ハーモニックシンフォニー中編Ⅱ①
ティルさんや妖精たちと楽しく会話していると、公演の時間が近づいてきた。
「あや、そろそろ時間ですよ。皆さんには二階の個室ブース席を用意してるです。ふたり用とか三人用とかいろいろあるです。この札を持って、あっちの魔法陣に乗ると自動で移動できますよ!」
「そうなんですか? わざわざ特別な席を……ありがとうございます」
どうやらティルさんは俺たちに二階の個室ブースを用意してくれたらしい。視線を動かしてみると、外から中は見えないようになっているみたいで詳細はわからなかったが、ブースっぽいものがいくつかある。
個室という形なら気楽に演奏を楽しめるし、演奏を聞きながら感想を話したりとかも出来そうだ。
「はい、カイトクンさん。どうぞですよ~」
「ありがとうございます。コレを持ってあそこに乗ればいいんですね」
「はいです」
ティルさんが俺や皆にチケットっぽいものを配ってくれたので、説明通りそれを持って魔法陣に乗る。すると一瞬で景色が切り替わり、個室っぽい部屋の中に移動していた。
演奏が行われるであろう舞台が非常によく見えるいい場所である。
「……あれ? でも、外から見えないように閉じた個室だと演奏の音は聞こえるのか?」
「ああ、その正面のは魔力の結界みたいなものだから、音が通るのを邪魔したりしないようになってるから、大丈夫だよ」
「へぇ、そうなのか……うん? クロ?」
「えへへ、一緒だね」
呟いた言葉に返事が返ってきたので振り返ると、そこにははにかむような笑みを浮かべたクロが居た。
「これはまた偶然だな……ふたり用とか三人用とかいろいろあるって言ってたけど、この部屋は何人用だろう?」
「ああ、この部屋はふたり用だよ。ふたり用にしてもらったからね」
「そっか……うん? ふたり用に『してもらった?』」
変な言い回しだった。いまのはまるで、クロが俺とふたり部屋になるようにしてもらったと言っているような感じだが、先ほどまでの雑談でそんな感じの話はしていなかったはずだ。
するとクロは、なにやら少しドヤ顔になりながら胸を逸らして、サムズアップする。
「カイトくんたちが次にティルちゃんのところに来るってのは知ってたから、事前にティルちゃんにお願いしていたんだよ」
「それはまた、なんとも準備がいい……って、待てよ? なんで俺たちが次にティルさんのところに来るって知ってたんだ?」
「………………勘、かな?」
「お前、この期に及んでまだ勘と言い張るか……」
大変いまさらな話ではあるが、クロは確実に俺のネックレスになにかを仕込んでいる。場所が分かるとか、会話が聞こえるとか、たぶんそんな感じのものだろう。
まぁ、でも、それは正直あんまり気にしていない。シロさんとかに比べれば全然可愛いものである。
リグフォレシアの一件とかから推察するに、その機能はあくまで俺がネックレスを付けている時にしか発動しないっぽいので、聞かれるのが嫌なら一時的にネックレスを外せばいいのだ。
まぁ、そうでなくともシロさん、エデンさん、いつも護衛についてるアリスと……もはや俺のプライバシーに関しては完全にいまさらなので、別に問題ない。
「まぁ、別にいいんだけど……それ以上に気になることがあるんだけど」
「うん? なにかな?」
「……椅子、ひとつしかないんだけど……ふたり用の部屋だよね?」
そう、先ほどから気にはなっていたのだ。クロ曰くふたり部屋のはずなのに、部屋には大きめな椅子がひとつしか置かれていない。
そのことを尋ねると、クロはなぜかどこか満足げな表情で告げる。
「カイトくんが椅子に座る。ボクが『カイトくんの膝の上に座る』……まったく問題は無いね!」
「……まさか、この椅子もクロの仕込みか? なんでまた、そんな……」
「カイトくんとイチャイチャしながら演奏を聞きたかったから! 以上!!」
「な、なるほど……」
あっ、しまった。あまりにも潔く、いっそ清々しいまでに我欲を表に出されて、つい反射的に頷いてしまった。
「さっ、カイトくん。もうすぐ演奏が始まっちゃうよ。座って座って」
「あ、ああ、わかった」
押し切られる形で大き目の椅子に座る。かなりいい椅子みたいで、座り心地はとてもいい。
そして俺が座ると待ってましたと言わんばかりに目を輝かせ、クロが『俺と向かい合うような体制で膝の上に』……。
「いや、ちょっ!? 向きがおかしくない!?」
「おかしくないよ。カイトくんに抱き着く形になるつもりだし……」
「いや、舞台見えないでしょ!?」
「大丈夫、演奏はちゃんと聞こえるから」
「いや、そういう問題では――ッ!?」
クロはそのまま言葉を返すことなく、俺の首の後ろに手を回してギュッと抱き着いてくる。俺も反射的に抱き返すと、小柄なクロの体がすっぽりと俺の体に収まるように密着した。
こ、これは、かなりの密着度だし……なにより、これから演奏が始まると思うと、なんかイケナイことをしている感が凄まじい。
「えへへ、温かい」
……クロは満足げな表情で、嬉しそうに俺の胸に頬を擦り付けていた。
シリアス先輩「ぎゃあぁぁぁぁ!? 唐突な砂糖パンチやめろぉぉっ!!」
???「シリアス先輩! 大丈夫ですか、しっかりしてください!! 傷は浅いですよ!」
シリアス先輩「え? なんで今回に限って、なんでそんなワザとらしく、大袈裟に心配してるんだ……」
???「これはもう私では……お願いします!!」
ドクターM「任せて!!」
シリアス先輩「ぎゃぁぁぁぁぁ!? で、でたぁぁぁぁ……テメェ、???、だからそんなワザとらしい演技を……」
ドクターM「傷ついたシリアス先輩の心は、私が癒してみせるよ!」
シリアス先輩「え? なに? お前の世界では、狂気で洗脳することを癒すって表現するの? ふざけんな帰れ……」




