教主と店主②
しばらくオリビアさんと景色を眺めたあとは、即座に大聖堂に戻れるオリビアさんの能力によって一度大聖堂に戻り、再び外に出て途中で他の店にもよったりしながら香織さんの店を目指す。
結構のんびり移動したこともあって、香織さんの店に着くころにはすっかり日も暮れて夕食時だった。
営業時間的には問題ないのを確認しつつ、店の扉を開けるとカウンターで皿を洗ってた香織さんが、来訪に気付いて明るい笑顔を浮かべてくれた。
「いらっしゃい、快人くん! いいタイミング、丁度客足もひと段落したところだったんだ……ささ、カウンターへどうぞ」
「失礼します。混んでて座れなかったらどうしようかと思ってたので、よかったです」
「あはは、ウチは定食屋だから、混み合うのは基本的に観光客の多い昼だよ。お酒の取り扱いも少ないから、夜はむしろ空いてるね」
言われてみれば居酒屋ではなく定食屋なので、そこまで夜に賑わうという感じではないのかもしれない。異世界の料理ということもあって、観光客がメインの客層だろうし、遅い時間はあまり観光客も居ないのだろう。
そんなことを考えつつ、オリビアさんと共にカウンター席に座ると、香織さんはなにやらニヤニヤとした表情を浮かべた。
「それにしても、ものすごい美人さんと一緒だね。快人くんもすみに置けないなぁ~快人くんの恋人かな? けど……う~ん、なんかどっかで見たような?」
「あ~いや、この人は……」
そこまで言って俺は店の中に視線を動かす。香織さんには一応教主さんに会うとは言っていたが、他のお客さんが居ると騒ぎになる可能性もあるので念のため確認してみた。
ただ、幸いほかに客は居ないみたいだったので、少しほっとしながら香織さんの質問に答える。
「ほら、昼間に言ったじゃないです。これから教主さんに会いに行くって……教主のオリビアさんです」
「……」
「あ~なんだ教主様かぁ、いつもと恰好が違うから分からなかった――えぇぇぇぇぇぇ!?!?」
俺の紹介に続いてオリビアさんが軽く会釈をすると、香織さんはニコやかな表情を浮かべたかと思えば、突如すさまじい勢いで後ずさった。
なんとなくそんな気はしていたが、やはり昼間に伝えた言葉は冗談として流されていたみたいだ。
「きょ、教主様!? なな、なんで教主様……あばばば、ひ、昼間のって冗談じゃなかったの!?」
「もしかしたらとは思ってましたが、やっぱり冗談と受け取られてたんですね」
「そりゃそうだよ! 一般人が会えるような相手じゃないよ!?」
大慌てといった様子の香織さんだったが、少しして冷静さを取り戻したのか、肩で息をしながらどこか呆れたような顔で口を開く。
「……はぁ、けど、そっか、なんとなくわかったよ」
「分かった? なにがですか?」
「快人くんって、神殿の関係者なんだね! お金持ちだったし、もしかして神様に気に入られていい立場を貰えてるのかな? それで、教主様に挨拶するためにやってきたってことだね」
う~ん、なんというか当たらずとも遠からずという感じかもしれない。広義の意味では関係者と言えなくもないし、神様に気に入られて云々はまさにその通りである。
そう思っていると、香織さんはなにやら少し怒ったような表情を浮かべて俺に声をかけてくる。
「だけど、駄目だよ、快人くん。そりゃ、異世界料理は珍しいかもしれないけど、こんな定食屋に上司を接待で連れてきちゃ……いや、もちろん頑張って腕を振るうけど満足してもらえるかは分からないよ? 快人くんの出世に響いたりしない?」
「……店主、少しよろしいですか?」
「はひぃ!? なな、なんでしょう?」
そのタイミングでオリビアさんが店に来て初めて声を発し、話しかけられた香織さんはかなり恐縮した様子で姿勢を正す。
この恐縮具合を見る限り、都市の代表であるオリビアさんは、行ってみれば友好都市という国の王みたいなポジションなのかもしれない。
「私も知らぬことが多い身、無知を罪とはいいません。ですが、そのまま聞き流すわけにはいかぬ発言がありましたので、訂正させていただきます」
「て、訂正? なにをですか?」
「いいですか……立場という意味合いであれば、『ミヤマカイト様が上で私が下』です」
「えぇぇぇ……な、なんで……快人くんって何者? フィクサーかなにかなの? 世界の影の支配者なの?」
「おおむねその認識で間違いありません」
「いやいやいや……大間違いですって」
とんでもない話になってきたので、慌てて訂正に入る。
いや、でも待てよ……実質的な世界の裏の支配者をアリスと考えるなら……意味合い的に間違いじゃなくなってくるのか?
ともかく、まずはその辺りをしっかり説明しなければならない気がした。
シリアス先輩「世界の表の支配者をシャローヴァナル、裏の支配者をアリスって考えるなら……たしかに快人がフィクサーでおおむね間違ってない気がする」
???「本人が実際に政治関連に口をはさむことはないでしょうけど、その気になればどうにでもできるだけの人脈はありますよね」




