ハーモニックシンフォニー中編⑧
申し訳ありません、質問の解答忘れていたので、明日のあとがきに貼ります
歌合戦の概要について、ブロッサムさんにある程度聞いてみた。
基本的なルールとしては、歌いながら戦うとのことだが、もちろんルールもある。
まず、好きな歌をなんでも歌えるのではなく、試合ごとに課題曲が決まっており、会場の演奏エリアで演奏される曲を歌うことになる。
参加者には事前にどの試合でどの曲かというのは通知され、知らない曲に関しては控室で練習もできる。
歌いながら戦い、その歌の上手さなどをブロッサムさんを含めた審査員が審査して得点を出し、それで勝敗を決める。
戦闘の経過は勝敗に関係しないが、もちろん大きなダメージを負ったり、攻撃や防御に集中すると歌がおろそかになるので点数は下がる。
そして相手を戦闘によって撃破した場合は、特別加点されるが……まぁ、その特別加点はおまけのようなものだ。
というのも曲はフルで歌うわけではなく、概ね1番+ラストのサビという形で纏められており、長くとも一曲2分程度で終了する。
そして曲が終了すると、その勝負は終わりとなり採点となる。つまり、長くても一試合は2分ほどで決着するので、その時間内で相手を撃破というのは、よほど戦闘力に差がない限り起こりえない。
なので実質的に、互いに妨害しながらひとつの曲を歌い合い、得点を競うといった形式だ。
「……なんか、聞いてみると、それはそれで面白そうですよね」
「まぁ、たしかに……」
葵ちゃんの呟きに俺も同意する。もちろん俺たちが思い浮かべる歌合戦とは全く別物ではあるが、それはそれとして、意外と面白そうである。
積極的に攻めて相手の歌を妨害することができれば、己より歌唱力で優れる相手にも勝てる可能性があるが、攻撃に夢中になり過ぎれば己の歌がおろそかになる場合もあると、結構駆け引きとかもありそうだ。
飛び入り参加も可能らしいが、参加者には上限があり、直近開催分の受付は終了している。仮に俺たちが参加するなら次の時間帯への参加となるみたいだ。
ちなみに、一般参加者が規定人数に満たない場合は、ブロッサムさんの部下が選手として参加する場合もあるみたいだ。
まぁ、特に参加を希望する人もいないので、今回は観客として楽しむことに決まり、俺たちは会場の観客席に移動した。
「……おや、賭けもやってるみたいですね」
「あっ、本当ですね」
ルナさんの言葉に視線を動かすと、賭けの受付と書かれたブースが見えた。優勝者予想などの賭けも行われているらしい。ただ、一般参加者も合わせて今回は14人のトーナメント形式での戦いになるみたいだ。
まぁ、特に賭けに参加するつもりもないので、賭けの受付には近づかずに観客席にきたが、ここからでも倍率の書かれた大看板は見ることができた。
「……おかしくないですか、あの倍率?」
「たしかに、妙ですね? えらく偏っているというか……」
「9番が、圧倒的過ぎますね」
ルナさんと話しながら大看板を見る。一般参加者がほとんどという関係上、エントリーナンバーと倍率だけで、名前の表記は無いのだが、その倍率が異常だった。
というのも、9番が圧倒的に人気過ぎて、倍率が1.0を完全に下回っており、賭ければ損をするというレベルになってしまっている。
まぁ、1~3位を予想したり、順不同でベスト4を予想したりと、複数の賭けの形式があるみたいなのだが……単勝に関しては、9番がぶっちぎり過ぎて、二番人気ですが100倍を軽く超える倍率になっている。
「……ものすごい優勝候補ってことなんでしょうかね?」
「どうします? 賭けの受付に行けば参加者の名前とかもわかると思いますが……」
「う~ん、結構混んでいますし、やめときましょう。それに、さっそく一試合目が4番と9番の戦いみたいなので、すぐに実力は分かりそうですしね」
いまから賭けの受付に行っていては、開始までに戻ってこれないかもしれない。なので、圧倒的人気の9番は気になるが、すぐ分かるだろうと待つことにした。
しかし、あそこまで圧倒的な人気ということは、有名な歌手とかなのだろうか?
『観客の皆様、お待たせいたしました。歌合戦一回戦、第一試合……まもなく開催です!』
実況らしき人が拡声魔法で告げ、いよいよ歌合戦がスタートした。
『まず入場するのは4番! 歌唱力には自信あり――』
最初に入場してきたのは4番の参加者、精霊っぽい感じで歌唱力には定評があるとか……しかし、気のせいかその顔は青ざめており、なんというか……明らかに勝ち目のない戦いに臨むかのような、絶望感が見て取れた。
え? そんな、戦う前から諦めるレベルの差があるのだろうか? 本当に9番っていったい……。
『続いて入場するのは9番! 今回の優勝候補筆頭! その歌唱力もさることながら、なによりも圧倒的な戦闘力! 多くの方が今回の優勝者と確信する存在! 『戦王メギド・アルゲテス・ボルグネス様』だぁぁぁ!!』
……お 前 か !?
驚くと共に、心底納得した。そりゃ、あの倍率になるわけだよ……だって、そもそも、この歌合戦のルール上、メギドさん相手に2分近く持ちこたえなければ、最後まで歌いきることすら出来ないわけだし……。
なんなら、歌わずとも戦闘だけで全員なぎ倒せそうなメギドさんだが……歌も上手いんだよなぁ、マジでこれ他の参加者が勝てる未来が見えないぞ。
???「バラードゴリラ!? バラードゴリラじゃねぇっすか!!」
シリアス先輩「……あまりにも納得できる優勝候補筆頭……他の参加者が哀れ過ぎる」




