閑話・ハーモニックシンフォニー前日
魔界南部の山脈地帯に面する海。海面が大きく揺れ、海の中から巨大な水竜……エインガナが姿を現す。
たまたま近くの岩山の上に立ち、腕を組んで瞑想をしていたニーズベルトはソレに気付き視線を動かした。
エインガナの方もニーズベルトに気付き、響くような声で話しかけた。
『偶然ですね、ニーズベルト……相変わらず鍛錬ですか?』
(今は手持無沙汰故、瞑想をして魔力を研ぎ澄ませていた。貴公の方は珍しいな、完全に海から出てくるとは……あぁ、そうか、もうそんな時期か)
『ええ、明日はハーモニックシンフォニーですからね』
(貴公は音楽好きだからな。生憎我には音楽の良し悪しはあまり分からぬが……)
エインガナは音楽が好きであり、日ごろからクラシックコンサート等にもたびたび足を運んでいる。そんな彼女にとって三年に一度のハーモニックシンフォニーは楽しみにしているイベントであり、毎回スケジュールを調整して参加している。
『ニーズベルトも参加してみませんか?』
(……むぅ、たしかに分からぬというままで放置するのも問題か……予定に空きはある。参加するのも悪くはないか)
『決まりですね。それでしたら、ぜひ一緒に行きましょう。分からなければ、私が解説します』
(そうだな、それではよろしく頼む)
向上心の塊であるニーズベルトは、エインガナの誘いを受け音楽の良し悪しがいまいち分からないという部分を克服する機会にもなるだろうと、ハーモニックシンフォニーへの参加を決めた。
『それじゃあ、明日の予定を話し合いますか?』
(いや、しばし待て、明日に予定していた鍛錬も今日のうちにこなしておく)
『……そ、そうですか』
魔界にあるクロムエイナの居城でも、明日のハーモニックシンフォニーを楽しみにしている者が居た。
「楽しみですね! 明日は、ハーモニックシンフォニーですよ!」
「あんまりはしゃぎ過ぎないようにね。けど、たしかに楽しみだね」
ハーモニックシンフォニーが楽しみだと、小さな体で飛び回りながら喜びを表現するラズリアを見て、フュンフが楽し気に笑う。
ラズリアはティルタニアと仲が良いこと、そして彼女自身が妖精であり歌や音楽を好むこともあって、ハーモニックシンフォニーには毎回必ず参加していた。
「う~ん、せっかくだし今年は私も行こうかなぁ」
「フュンフお姉ちゃんもいくですか? じゃあ、ラズと一緒に行くですよ!!」
「ふふ、そうだね。一緒にいこうか」
「はいです! わーい、フュンフお姉ちゃんと一緒です! ますます楽しみですよ~」
フュンフも予定が空いていたこともあり、せっかくの機会だからとハーモニックシンフォニーに参加することを告げると、ラズリアはますます嬉しそうに室内を飛び回る。
その様子を微笑まし気に見ながら、ふとフュンフはなにかを思いついたように、『誰かに向けてハミングバードを飛ばした』。
魔界の北部、死の大地にあるアイシスの居城では配下の三人が紅茶を飲みながら会話を行っていた。
「……ハーモニックシンフォニー? ふむ、噂には聞いたことがあるが、参加したことはないな」
「それは私も一緒だよ。まぁ、ハーモニックシンフォニーの方は、特に私たちには関係ないさ、関係があるのはその後に行われる茶会の方だよ」
長らく鍛錬漬けだったシリウスはハーモニックシンフォニーに関してもそれほど詳しくはしならない。首を傾げるシリウスを見て、ポラリスは軽く苦笑を浮かべながら白いとんがり帽子を被りなおす。
「ハーモニックシンフォニーの後に行われるリリウッド様主催の茶会に、アイシス様も招かれている。アイシス様は我らも共に参加することを希望している故、我らもその席に参加することに決まっている」
「なるほど……しかし生憎と私は作法などは分からないぞ?」
「いや、それほど堅苦しいものではないらしい」
「ふむ……」
アイシスはリリウッドの親友であり、当然ではあるが毎回ハーモニックシンフォニーのあとの茶会へは招待を受けていた。
ただしいままでは、死の魔力の事情もありアイシスが参加することはなかったのだが、今回は快人のおかげで以前より死の魔力は和らいでおり、なおかつ三人の配下も居るため参加することを決め、イリス、ポラリス、シリウスの三人も同行することになっていた。
「ああ、そう言えば、茶会にはミヤマカイトも参加するとのことだ。機会があれば、貴様たちも顔合わせをする機会があるかもしれんな」
「おぉ、それは僥倖。私たちにとってもとても重要な方だしね。私としても、早いうちに挨拶をしておきたいと思っていたところなんだ」
「私はそのミヤマカイト様とやらのことを、アイシス様の恋人という以外はよく知らないのだが……どのような人物なのだ?」
「話せばかなり長くなる故、ある程度は短縮して話すが……そうだな、我が初めて会ったのは六王祭の折だった」
快人のことをよく知らないというシリウスに対し、イリスが説明を始めるのを横目に、ポラリスはそっとポケットの中から一枚のカードを取り出して眺めていた。
高級感あふれるカードには『ミヤマカイト愛好会・会員№85』と、そう記されていた。
シリアス先輩「というか愛好会の人数が最低でも以前の8倍以上に増加してるんだけど!?」
???「ちなみに、この愛好会は知る人ぞ知る愛好会なので、それなりの実力や情報力が無ければ辿り着けません」
シリアス先輩「……会員の戦闘力とかめっちゃ高そう」




