ハーモニックシンフォニー④
ハーモニックシンフォニーの案内を手に入れたあとは、カミリアさんにお礼を言って移動することになった。
ちなみにカミリアさんは優しい方なので、ジークさんがサインを求めても快く応じてくれ、無事にジークさんはサインを貰うことができて上機嫌である。
「どこに行きましょうか? やっぱり、七姫の方に会うって考えると……かなりそれぞれの開催場所があちこちに散っているので、意識して回った方がいいですよね」
「そうですね。ここから近いのは、大樹姫ジュティア様の担当する出し物ですね」
都市ひとつ丸々を使っての開催であり、七姫がそれぞれ主催となって各地で出し物を行っているという関係上、すべて回るのは中々に大変だ。
比較的中央の世界樹に近い場所に七姫の担当するエリアはあるみたいなので、外周に比べると回りやすくはあるが、それでもひとつひとつの距離はかなりのものだ。
というか、正直言ってすべて回り切るのは難しいのではないかと思ってしまう。
「う~ん、これ全部回り切れますかね?」
「難しいと思うわ。縮図だから近いように見えるけど、ひとつひとつの距離はかなりのものだし、半分回れたらいいところじゃないかしら?」
陽菜ちゃんの質問に葵ちゃんが答える。たしかに、葵ちゃんの言う通りこうして案内図で見れば近く見えるが、実際はかなりの距離だ。
なにせ会場は魔界最大の都市丸ごとなわけだし、徒歩で七姫の出し物をすべて回るのは不可能だろう。馬車があったとしても、ギリギリかもしれない。
「転移魔法でも使えたらいいんですが、お嬢様は使えないんですか?」
「使えることは使えますけど、あまり得意ではないので、世界座標を使って転移するのだと、単独での転移がせいぜいですよ。とても、これだけの人数を連れて転移はできません」
「なるほど、まぁ、転移魔法は本当に得手不得手がはっきり分かれる魔法ですしね。爵位級でも転移魔法が苦手という方は多いみたいですし」
転移魔法は非常に高度な魔法であり、特に世界座標を指定して転移するのはかなりの技術を必要とする。俺、葵ちゃん、陽菜ちゃん、リリアさん、ルナさん、ジークさんの計六人をまとめて転移させられるのは、それこそかなり転移魔法が得意じゃないと難しいだろう。
なおルナさんの言う通り、転移魔法は極端に得手不得手がハッキリする魔法であり、例えば六王の中でもメギドさんは転移魔法があまり得意ではなく、少数の転移がせいぜいだが、転移魔法が得意なアイシスさんは、その気になれば数千人でも数万人でもまとめて転移させられるらしい。
……というか、それならアリスに頼んで転移させてもらえばいいのではないだろうか? アリスは転移魔法も得意だし……。
そんな風に考えた直後、不意に聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「……盗み聞きをするつもりはありませんでしたが、偶然会話が聞こえました。ミヤマカイト様、お困りのようでしたら、私がお力になりますが?」
「え? あっ……『グラトニーさん』!?」
振り返るとそこにはウサギのぬいぐるみを抱え、ゴスロリ風のドレスに身を包んだ黒い髪の少女……グラトニーさんとナターシャさんが居た。
ちなみに、グラトニーさんは基本的に普段はぬいぐるみとして振舞っているため、ふたりきりの時以外はナターシャさんをグラトニーさんと思って接してほしいと言われている。
「……カイトさん、いまなんて言いました? こちらの方は……」
「あっ、えっと……幻王配下幹部の十魔のひとり、グラトニーさんです」
「お見知りおきを……」
リリアさんが青ざめた表情で問いかけてきたので紹介すると、グラトニーさんは軽く会釈をして、それを見たリリアさんは引きつった表情でお腹を押さえた。
「こ、こんどは十魔……うぅっ、お腹痛い。重低音が、お腹に響いてるんですかね……」
「残念ですがお嬢様、その痛みは音楽とは関係ありません」
「どういうペースで六王幹部と会うんですかこの人……もうやだ、本当に怖い……」
「圧巻ですね。まだ、1時間も経ってないのにすでに三人目の六王幹部と遭遇ですか……終わるころには何名と会っているのか、お嬢様だけでなく私も不安になってきましたよ」
まぁ、リリアさんの気持ちもわかる。本当に会場についてから立て続けに六王幹部と会っているので、俺本人としてもビックリな状態である。
でも、本当に偶然なので許して欲しい……。
「えっと、グラトニーさんもハーモニックシンフォニーに来たんですか?」
「はい。知人に誘われまして……それで、話は戻りますが、移動手段をお求めでしたら、私がお送りいたしますが?」
「えっと、それは助かりますけど……グラトニーさんの都合とかは大丈夫ですか?」
「ええ、知人と共にしばらくは会場に居ますので、転移が必要の際には虚空に向かって私の名を呼んでくださればお送ります。この会場程度の広さであれば、どこに居ても名さえ呼んでいただければ気付けます」
「なるほど、ありがとうございます。助かります」
「いえ、ミヤマカイト様のお役に立てるなら、これ以上の喜びはありません」
どうやらグラトニーさんの予定を邪魔することなく、転移魔法で送ってもらうことが可能みたいだ。実際、それはマジで助かる。
けど、それはそれとして、グラトニーさんを誘った知人というのは誰だろう? 単なる直感ではあるが、なんとなくその相手も知り合いのような気がする。
・グラトニー
フュンフに誘われて来た。フュンフは友人であり、グラトニーの正体がぬいぐるみの方であることを知る数少ない相手でもある。
シリアス先輩「これはまさかの繋がり、あの時ハミングバード送ってたのはグラトニーにだったのか……フィーアだと思ってた」
???「なんだかんだで気が合うのか、それなりに仲良くしてるみたいですよ」




