ハーモニックシンフォニー⑧
リーリエさんのところで演奏を楽しみ、次に向かうことになったのはエリアルさんの出し物だ。
ただ、ここまで少し慌ただしく次から次へと七姫の出し物の場所へ移動していたので、エリアルさんの出し物に関しては、一番近い時間のものではなく、ひとつズラすことにした。
それによって30分は時間が確保できるので、エリアルさんの担当のエリアの近くを少し散策してみようという話になった。
いまはグラトニーさんのおかげで移動にはほぼ時間がかからないので、時間的にはかなり余裕があるからこその選択といった感じだ。
というわけで俺たちはエリアルさんの出し物のエリアからほど近い場所にある。露店が並ぶエリアへとやってきていた。
露店とは言っても、祭りの屋台のような食べ物などが売っているのではなく、ここでは楽器を買ったり、レンタルしたりすることができるらしい。
カミリアさんから貰った案内によると、各地にそういった楽器販売とレンタルの露店エリアが存在しているらしい。
ハーモニックシンフォニーは一般人の演奏や歌の披露も自由なので、途中で演奏を披露したくなったりした時はここで楽器を借りて参加するのもOKとのことだ。
「う~ん、私楽器は……カスタネットぐらいしか使いこなせない気がします。葵先輩はピアノ弾けましたっけ?」
「少しだけだけどね」
「葵先輩って見た目はおしとやかなご令嬢って感じですし、ピアノ弾いてる姿は凄く似合いそうですね」
「ふふふ……うん? ちょっと待って、見た目は? 実際は違うって言いたいのかしら?」
「……ノーコメントで」
「陽菜ちゃん?」
「あっ、あっちも見に行ってみましょう!!」
「ちょっと、待ちなさい!!」
逃げる陽菜ちゃんと追う葵ちゃん、仲のいいふたりを微笑ましく眺めつつ、ふと考える。
俺も正直楽器は無理だなぁ……カスタネットとか、タンバリンぐらいならいけるか? リコーダーは……いや、もうさすがにどの穴塞げばいいかとか覚えてないや。
まぁ、特に楽器を演奏する予定もないし、レンタルしたりするつもりはないのだが……。
そんなことを考えつつ、いろいろな露店に視線を向ける。レンタルもそうだが、楽器を販売している露店も多く、見たことが無いような形の楽器とかも置いてあって興味深い。
本当にいろいろな露店が……。
「いらっしゃ~い。どうですか、カイトさん? これを機に音楽家デビュ――ふぎゃっ!?」
なんか覗き込んだ露店で鳥の着ぐるみが店主だったので、反射的にぶん殴ってしまった。
「……なんで殴るんすか!?」
「……アリスだったから」
「理由が酷い!? カイトさんは、私に対してだけバイオレンスすぎませんか!? そんなオンリーワンは求めてねぇんすけど!!」
「まぁ、それは置いておいて」
「扱いが雑っ!?」
「……というか、お前マジでどこにでも居るな」
ハイドラ王国に居たり、六王祭で店を出してたり、見つけてないけどたぶん白神祭とかでも出してたんだろうし……本当にどこにでも現れる奴である。
「しかし、バイオリンとかいろいろ置いてるな」
「私、伝説の名工っすからね! 私の作った楽器は、伝説の名器とかって呼ばれてるんですよ」
「へぇ、地球で言うところのストラディバリウスとかそんな感じかな?」
というか、なんか世にある大抵の伝説級のシロモノはコイツが作ってるような気がする。確か、武器とか模型でも伝説の名工じゃなかったっけ?
そんなことを考えつつ露店に並んだ楽器を眺めていると、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「こっちです!」
「ま、まて、エインガナ……なにをそんなに焦っている?」
「噂に聞く伝説の露店です! 音楽家たちの間では有名で、伝説級の名器ばかりを取り扱う幻の露店……いつどこに出るかも不明で、巡り合えたら幸運とされている露店を見つけられるなんて、なんて幸運でしょうか!」
声が聞こえた方に視線を動かすと……離れた場所からでもすぐにわかるほど高身長の女性、エインガナさんと……そのエインガナさんに引っ張られるように移動しているフレアさんの姿が見えた。
あのふたりもハーモニックシンフォニーに来てたのか……というか、ふたりの身長差凄いな。
エインガナさんは冷静な彼女にしては珍しく興奮した様子でアリスの露店にやってくると、目を輝かせて口を開く。
「あぁ、素晴らしい! どれもこれも、そうそうお目にかかれない品ばかり!」
「……いや、そもそも我を引っ張ってくる意味はあったのか? 貴公だけ見に行けば……うん?」
「あっ、どうも」
「おぉ! 戦友ではないか! そうか、貴公もハーモニックシンフォニーに来ていたのだな。このような場所で巡り合えるとは、なんたる幸運!」
こちらに気付いたフレアさんに会釈すると、フレアさんは嬉しそうな笑みを浮かべて俺と会えたことを喜んでくれた。
「……って、こら、エインガナ! 楽器を見るのもいいが、先に戦友に挨拶をしろ」
「あぁ、本当にすばら―――うん? なんですか、ニーズベルト、私はいま集中して……おや? ミヤマカイトさんではありませんか、こんにちは」
「あっ、はい。こんにちは……」
どうやら楽器に夢中で俺には気づいていなかったらしい。まぁ、それはそうとまさかここで六王幹部と新たに遭遇である。
リリアさんの反応が怖いと思いつつ、少し離れた場所に居るリリアさんをチラリと見ると……リリアさんは笑顔でサムズアップをした。
なんというか、嬉しそうである。
うん。つまるところ……四大魔竜と偶然遭遇するのはいいらしい。
シリアス先輩「そっか、ドラゴン好きだからか……そういえば、四大魔竜に関してはむしろ自分から積極的に交流もとうとしてたなリリア……」




