターM「シリアス先輩、これを!」
シリアス先輩「……え? なにこれ? 快人の写真?」
ドクターM「そう、愛しい我が子の写真。しかも左斜め下23.5度からから撮った写真だよ」
シリアス先輩「……だ、だから?」
ドクターM「これを見れば、傷ついた心も癒えるし、『四肢の欠損程度の傷なら完治する』でしょ?」
シリアス先輩「いやそれお前だけだろ!? しかも、コイツいままさに私にダメージを与えてる犯人なんだけど!?」
ドクターM「大丈夫だよ、シリアス先輩……今できないことは罪じゃないよ。すぐに『我が子の写真見たら回復するようにしてあげる』からね!」
シリアス先輩「ひぇ……狂ってるコイツ……いや、元々狂ってたわ……やめろぉぉぉ!?」




