教主と店主①
ちょっとワクチン接種三回目の副作用により、熱が出ててしんどいので今回は短めです。
たどりついた勇者の丘の石碑、なんだかんだでいままでにも数度訪れているが、やはりここはとても景色がいい。
友好都市ヒカリを一望できる光景は、まさに絶景と言えるだろう。
おぶっていたオリビアさんを降ろし、一緒に石碑の裏手……友好都市がよく見える位置に移動して、景色を眺める。
「……こんな風に友好都市を見たのは、初めてです。千年以上も代表を務めていながら、情けない話ですが」
「いや、意外と自分が住んでる街をマジマジと見る機会ってないものですよ。観光で行ったところとかは結構全体を見たりするんですけどね」
いま住んでいるシンフォニア王都に関しては、天空城があるので何度が見下ろす形で見たことはあるが、この世界に来るまでに住んでいた街はそんな風に見た覚えはない。
というか、正直普段自分が使う行動の範囲ぐらいしか知らないので、結構な頻度で散策とかをしているシンフォニア王都の方がいろんな場所を知っているかもしれない。
「まぁ、なんにせよ。新しいものを見て、知るってのはいいことだと思いますよ」
「……そうですね。そのお言葉は、いまならば少し理解できる気がします」
「それはきっと、オリビアさんが成長出来てるってことなんだと思いますよ」
「ミヤマカイト様のご指導のおかげですね」
実際、オリビアさんは最初に会った時より短期間でかなり雰囲気が柔らかくなったと思う。少なくとも俺に対して、ガチガチの敬う態勢だったのを少し緩和してくれたというか、友好的に接してくれるようになった気がする。
あと、少しだけど微笑んだりといった顔を見せてくれるようになった。
「そういえば、ここに来るまでなんだかんだでそこそこ時間もかかりましたし、もう少しで夕方ですね」
そもそもオリビアさんと一緒に出かけたのが昼下がりからだったので、そろそろ夕方と言っていい時間帯である。
まだ空は赤らんでないが、友好都市に戻るころには夕焼けが見えていると思う……いや、いっそここでしばらく景色を眺めて夕日を見てから帰るのもいいか? まぁ、その辺はオリビアさんと相談だろう。
「夕食なんですけど、友好都市内に俺の居た世界の料理を出す店があるので、よろしければそこに行きませんか?」
「異世界の料理……たしか、元勇者役が経営しているスイレンという店がありましたが、その店でしょうか?」
「あっ、ご存じなんですね」
「あくまで知識としては、ですが……行ったことはありません」
香織さんの店には夜に行くと話していたし、丁度いいのでオリビアさんと一緒に行こうと思って提案した。
オリビアさんは少し沈黙したあとで、フッと優し気に微笑み告げる。
「ミヤマカイト様の御意向のままに」
台詞はオリビアさんらしい言い回しだが、その声には優しさが宿っているような気がした。
シリアス先輩「同郷の胃を破壊しに行くスタイル」




