ハーモニックシンフォニー①
コミカライズ第六巻の発売日は4月26日です! 活動報告に公式へのリンクがあります。
自然都市ユグフレシスは、巨大な世界樹をぐるりと囲むように都市があり、ユグフレシスはその都市の規模……大きさで言えば、メギドさんの治める都市やクロの居城のある都市を抑え魔界最大の都市である。
ただ、大きな建物が立ち並ぶ都市というような感じではなく、ツリーハウスなども多い文字通り自然都市と言える独特の雰囲気だ。
「凄いですね! なんか、いままでで一番ファンタジーな街並みって感じですね!」
「たしかに、森の中の都市って感じがするわね。それに、あの世界樹の大きさ……リグフォレシアの樹も大きいと思ったけど、桁が違う感じね」
転移魔法でユグフレシスの入り口に辿り着くと、陽菜ちゃんが嬉しそうな表情でテンション高く声を上げ、葵ちゃんも世界樹の大きさに驚きながら呟く。
たしかに世界樹の大きさはすさまじく、まさに都市全体が世界樹の樹の下といっても過言ではない。しかも、それでいて、日の光とかはちゃんと届いているのは、なにか細工をしているのかもしれない。
「もうすでに、少し音楽が聞こえてきますね」
「ええ、私も母から話を聞いた程度で参加したことはなかったので、楽しみですね」
「おや? 意外ですね。七姫の方々を目にできるチャンスだったのでは?」
「さすがに、人界から魔界への旅行はほぼ行ったことが無いですよ。父と母は昔人界を旅していたみたいで、人界に関してはいろいろ連れて行ってもらいましたけどね」
ルナさんとジークさんが楽し気に会話を交わす中、近くにいたリリアさんもなにやら苦笑を浮かべながら口を開く。
「まだジークが会っていないのは、魔華姫リーリエ様、天花姫エリアル様、妖精姫ティルタニア様、桜花姫ブロッサム様の四人ですね。普通であれば、会えるわけがないと言いますが……まぁ、カイトさんが居るのでたぶん会えるでしょう」
「あ、あはは……」
そう言って少し呆れた目でこちらを見てくるリリアさんに苦笑しつつ、俺たちはユグフレシスの都市の入り口である大きな木造りの門を通過する。
さすがに規模は都市全体ということもあって、入場制限とかもなく人は多いが、移動に困ったりする程ではない感じだ。
ルナさんの言う通りすでにあちこちから音楽が聞こえてきており、なんだか楽しい雰囲気である。
ワクワクした気持ちを感じつつ、最初にどこに行こうかと考えていると、不意に視線の先にかなりの速度で、なにかが横切ったかと思うと……数秒後に戻ってきた。
「あやっ!? カイトクンさん、カイトクンさんです!!」
ラズさんとお揃いの緑の服に身を包んだ金色の髪の可愛らしい妖精……ティルさんである。
「ティルさん、こんにちは」
「はい! こんにちはですよ~カイトクンさんもハーモニックシンフォニーに来てくれたんですね! カイトクンさんと会えて、ティルはとっても嬉しいですよ!!」
俺と偶然会えた喜びを表現するようにくるくると俺の周りを飛ぶティルさんは、さすがの愛くるしさである。
しかし、その可愛らしい光景の端で……リリアさんが、目に手を当ててフラリと態勢を崩し、ルナさんが慌てて支えていた。
「……」
「お嬢様!? しっかりしてください」
「……なんで……なんであの人は……いつも、こうなんですか……さっきの会話は、ちょっとした冗談みたいなもんじゃないですか……魔界最大の都市ですよ? 大規模な行事ですよ? 主催側で多忙であろう六王幹部ですよ? ……秒じゃないですか……秒で遭遇してるじゃないですか……」
ルナさんに支えられながらリリアさんは戦慄したような様子だが、今回に限って言えば特になにか意図したわけでもなく、なにかを伝え忘れたわけでもなく、本当に偶然の遭遇である。
なんなら、ハーモニックシンフォニーに参加することも別に七姫の人たちに伝えているわけでもないので、待ち構えていたとかではなく、本当にたまたま通りがかっただけである。
「……都市に入って2歩ほどでしたね。さすがミヤマ様というべきか、匠の御業にこのルナマリア、ただただ感服するばかりです」
「まぁ、快人さんですし」
「快人先輩ですからね。どこかで会うのは分かり切ってましたし、早いか遅いかだけの違いですよ」
誰がなんの匠だ!? そして、後輩ふたりはリリアさんに比べると落ち着いているというか、もはや諦めの領域に達している感じだ。
文句のひとつも言いたいところではあるが、現在はティルさんと会話中なのでそれもできない。
「カイトクンさんは、お友達と来たですか?」
「あ、ええ、時間が大丈夫なら、紹介しますが……」
「大丈夫ですよ! そんなにたくさんは無理ですけど、少しなら平気です!」
まぁ、図らずもジークさんの願いを早々に少し叶えることができたと思えば……ちなみにジークさんはティルさんが登場してから、キラキラとした期待の籠った目でこちらを見ていて、なんだかとても嬉しそうである。




