ハーモニックシンフォニー中編⑦
ジークさんがまだ会っていない七姫ということで、ブロッサムさんの出し物の場所にやってきたが……なんというか、そこは異質な雰囲気の場所だった。
正直不安はあった。なにせあのブロッサムさんが主導である。いい人なのは間違いないが、思い込みが激しいタイプでかつ、日本の知識をいろいろと間違って覚えている。
ちなみにエインガナさんに聞いた話だと、ブロッサムさんはやはりというか異世界の音楽をテーマに出し物を行うらしく、その時々でなにをやるかは違うらしい。
そして期待を不安が入り混じりながら辿り着いてみると、そこは……なんか変な場所だった。例えるならコロシアムのような? いや、作りは和風なのだが、音楽をやるような感じには見えない。
御前試合をかを行いそうな場所であり、観客席もある。いちおうなんか、音楽を演奏しそうなスペースもあるのだが、それより明らかに戦うためとしか思えないスペースの方が広い。
「……ミヤマ様たちの世界の音楽ということですが、これは?」
「……いや、正直俺たちもコレがなにかを聞きたいところです」
本当に分からないというか、間違いなくこれってなにかを勘違いした結果生まれたものだと思う。もちろん葵ちゃんや陽菜ちゃんもコレがなにかは分からず、不思議そうな表情を浮かべていた。
ブロッサムさんに聞いてみるしかないかと、そう思ったタイミングで……。
「マスター! それと同行者の皆様! よく来てくださいました!!」
……声、でっかぁ……どえらい注目浴びながら走ってくるんだけど……。
「こ、こんにちは、ブロッサムさん」
「はい! 御無沙汰しております!! マスターと再会できて、拙者は感動で胸が打ち震えています! それに、マスターのご友人の方々と、さらにマスターと同じく異世界の方も二名いらっしゃるとのことで、リーリエ様から伝達があったので、いらっしゃるのをとても楽しみにしていました!!」
「……いや、あの、ブロッサムさん……もうちょっと声を小さく」
「そういえば、リーリエ様にもそう言われたような? 了解です」
とにかくブロッサムさんは声が大きい上に、声がかなりよく通る。なのですでに、会場中の視線という視線はこちらに集中している。
「……あの、皆のことを紹介したいんですが、ここではちょっとアレなので……どこか舞台裏とか入れてもらえると嬉しいのですが……」
「了解しました。マスターの頼みとあらば……ささ、こちらです」
う~ん……素直でいい人なのは、間違いないんだよなぁ。性格というか行動がイノシシのように一直線ではあるが、テンションが最高潮でない限りこちらが言えば聞いてくれる。
俺たちはブロッサムさんに案内され、注目から逃げるようにそそくさと舞台裏……会場から見えない場所に移動して、改めて自己紹介を行うことになった。
「改めまして、拙者はブロッサムと申します。異世界出身のおふたりは既にお気づきと思いますが……侍です!」
「……え? あっ、そ、そうですね」
「えと、か、カッコいいと思います」
葵ちゃんと陽菜ちゃんが戸惑ってる。まぁ、仕方ないだろう。そりゃ初対面で自分は侍ですとか言われたら、キョトンとするのも当然だ。
それでもまぁ、ブロッサムさんはテンションこそアレだが気さくないい人なので、滞りなく自己紹介は終わり、ジークさんのサインに関しても快く承諾してくれた。
「しばし、お待ちを……墨を」
「はっ!」
……なんか、部下に墨と筆を持ってこさせてたのは、まぁ、ブロッサムさんらしいと言えばらしい。
ともあれ一通り、自己紹介も終わったので、俺は気になっていたことをブロッサムさんに尋ねてみることにした。
「……ところでブロッサムさんは、今回なにをするんですか?」
「やはり、設備を見て気になりましたか?」
「え? えぇ、まぁ、かなり……」
「そうでしょう! そうでしょう! マスターたちにとっては、馴染みある光景でしょうからね」
……いや、ねぇよ!? 欠片も馴染みが無いから、こうして直接聞いてるんだよ。
そんな俺の心境はお構いなしに、ブロッサムさんはどこか興奮した様子でグッと拳を握りつつ言葉を続ける。
「……そう、マスターたちの世界では、年の瀬の風物詩でもある由緒正しき行事のひとつでもある……『歌合戦』です!!」
「「「……なんか違う」」」
「えぇっ!?」
俺と葵ちゃんと陽菜ちゃんの声がハモったのも致し方ない話だろう。
だって、たしかに歌合戦というものはあるし、行事かどうかはさておいて、年の瀬の風物詩というのも間違ってはいない。
だが、ある一点が致命的に間違っている。
だって……会場の形状や雰囲気、観客席の形などから察するに……明らかに、歌で勝負ではなく『ガチバトルを想定した造り』になっている。
たぶんだけど、『歌で勝負』ではなく『歌いながら勝負』という風に勘違いした結果ではないかと、そう思った。
シリアス先輩「まぁ、他の七姫とか部下も『異世界の行事』って言われると、そういうのもあるのかって感じになって止める奴が居なかったんだろう」
???「しかし、ブロッサムさんは傍目に見てる分には、ハチャメチャで突拍子もない行動をとるので、面白いんですよねぇ」




