ハーモニックシンフォニー中編⑤
店で食事をテイクアウトしたあとは、飲食可能な広場に移動して食べる。ピクニック用にレジャーシートはマジックボックスに入れていたし、冒険者である葵ちゃんや陽菜ちゃんも同様にレジャーシートは持ち歩いているので、シートを敷いてちょっとしたピクニック気分での昼食である。
実際ユグフレシスは自然豊かだし、この広場も自然公園みたいでこうして食事をしていると本当にピクニックみたいだ。
今回いった店は、サンドイッチなどのようないわゆる食材をパンに挟んだ品がメインで、皆思い思いの品を購入した。
俺はクラブハウスサンドっぽいちょっとボリュームのあるサンドイッチと、ケバブっぽいものがあってソレが気になったので一緒に購入した。
「ん~のどかでいいですね。上を向けば全部木の枝と葉っぱなのに、すっごく明るいんですよね」
「たぶんなんらかの細工がされてるんじゃないかな? 普通に考えると、世界樹が大きすぎて都市全部影になっててもおかしくないしね」
気持ちよさそうに目を細める陽菜ちゃんと言葉を交わしつつ、俺も軽く体を伸ばす。心地よい風と、微かに聞こえてくる音楽がなんともいい感じだ。
「……そういえば、快人先輩」
「うん?」
「お兄ちゃんと会ったんですか? なんか、こっちに来る前にお兄ちゃんが『あんまり快人に迷惑かけるなよ』って言ってたんですよ。その時はあんまり気にしてなかったんですが、よく考えたら……最初にあっちの世界に戻って、快人先輩のことを話したときはお兄ちゃん『宮間』って言ってたのに、いつの間にか快人って名前呼びに変わってたんで……」
「あぁ、昌とは大学の自主退学の手続きをしに行った帰りに会って、少し話したよ」
陽菜ちゃんの言葉を聞き、俺は元の世界に戻ってこちらの世界に移住するために、大学へ手続きにいった帰りのことを思い出していた。
大学での手続きは滞りなく終わった。自己都合の退学の申請をするだけなので、特に手間がかかるわけではない。
まぁ、それでも最初の申請のあとで必要書類などを用意して数度足を運ぶ必要があり、なんだかんだでそこそこの時間がかかってしまった。
アルバイトは向こうの世界に召喚される一月ほど前に、勤めていた店の改築工事で半年間閉まるということもあり、その際に辞めたので特に手続きは必要ない。
まだ就職活動とかをしていたわけでもないし、あとはひとり暮らしのマンションの解約だ。一応今月いっぱいで解約という話はしているのだが、こちらもいくつか書類を書く必要がある。
部屋を引き払うための片付けも進める必要があるし、さて帰ったらまずは何から手を付けるべきか……。
そんなことを考えながら道を歩いていると、少し先に立っている男性を見かけた。
「……久しぶりだな、宮間。高校以来か?」
「……委員長?」
「いまは、もう委員長じゃないさ」
ややオレンジがかった髪を短めに揃え、眼鏡をかけた見るからに真面目そうな男性は、俺の高校時代の学級委員……それも奇妙な縁で、3年間同じクラスだった相手。
無気力かつぼっち気味な高校生活を送っていた俺が名前や顔をはっきり覚えている数少ない相手であり、共に異世界に召喚された陽菜ちゃんの兄でもある……柚木昌だ。
「たまたま大学に向かっているお前を見かけてな。妹からいろいろ話を聞いたし、少し話せたらと思って待っていたんだ」
「……かまわないけど、立ち話もなんだしそこの公園ででも話すか」
「ああ」
話を聞いてなるほどと思った。委員長は陽菜ちゃんの兄だし……陽菜ちゃん曰く厳しいとのことだが、それでもやはり妹のことは大切で心配なのだろう。
一緒に異世界に召喚された俺からもいろいろ話と聞きたいと、そんな感じじゃないかと思った。
委員長と一緒に公園に移動して、なんとなく自販機のある前に移動すると、委員長が小銭入れを取り出しながら聞いてきた。
「宮間、なにか飲むか? こっちの都合に突き合わせるんだし、おごるぞ」
「じゃあ、缶コーヒーでも……」
「わかった」
俺の言葉を聞いた委員長は、自販機でブラックと微糖の缶コーヒーを一本ずつ買い、俺に見せてきた。そして俺が微糖の缶コーヒーを受け取ると、委員長はブラックの缶コーヒーを開けて一口飲み……静かに呟いた。
「……なんとも、とんでもない話だな」
「まぁ、普通は聞いても信じられないよな」
委員長の言葉に苦笑しつつ、俺も缶コーヒーを開けて一口飲む。
「陽菜が言ってるだけなら、なにを馬鹿なと笑い飛ばしたものだが……実際に色々見せられると、信じるしかない」
「少し疑問なんだけど、どんな風に説明を受けたんだ?」
「天照さんという方が来てな……あぁ、いや、日本神話の神様というわけじゃなく、この世界の神の部下のような方らしい。その方が今回は極めて特殊な事例ということもあって、俺を含む家族にいろいろ説明して、魔法なども実践してくれた……驚いたよ。正直魔法も、しばらくは手品じゃないかと疑っていた」
「あはは、まぁ、それが普通の反応だよな」
その時の様子を思い浮かべて思わず苦笑すると、委員長はなぜか少し驚いたような表情を浮かべた。
「……うん?」
「いや……お前はそんな顔で笑うんだなと、そう思っただけだ。3年間同じクラスだったはずなのに……知らなかった」
「まぁ、高校時代は俺も、なんというかいろいろ投げやりだったし、委員長にも迷惑をかけたよ」
「本当にお前は寝てばかりだったな。よくまぁ、留年せずに卒業できたものだ」
「あ、あはは……」
事実なだけにまったく反論できない。実際、毎回テストはほぼ一夜漬けで乗り切っていたような気もする。
「……正直俺は、半ば諦めていた。学級委員として義務的に注意はしていたが、思えば……お前と本気では向き合ってなかったのかもしれないな」
「うん?」
「いや、もし高校時代に、俺が諦めずにお前を向かい合っていれば……また違った今もあったのかもしれないと、そう思っただけだ」
「……そう、だな。俺の方にも、人の話に耳を傾けるだけの心の余裕があれば、なにか変わっていたかもしれないな」
いまさらな話ではある。もしこうだったら、あの時どうだったら……そんな話をしても意味は無いのかもしれない。
だけど俺と委員長の間にネガティブな空気は無い。ただなんとなく、昔を懐かしむようにIFの話をしただけだ。
ただそれでも、少し……高校時代より、仲良くなれた気がするのは、きっと気のせいではないのだろう。
シリアス先輩「そういえば、どこかのあとがきで元の世界に戻った時に会ってるって書いてたような? しかし、なんというか、この作品だと貴重な同世代の同性との会話シーンだ」




