教主と店主③
完全に混乱しきっている様子の香織さんに対し、俺はできるだけ簡潔に、それでいてちゃんと要点が伝わるように考えて言葉を発する。
「香織さん、ものすごく簡単に言うと、俺が凄いわけではなくて……縁あって三界のトップのとかその辺の方々と親しくさせてもらっている感じです。なので、俺がどうこうではなく、知り合いが凄いんです」
「気のせいかな? いま快人くんサラッと、各世界のトップ全員と親密みたいなこと言わなかった?」
「……まぁ、親密で間違いないです。皆さん誕生日とか祝いにとか来てくれたりするので」
「六王様や最高神様や各国の王様が個人の誕生日を祝いに行く? おかしいな、私の知ってる常識と違うよ……私はいつの間に新しい世界に迷い込んじゃったんだろう」
香織さんは遠い目をしてそう呟いたあと、キリッと真剣な表情を浮かべ……なぜかメニューをふたつ持って来た。
「その辺りはこれから詳しく聞くとして……とりあえずご注文は?」
「切り替えはっやっ……」
「いや、まぁ、ビックリしてるけど、それはそれ……これはこれ、定食屋の店主として、お腹を空かせたまま話だけ続けるわけにはいかないよ!」
昼間に会った時も思ったが、香織さんは結構こういう切り替えが早い。なんとなくメンタルは強そうな印象である。
それはともかくとして、たしかに注文はしておこうと受け取ったメニューをオリビアさんに手渡しながら口を開く。
「俺はもう何を食べるか決めてるんですが、オリビアさんはどれにしますか? 分からない料理があれば、どんなものか説明しますよ」
「お心遣い痛み入ります。ですが、先に申し上げた通り私は飲食の経験がほぼありませんので、不敬でなければミヤマカイト様に追従する形で同じものを注文したいと考えておりますが、いかがでしょうか?」
俺は昼間に来たときから食べたいと思っていた豚の生姜焼き定食を頼むことに決めているので、オリビアさんの希望を聞こうと思ったが……ある意味必然ではあるが、飲食経験が皆無と言っていいレベルのオリビアさんにはこれが食べたいという希望はないみたいだった。
「了解です。それじゃあ、香織さん、豚の生姜焼き定食をふたつお願いします」
「は~い……というか、本当に快人くんの方が立場が上なんだね。教主様が明らかに畏まってるし……やっぱりフィクサーでは?」
「違います」
戦慄したような表情でこちらを見つつも、香織さんはテキパキと準備を進めていく。そして作業を行いながら、話の続きと言わんばかりに尋ねてきた。
「話は戻るけどさ、快人くんって本当に六王様とかと全員知り合いなの?」
「ええ、その通りです」
「うっそだ~……って言いたいよ。教主様が実際に居なければ絶対信じなかったよ。勇者役をやった私でも、殆どの相手とは軽く挨拶程度にしか関わってないんだけど……ちなみに、私は六王様ではちゃんと話をしたのは、クロムエイナ様とリリウッド様ぐらいだよ。特にクロムエイナ様はすっごく優しくて気さくで話しやすかったけど、他の六王様はこう……ものすごい威圧感というか、死王様に関しては遠くから見るだけで震えて近付けなかったし……」
まぁ、たしかに言われてみれば、アイシスさんは死の魔力があるから仕方ないにしても、メギドさん、マグナウェルさん、そして幻王状態のアリスは近寄り難い雰囲気があるかもしれない。
「最高神様の中では、代表して時空神様と軽く挨拶したぐらいかな? あっ、でも豊穣神様に移住者の祝福の特例についてのお話を伺ったから、豊穣神様とは少し話してるかも?」
「祝福の特例、ですか?」
「この世界に移住した異世界人には、毎年新年に行う祝福を受ける際の費用が免除される特例与えられます。その説明を行うのは召喚国の下級神となります」
俺の疑問に対し、オリビアさんが簡潔に説明を入れてくれた。
「教主様の言う通り、毎年祝福を無料で受けられるっていう特例だよ。免疫とかの関係で、異世界人はこっちの世界特有の病気とかに罹りやすくて、その対策って話だよ」
「あ~なるほど、俺もこの世界に来てすぐ、受けに行きましたね」
「うんうん。ちなみに転送費用も免除になるから、大聖堂の受付に行けば希望の神殿に転移魔法で送ってくれるんだよ。だから私は毎年豊穣神様の祝福を受けに行ってるね」
「そっか、仮祝福は本祝福と違って一年で効果が切れるから、定期的に受けに行く必要があるんですね」
「そうそう、まぁ、そもそも本祝福なんて受けてる人自体が稀だよ。というか、本当に要るのかなってレベルの一種の都市伝説だよ。あはは」
「あ、あはは……」
苦笑を浮かべる香織さんに対して、俺はなんというか引きつった笑みを返してしまった。どうしよう、ソレに関することが切り出しにくくなってしまった。
しかし、隠していたとしてもいい結果にはならないだろうし、う、う~ん、どう切り出そうか……。
そう考えていると、オリビアさんがまるで当たり前のことを伝達するみたいに淡々とした口調で告げた。
「ミヤマカイト様は、創造神シャローヴァナル様の本祝福を受けています」
崩れ落ちた香織さんの頭がカウンターにぶつかる鈍い音が、静かな店内に響いた。
シリアス先輩「おっ、リリアより胃の耐久力強そうやん……と思わせから、胃にコークスクリューブローをぶちかますがごとき一撃……恐るべき胃クラッシャーである」




