閑話・地縛星 後編
成り行きでアイシスの配下となったラサルは、アイシスに教えてもらった大書庫に来ていた。ここにある本は自由に読んで大丈夫だとアイシスから言われており、ラサルは凄まじい数の本を眺めながら呟いた。
「……素晴らしいナ。本当にあらゆる本があると言っていイ。丁度長年の研究も終わったわけだシ、次の研究のテーマを探すのもいいかもしれないナ。コレだけの資料を得られたのなラ、配下になった価値もあったかもしれないナ」
そう呟きながらいくつかの本を眺めたあとで、ラサルは深いため息を吐いた。
「しかシ、監視も無しとハ……そんなに緩くていいのカ?」
独り言をつぶやきながらいくつかの本を確認したあとで、城の他の場所も見ておこうと考え、大書庫から出て廊下を歩きだした。
すると前方から、六本の剣を腰に差した虫人型の魔族……シリウスが歩いてきた。
「む? お前は確か、新しく配下に加わったという……」
「うン? あア、お前もアイシス様の配下カ……私ハ、ラサル・マルフェクといウ」
「私はシリウスだ。よろしく頼む。ここで会ったのもなにかの縁だ。これから鍛錬をしようと思っていたのだが、一緒にどうだろうか?」
「……ふム」
シリウスが微笑みを浮かべながら提案してきた言葉。言ってみれば、互いの実力を確かめるために模擬戦をしないかという誘いだった。
(……丁度いイ。研究の成果をまだ実戦で使ってなイ。見たところコイツもかなりの実力者のようだシ、相手にとって不足はないだろウ)
シリウスが己に近い実力を持つ存在であるということを理解したラサルは、完成した研究の成果を試す丁度いい相手だと認識した。
「分かっタ。私も丁度少し戦闘をしたいと思っていタ」
「では、決まりだな。外へ行こう。ポラリス殿が用意してくれている結界がある」
互いに了承し、和やかな雰囲気で始まった模擬戦だが……しばらく経つとその雰囲気は変わっていた。
「……貴様、先ほどから卑怯な戦法ばかり、正々堂々と戦え!」
「馬鹿かお前ハ、どのような手を使おうト、勝てばソレが正しいのサ。正面から力押しするだけなド、獣と変わらン……少しは頭を使ったらどうダ」
このふたり、致命的なまでに戦闘スタイルが噛み合わなかった。己の身をもって正々堂々と正面から戦うシリウスと、死霊兵を用いて己は矢面に立たずに戦闘を行うラサル。
他にも様々な部分が互いの好みに合わず、いつしかふたりはかなり喧嘩腰な様子で模擬戦を行っていた。
「……まぁ、頭を使おうがなにをしようが、死肉を動かすしかできないような相手に負けることはありえんがな」
最初は模擬戦だからと手加減していたが、シリウスの頭の中から手加減という言葉は消え、腕を六本に変え腰に差していた剣を全て抜き放つ。
「力押ししかできないような脳筋ガ、私に勝つだト? クカカカ、ギャグのセンスだけはあるようだナ!」
こちらも研究の成果を試すため、ある程度探りながら戦っていたが……ラサルも、もはやそんなものはどうでもいいとばかりに、視界を埋め尽くすほどの死霊兵を出す。
「……は?」
「……ア?」
そして、ふたりは睨み合い……模擬戦という名の本気の戦いが幕を上げようとしていた。
「くたばれ、死肉女!」
「潰れロ、脳筋女!」
叫び声と共に、ふたりの伯爵級最上位がぶつかり合う……かと思われたが……。
「いい加減にしろ馬鹿どもがぁ! 呑め、暴獣! アポカリプス!!」
「「え? ぎゃぁぁぁぁぁぁ!?」」
それより先に怒りの叫びと共に飛来した漆黒の閃光が、ふたりを吹き飛ばした。
「アイシス様の居城の傍でドンパチと、ポラリスの結界で抑えられる程度に加減しろ! 周辺に被害が出たらどうするつもりだ!!」
「……す、すまない」
「……グ、たしかに少し配慮に欠けタ」
ヒートアップしていたふたりは、イリスに吹き飛ばされ、その後は正座して説教を受けていた。ふたりとしても、ついつい熱くなってしまった自覚はあったようで、反省した表情を浮かべている。
そのまましばし小言を続けたあとで説教は終わり、シリウスとラサルは憮然とした表情で互いを見る。
「……まア、口先だけじゃなく実力も伴っていることだけハ、認めてやル」
「……そちらこそ、卓越した頭脳と戦略を有していることは評価する」
なんだかんだで、互いの実力をある程度認め合ったのか、刺々しいながら、互いに相手を賞賛するような言葉を告げた。
「まぁ、それでもあのまま続けていれば、私が勝っただろうがな」
「中断したせいデ、もう少しで見える筈だった地に転がる無様な虫女の姿ガ、見えなかったのだけは残念だナ」
「……は?」
「……ア?」
ほぼ同時に口にした「あのままなら自分が勝っていた」という発言に、互いに反応し魔力をぶつけ合いながら睨み合う。
「……貴様ら……やるなら、結界が壊れないレベルに留めよ。いいな?」
「だそうダ。よかったナ、命拾いしテ」
「ああ、それじゃあ結界に行こうか、安心しろ……ちゃんと手加減してやる」
「……ハ?」
「……あ?」
「……貴様ら、場合によってはもう一度吹き飛ばすぞ」
どうにも喧嘩腰で挑発し合うふたりをみて、イリスは大きなため息を吐いた。
シリアス先輩「まぁ、このふたりに関してはマジで仲が悪いというよりは、喧嘩するほど仲がいいって感じなんだろうけどな」
???「六連星の番外編とかでも、協力して作業してたりもするので、そんな感じでしょうね」




