ハーモニックシンフォニー⑥
ジュティアさんと精霊樹の精霊たちによる合唱は、それはもう圧巻の一言だった。ぐるりと360度あらゆる方向から聞こえてくる歌声、文字通り歌に包まれているような感じだった。
おそらく精霊樹の小さな精霊たちが複雑な言葉を発することができないからだろうが、歌詞のない歌だったが、とても綺麗で目を閉じて聞き入った。
森の広場をモチーフに作られたこの舞台もすごくいい感じで、なんというか森が歌っているような、そんな印象を受けた。
合唱は10分ほどで終了したが、凄く長く歌に浸っていたような充実感があった。
「凄かったですね」
「ええ、圧巻でした。いままでハーモニックシンフォニーに参加していなかったのを少し後悔してしまうほど、素晴らしい時間でした」
俺の言葉に近くにいたリリアさんが答える。他の皆もかなり満足げな表情で、この合唱を楽しんだということが伝わってきた。
そのまま少しの間歌の余韻に浸っていると、不意に俺たちの前の景色が揺れジュティアさんが姿を現した。
「どうだった? どうだった? 楽しんでもらえたかな?」
「はい。とても素晴らしい歌で、感動しました」
「嬉しいねぇ、嬉しいねぇ、そう言ってもらえるとボクもとっても嬉しいぜぃ。さて、カイトたちは、他の七姫の出し物を回るんだったっけ?」
「ええ、そのつもりなんですが……ジュティアさん、すみません。ちょっと、質問してもいいですか?」
「およ?」
ジュティアさんの言う通り俺たちはこれから七姫の出し物を順に回るつもりではある。しかし、いままですっかり失念していたのだが……ジュティアさんの合唱がそうであったように、開催時間というものがあるのではないかと思った。
七姫の出し物となると大がかりだろうし、ちゃんと時間を考えて回る必要があるのではないかと思ったのだ。
「たぶん、他の七姫の方の出し物も、公演時間とかあると思うんですが、実は俺たち全員が初参加でその辺がよく分かってないんですよ」
「ああ、なるほどねぇ、なるほどねぇ、たしかに時間は考えて回った方がいいね。ちょっと待ってね、ちょっと待ってね、いま紙を用意するぜぃ」
そう言ってジュティアさんはメモ帳のようなものを取り出して、そこにサラサラとなにかを書き込んでいく。
「基本的に七姫の出し物は0分と30分、1時間に2回あるよ。だけど、だけど、一部例外もあるんだ。例えば、ロズミエル主体の出し物はミュージカルだから、一度の公演が長めで2時間に1度の開催だから注意した方がいいね……と、できたよ、できたよ、それぞれの七姫の公演時間をメモしておいたよ」
「すみません、気を使っていただいて……本当に、助かります」
「いいよ、いいよ、気にしないで。ハーモニックシンフォニーを思いっきり楽しんでくれたら、主催側のボクもとっても嬉しいぜぃ」
ジュティアさんが渡してくれたメモには、各七姫の出し物の時間が細かく書いてあった。ロズミエルさん、ブロッサムさんの出し物がそれぞれ2時間に1回と1時間に1回で、それ以外は1時間に2回の開催となっている。
このふたりのところを回るときは、時間に注意しなければならないだろう。
その後、ジュティアさんに再度お礼を言ってから、皆と一緒に移動する。
「……さて、次はどこに行きましょうか? グラトニーさんの協力を得られたおかげで、必ずしも近いところから回る必要は無いですし、ジークさんが会ってない七姫の方のところに先に行きますか?」
「それは、とても嬉しいですが……七姫の方々の都合は大丈夫でしょうか?」
「あっ、そうですね。忙しいでしょうし、可能なら先にハミングバードで確認した方がいいかもしれないですね」
「そうですね。それに、私としてはもちろん会ってお話しできれば嬉しいですが、大きな行事中ですし、無理を言うつもりはありませんので、本当に都合さえ合えば紹介していただけると嬉しいです」
まぁ、たしかに七姫の人たちの都合優先ではあるが、それでも時間が大丈夫なら会わせてあげたいものである。
しかしそうなると、誰の場所に向かうか……と、そんな風に考えていると急に見えている景色が切り替わった。
「丁度私はいま手が空いていますが、いらっしゃいますか?」
「リーリエさん……ビックリするじゃないですか」
「ふふふ、貴方相手だと、感応魔法に共鳴するとすぐこうして意思の疎通ができるので、ついついやってみたくなってしまうんですよ」
「……まぁ、それはさておいて……」
「ええ、大丈夫ですよ。挨拶とお話をする時間ぐらいは十分に……サインですか? ええ、それも問題ありませんよ」
こちらの表層心理を読み取るリーリエさん相手だと話が早く、こちらが聞くより先に答えを返してくれた。
「分かりました。それじゃあ、リーリエさんのところに向かうことにします」
「はい。お待ちしています」
そう返事が聞こえたと共に、景色が元に戻った。
「……カイトさん? 急に立ち止まってどうしました?」
「あっ、えっと、俺今どのぐらいボーっとしてました?」
「1秒ぐらいでしょうか?」
普通に会話していたつもりだが、あくまで先ほどのは感応魔法の共鳴により意思の疎通は一瞬で終わってたとか、そんな感じかもしれない。
まぁ、リーリエさんクラスになれば時間の操作とかもできるだろうし、気を遣ってくれた可能性もある。
……まぁ、ともかく皆にリーリエさんの元に向かうことを説明を……なんで、リリアさんは胃薬を飲もうとしているのだろうか? まだなにも言ってないのだが……経験から何かを察したのかもしれない。
シリアス先輩「ブロッサムの方はなにやるんだろう? 日本かぶれだし、能とか歌舞伎とかだったりして?」




