ハーモニックシンフォニー③
ティルさんとの遭遇のあと、ハーモニックシンフォニーにおいてどこになにがあるかを知っておこうという話になり、皆で各所にあるという受付に向かうことにした。
賑わうユグフレシスの道を皆で歩いていると、ふと遠方に見知った人を見つけた。
「……あれ? カミリアさんが居ますね」
「え? どこですか?」
「この先の少し開けている場所で……人が多くて分かりにくいかもしれませんね」
遠くにカミリアさんの姿が見えたのだが、ジークさんはカミリアさんを見つけられていないみたいで首を傾げている。
たしかに人がかなり多いので、見えにくいかもしれない。少なくとも視力に関して、魔力による強化の関係上、俺がジークさんを上回っていることはあり得ないので、単に人が多くて見つけられないだけだろう。
カミリアさんは着ている服の色合いも地味目なものが多いので、集団に紛れると見つけにくいというのも確かにある。
本人に言わせれば、影が薄いということらしいが……。
「み、見つけられません、どこでしょう?」
「結構遠いですし、仕方ないですよ。なにか配ってるみたいなので、行ってみましょう」
リリアさんたちもカミリアさんを見つけられないみたいだ。とりあえず、俺には見えているので近づいてみることにした。
カミリアさんはなにやら紙の束を手に持って道行く人に配っている。なにかの案内だろうかと、そんなことを思いつつ近づいていると、ある程度の距離になると……。
「あっ、居ました! あそこですね」
陽菜ちゃんがそんな声を上げ、他の皆もなにかに気付いたような表情を浮かべたので、皆もカミリアさんを見つけたみたいだ。
結構近付かないと見つけられなかったということを考えると、認識阻害魔法とかを使わなくても町で気付かれないというのは本当なのかもしれない。
「……カミリアさん、こんにちは」
「カイトさんに皆さん、こんにちは……ハーモニックシンフォニーにいらしてたんですね」
「はい。カミリアさんは、なにを配っているんですか?」
「ああ、これは会場の簡単な案内です。カイトさんたちもよろしければどうぞ」
「ありがとうございます。ちょうど、案内が欲しいと思っていたので助かりました」
なんとカミリアさんが配っていたのは、ユグフレシスの地図に主だった行事が書き込まれた紙で、丁度俺たちが欲しいと思っていた案内だった。
受け取ってチラリと見て見ると、七姫が担当する行事の場所もちゃんと記入されていたので、これで問題なくティルさんのところにも行けそうだ。
「……あれ? そういえば、カミリアさんはなにか出し物のようなものはしないんですか?」
「いえ、七姫は全員差はあれど出し物の代表を務めていますので、私もそれなりの数の部下と共に出し物をする予定ですよ」
「え? えっと……なのになぜ案内を配ってるんですか?」
「あ~えっと、ハーモニックシンフォニーは界王配下として一番大きな行事ですし、殆どの配下が参加します。大人数でひとつのことをする貴重な機会ですし、私が一から十まで指揮をとっていては部下の成長の妨げにもなりますので、私は基本的に裏方に回って主導は部下たちに任せているんですよ」
なるほど、たしかに幹部であるカミリアさんがアレコレと指示を出せば部下はその通りに動くだろうが、それでは成長の機会を奪ってしまうと考えて、手動を部下に任せカミリアさんは案内を配ったりといった裏方をしているらしい。
なんともカミリアさんらしいというか、カミリアさんの部下を想う優しさが伝わってくるようである。
「もちろん、七姫もそれぞれのやり方がありますので、ティルさんやエリアルさんのように自ら主導している方も居ます。逆にエリィは、まぁ、ご存知の通り人見知りで表立ってというのは難しいので、私と同じように裏方に回っていますね」
「なるほど……」
「カミリア様~!!」
カミリアさんの言葉に納得していると、なにやら声が聞こえ遠方からひとりの女性が駆けてくるのが見えた。
ノースリーブの上着にレギンスとスカート……赤錆色の髪をショートポニーに纏めており、なんとなく忍者っぽいような雰囲気の格好をした女性だった。
「ランツァさん? どうしました?」
「はい! こちらの準備はすべて終了しましたので、カミリア様をお呼びにきました!」
「そうですか、ずいぶん早いですね。分かりました。私も、もう少し案内を配ったら戻りますね」
女性はカミリアさんに明るい様子で報告を行い、ソレに頷いたあとでカミリアさんは俺の方を向いて口を開く。
「えっと、こちらはランツァさんと言いまして、私の部下です。ランツァさん、こちらがミヤマカイトさんです」
「この方が噂に聞く……お会いできて光栄です! 私はランツァ、『槍枝樹』の精霊で、界王配下の新入りです! 以後お見知りおきを!!」
「あ、はい。よろしくお願いします」
声滅茶苦茶大きい。なんというか、元気な人だ。ランツァさんはそのまま一言二言話したあと、「それでは!」と大きく告げて勢いよく走り去っていった……嵐みたいな方である。
「……げ、元気な方ですね」
「ええ、本当に、行動力もすごくで……まさかあの件から数日で界王配下に入ってくるとは思いませんでした」
「うん?」
「ああ、いえ、個性の強い方ですが、実力は確かなので頼りになりますよ……あ、あはは」
カミリアさんはそう言いながら、なんとも言えないような表情で苦笑を浮かべていた。
シリアス先輩「もうふたり目と会いやがった……それはそうと、このランツァってもしかして」
???「ええ、閑話・大地の華②でリリウッドさんに挑戦しようとしてカミリアさんに負けた精霊ですね。あの後、界王配下に所属して無事カミリアさんの直属になったみたいです」
シリアス先輩「そんな短期間で直属とかなれるの?」
???「彼女は伯爵級ですからね。かなり好待遇で迎えられますし、本人の希望もかなり通るので、カミリアさんの部下を希望したんでしょう」




