ハーモニックシンフォニー中編③
エリアルさんの出し物を楽しんだあと、フレアさんとエインガナさんは次はリーリエさんの出し物を見に行くらしく、ふたりとはここで別れることになった。
本音を言えばハーモニックシンフォニーに詳しいエインガナさんに同行してもらいたいところだったが、それでエインガナさんの予定を変えさせるというのも気が引けたので、特に頼んだりはしなかった。
そして、俺たちはというと、ジュティアさん、リーリエさん、エリアルさんと七姫のうちの概ね半数ほどを回り終わり、時間もお昼時ということもあって次の場所に行く前に昼食を食べようという話になった。
飲食店などは通常営業しているという話なので、クロのまるごと食べ歩きガイド~ユグフレシス編~を見ながら、なにを食べるかの相談をする。
「……けど、普通の店だと混みそうな気もしますね」
「あっ、ここはどうですか? テイクアウトあるみたいですし、買って広場かどこかで食べたりすれば」
俺が見ていた食べ歩きガイドを覗き込みながら陽菜ちゃんがひとつの店を指差す。そこは、ホットドックとか食べ歩きに向いた料理を多く取り扱っている店のようで、陽菜ちゃんの言う通りテイクアウトがあると書かれていた。
なんだかんだでハーモニックシンフォニーで人が多いし、テイクアウトして広場でというのも悪くはないと思う。
「私たちは大丈夫ですけど……リリアさんとかは、貴族ですし、食べ歩きに抵抗があったりするんじゃないですか?」
「え? ……あっ、そ、そうですね。たしかに、多少抵抗はあるかもしれませんが……特に問題は……」
葵ちゃんが思いついたように告げた言葉に、リリアさんはまさかそんな言葉が飛んでくるとは思わなかった感じで、なにやら慌てたような表情を浮かべていた。
「……アオイ様、お忘れかもしれませんがお嬢様は元騎士団員なので、時間の節約のために移動しながら保存食を食べたりとか、そういった経験もあるので……まったく抵抗はないと思います」
「……す、少しはあるかもしれないじゃないですか」
「いや、いま明らかに最初なんのことか分からないって顔してましたからね」
ルナさんの言葉を聞いて、俺もああなるほどと納得する。たしかに騎士団としての経験がある以上、生粋の貴族とかと比べてそういった食べ歩きとかには抵抗はないのかもしれない。
ともかく、リリアさんたちも問題はなさそうなので、陽菜ちゃんが選んだテイクアウトのできる店に行くことにして、移動を開始する。
その道中で、俺はあることを思い付いて、近くを歩いていたリリアさんに尋ねた。
「そういえば、聞いたことはなかったですけど……リリアさんって、なにか好きな食べ物とかあるんですか?」
「好きな食べ物……ですか?」
「あっ、それ私も興味あります。やっぱりお洒落な料理とかお洒落なスイーツとかなんですかね?」
リリアさんは基本的になんでも貴族らしく上品に食べるし、特に何が好き、なにが嫌いとかという話は聞いた覚えがなかった。
陽菜ちゃんも興味津々といった感じの目でリリアさんを見ており……リリアさんは、なにやら少し悩んだあと、目を逸らしながら告げた。
「……えっと……仔牛のローストとか、デザートだと、シャルロット……とかですかね」
たぶんだけど、嘘である。リリアさんは嘘が付けない人なので、目線を逸らした上で声も上ずっており、非常に分かりやすい。
そして、その言葉を聞いたルナさんがなにやら呆れたような表情で口を開く。
「よくもまぁ、私やジークが居る前でそんな大嘘付きましたね。そんなにミヤマ様に見栄を張りたいですか……というわけで、ジーク。正解をどうぞ」
「……リリの好物は、オムレツとイチゴのショートケーキですね」
ルナさんに促されジークさんが正しい答えを口にした。またえらく庶民的な好物である。
「……い、いや、たしかにその通りなのですが……あ、あくまで、オムレツとショートケーキが好きなのは、思い出の味というか……イルネスがよく作ってくれたからという要因が大きいんです」
「……二番目に好きなのは、牛肉の串焼きじゃないですか、時々コッソリ買いに行かされますし」
「……」
なにやら取り繕おうとしていたリリアさんだったが、悲しいかなここにはリリアさんのことをよく知っていて、なおかつこういう場面で嬉々として追撃するルナさんが居る。
「え? 牛肉の串焼きですか?」
「ええ、ステーキでもローストビーフでもなく、串焼きです」
意外そうな表情を浮かべた葵ちゃんにルナさんが補足で説明を入れると、リリアさんは赤くした顔を逸らしつつ、なにやら拗ねたような様子で小さく呟いた。
「……いいじゃないですか……結局ああいうシンプルなのが、一番美味しいんですよ」
リリアさんの気持ちは分かるし、拗ねている姿は可愛らしいが、このまま放っておくわけにもいかないので、フォローするために声をかける。
「リリアさん、好みなんてそれぞれですよ。俺だって、好物はハンバーグですし、別に全然変じゃないですよ」
「そ、そうですか?」
「ええ、それより、リリアさんのことをまたひとつ知れて嬉しかったです」
「……カイトさん」
俺の言葉を聞いたリリアさんは嬉しそうな顔を浮かべ、話を続けているルナさんたちには見えないような角度で、そっと俺の手を握って身を寄せてきた。
シリアス先輩「はええよ!? 昨日の今日で、即いちゃつくんじゃねぇよ!!」




