ハーモニックシンフォニー②
とりあえずティルさんに皆を紹介する。それぞれが自己紹介を行い、ティルさんも笑顔で自己紹介を返していた。
中でも一番喜んでいるのはもちろん七姫に会いたがっていたジークさんであり、皆の挨拶がひと段落したタイミングで、マジックボックスから……色紙を取り出した。
「あ、あの、ティルタニア様!」
「はえ? なんですか? あと、ティルのことはティルって呼んでくれていいですよ?」
「で、では、ティル様と……え、えっと、ぶしつけではありますが……サ、サインをいただけないでしょうか!」
「あや? ティルのサインですか? いいですよ~お安い御用です」
色紙を差し出しながら告げるジークさんに、ティルさんは快く答えて色紙に手を伸ばし……。
「……あっ、でも、できればこっちに向けて持っててほしいです」
体のサイズ的に色紙を受け取って自分で書くのが難しかったのか、ジークさんに色紙を持ってもらって、そこにサインを書き込んでいく。
やはりティルさんも六王幹部とあって有名人なわけだし、サインにもそれなりに慣れている感じだ。
……まぁ、それはそれとして、ジークさんいつの間に色紙なんて用意してたんだ?
同じことを考えたのか、リリアさんがルナさんに尋ねる。
「……ジークはなぜ、色紙を持ち歩いてるんですか?」
「今回のハーモニックシンフォニーで七姫の方に会えるのを期待して用意してたみたいですよ」
なんて準備のいい。というか、色紙を用意するほど今回のハーモニックシンフォニーで七姫に会えることを確信していたのだろうか? まぁ、事実として即座に遭遇したので間違ってないと言えるのかもしれない。
そんなことを考えていると、サインを終えたティルさんが俺の方を向いて口を開く。
「そういえば、カイトクンさんたちは、ハーモニックシンフォニーは初めてですか?」
「ええ、皆初参加です」
「そうですか! ではでは、ティルがハーモニックシンフォニーについて教えてあげるですよ!」
「それはありがたいですが、時間は大丈夫ですか?」
遭遇した時に、ティルさんは凄い勢いで飛んでいたし、主催側の幹部ということもあって忙しいのではないかと思う。
実際にさっきも「少しなら大丈夫」と発言していた。
俺の質問に対して、ティルさんは小さな懐中時計を取り出して確認したあとでニコッと明るい笑顔を浮かべる。
「もう少しなら大丈夫です!」
「そうですか、それなら少し教えてもらってもいいですか?」
「はいです! ハーモニックシンフォニーは、ユグフレシスのあちこちで歌や演奏や踊りが行われているです。見学してもいいですし、あちこちにある受付で申請すればすぐにスペースを貰えるので、そこで自分で演奏や歌を披露することも出来るです」
「本当に音楽の祭典というか、そんな感じですね」
元気よく説明してくれるティルさんの可愛らしさに和みつつ、ハーモニックシンフォニーについての情報を頭に入れていく。
「自分のスペース以外に音が漏れないようにする防音魔法具とかも貸し出してるので、誰かの近くで演奏したりするときも安心です! あとあと、出店とかは無いですがユグフレシスにあるお店は、普段通り営業してるですから、利用もできるです!」
「ふむふむ……ちなみに、ティルさんもなにかやってたり?」
「はいです! ティルたち七姫も、それぞれ中心になって出し物をしてるです。ティルも妖精のお友達と一緒に演奏会をするので、カイトクンさんたちも是非是非きてくださいですよ」
「はい。演奏を楽しみに足を運ばさせてもらいますね」
ある程度予想はしていたが、やはり七姫も歌や踊りといった出し物をしているらしい。エリアルさんとかはたぶん踊りだろう。
ハーモニックシンフォニーの規模を考えると、一ヶ所に固まってやっているとは考え辛い。むしろ、人の集中を避けるためにも、七姫はそれぞれ別の場所に配置されている可能性も高いだろう。
ジークさんのことを思うと、七姫たちの場所を準に回るような感じにするのがよさそうだが……。
「ハーモニックシンフォニーは、自然との対話というのが大きなテーマです! 歌や踊りを通じ、自然と対話し様々な種族、多くの人たちが自然と……し、しぜんとぉ……」
「うん?」
自信満々な表情で話していたティルさんだが、途中でなにやら困ったような表情を浮かべたかと思うと、空中に突如開いた裂け目に手を入れ、メモのようなものを取り出した。
「……自然と共存しているのだという意識を強く持ってもらいたいという思いがあるのです! なので、音楽だけでなくユグフレシスに溢れる自然にも、是非是非注目してほしいですよ!」
……どうやらあのメモは、カンペだったみたいだ。言い切って自慢げな表情を浮かべるティルさんは大変な可愛らしさである。
しかし、少ししてティルさんはハッとしたような表情を浮かべて口を開く。
「あっ、もうこんな時間です! ごめんなさい、カイトクンさん、皆さん、お友達たちが待ってるのでティルはもう行くです。またあとでお会いしましょう!」
「あっ、はい。いろいろ教えてくれてありがとうございます」
「いえいえ~それじゃ! またあとで演奏見に来てくださいね!! ではでは~!」
「あっ、ティルさん……」
「またですよ~」
「……いや……ティルさんの演奏をどこでやってるか聞いてないんですが……」
勢いよく去っていったティルさんに俺の言葉は届かなかったみたいだ。う、う~ん、とりあえず受付みたいなのがあちこちにあるって話だし、そういうところで聞いてみよう。
シリアス先輩「さて、ここで注目したいのが快人たち一行はハーモニックシンフォニー中に、七姫全員と会うかどうか……ジークが会っていない残り三人と会うのは確定だろうが、すでに会っているカミリア、ロズミエル、ジュティアはどうなるのか」
???「う~ん、エインガナさんとかとも会うことを考えると、全員は多すぎるので、その三人とは茶会で話す感じじゃないですか? 出し物は見に行く的なことを言ってたので、行くことは行くんでしょうが、会話があるかどうかは微妙そうですね」
シリアス先輩「サラッとエインガナとニーズベルトのペアと会うことが確定してる」




