エイプリルフール番外編「あと(以下略)その3」
よく晴れた日の朝、ジョギングついでに軽く買いものでもといつもより遠くまでやってきた。すると、前方に見覚えのある背中を見かけたので、声をかける。
「おはようございます」
「きたか……今日が何の日か分かるか!」
「は? え?」
「そう、今日はシリアスの日! すなわち、私の日だ!!」
シアさんだと思って声をかけると、テンション高めに相変わらずわけの分からないことを言い始め、そこで俺は目の前の人物がシアさんではないことを理解した。
「ああ、先輩の方だったんですね。そっか、もうそんな時期なんですね」
「いや、人を季節の風物詩みたいに言わないでほしい……」
いや、俺の感覚としては1年に1回だけ現れる変わった人なので、季節の風物詩といっても過言ではないと思う。
この自称シリアスの化身であるシリアス先輩は、なんか普段は変な部屋に幽閉されているらしく年に一回だけ外に出ることができるらしい。
それだけ聞くと、変な事件に巻き込まれてるように感じるが、特に先輩からは悲壮感とかはなく、毎回現れては観光しているだけである。
「しかし、毎度毎度よく会えるもんですね。先輩って年に1回しか外出れないんでしょ?」
「いや、なんかいっつも外出るとお前の近くに飛ばされるから……基本部屋の外に出る時はお前の近くになるんだと思う」
「……俺別にその変な部屋と関係ないんですけど……」
「そう思ってるのはお前だけだから……まぁ、いいや」
呆れたような目で俺を見たあと、シリアス先輩はコホンと咳払いをして、俺を真っ直ぐに見つめながら声を発した。
「……三度目の遭遇だ! もう、私の目的は分かってるな!!」
「あ、はい。じゃあ、今日はどこ行きましょうか、朝食がまだなら近くに美味しいパン屋があるんでそこ行きません? 店内で食べれるようにもなってるので」
「あっ、いいね。やっぱり朝はパンとコーヒーで――違うっ!! シリアスだよ、シリアス!! お前私が何の目的でここに来てると思ってるんだ!?」
「……年に一回の観光では?」
「……否定できないのが辛いところ」
相変わらずテンションの振れ幅が凄まじい人である。コロコロと表情やテンションが変わるさまは、なんというか見ていて飽きない。
まぁ、もちろん先輩がシリアスとやらを探してやってきているのは知ってるが、具体的なことは本人すら知らない上に、毎回マジで観光してるだけである。
今回もなんだかんだと言いながら、俺と一緒にパン屋に向かって歩き始める辺り、本人も普通に観光してるつもりなんじゃなかろうか? まぁ、いっても認めないと思うけど……。
「あ、そうそう、聞いて! 私、V2だった!! 凄いだろ、褒めていいよ?」
「V2? ……なんか勝負でもしたんですか?」
「そう! 人気投票で二回連続第一位だった! しかも圧倒的……凄いだろ?」
「凄いですね。先輩は沢山の人に愛されてるんですね」
……人気投票? それはなんの人気投票なんだろうか? 普段は変な部屋にいるって話だったけど、いったい誰と人気を競い合うんだ?
まぁ、先輩が変なことを言うのはいつものことだし、あんま気にしてもしょうがないだろう。先輩はとにかく褒めて欲しいみたいだったので、賞賛しておくことにした。
「ふふふ、もっと、もっと!」
「二回連続となると、短期的な人気じゃなくて長く多くの人に指示されてるってことですよね。支持を維持てきてるのは凄いことですし、シリアス先輩の魅力が多くの人に伝わってるんでしょうね」
「えへへ」
「実際俺も先輩といると、賑やかで楽しいですし、そういう周囲を明るい雰囲気にするって言うんでしょうか? そう言った人柄が先輩の魅力ですよね」
「……あぅ……あ、あの……そろそろやめ……」
「顔立ちも美人ですし、笑顔もすごく魅力的ですよ。なかなかここまでいろんな魅力を兼ね備えている人も少ないでしょうし、自身を持っていいと思います」
「やめろぉぉぉぉ! そんな絶賛されると照れるから! 攻略されちゃうからぁぁぁぁ!!」
歩きながら賞賛していると、シリアス先輩は耳まで真っ赤になった顔で叫ぶ。相変わらず訳の分からないことは言っていたが……照れているみたいだ。
……自分で褒めろって言ったのに……。
「……はぁ……はぁ……くそっ、昨年より女慣れしてやがる。だが舐めるなよフラグ王! その程度で私が堕ちると……」
「あっ、先輩そこは馬車の通り道なのでもっとこっちに」
「ひゃぅっ!? てて、手を引かれ……あわわわ……や、優しくして……」
「……あっ、パン屋見えましたよ」
「スルー!?」
テンションがコロコロと変わり叫ぶ先輩に苦笑を浮かべつつ、目的のパン屋へ入ることにした。
朝食を食べたあとも、シリアス探しという建前の観光は継続する。
「先輩の部屋って、インテリアとかはないんですか?」
「ないな。テーブルと椅子とソファーがあるだけ」
「シンプルな感じですね。テーブルの上になにか置いたり、観葉植物とかあってもいいんじゃないですか?」
「まぁ、そうだな……なんかあってもいいかもしれないな」
そんな会話をしながら歩いていると、広場の一角に似顔絵屋というのを見つけた。なんでも。似顔絵を描いて額縁に入れてくれるらしい。
「面白そうですね。せっかくですし、一緒に描いてもらいません?」
「い、一緒に!? ま、まぁ、快人がそこまでどうしてもって頼むんなら、仕方ないか……借りもあるし、仕方ない!!」
滅茶苦茶仕方ないと強調しつつも、ちょっと顔が赤いのでたぶん照れてるんだと思う。ツンデレとはちょっと違うかもしれないが、なんか変なところで素直じゃないんだよなぁ。
まぁ、それも微笑ましい部分ではあるかとそう考えつつ、似顔絵屋の前に移動する。
「いらっしゃいませ~」
「なにしてんだ馬鹿……」
「小遣い稼ぎです」
「断言しやがった……」
ベレー帽を被った男性の店主……だが、一目見てなんとなくアリスだと思ったので呆れながら声をかけると、小遣い稼ぎをしているらしい。
例によって分体だろうが、ほんとにいろんなところに居やがるなコイツ……まぁ、アリスならクオリティは安心ではある。
「……って、シリアス先輩じゃねぇっすか、ああ、そっか今日は日本で言うところのエイプリルフールなんすね」
「お前も、季節の風物詩扱いか……」
「デートっすか?」
「違う! シリアスを求め、シリアスを探求する果てなき旅だ!!」
……求めると探求で意味が被ってるんだけど……ま、まぁ、その辺も先輩クオリティだろう。というか、やっぱりこのふたりって知り合いっぽいな。
黒いねこの着ぐるみの時は、バレバレなのにアリスではないとか言ってたけど……。
「まあまあ、それで似顔絵描けばいいんですか?」
「ああ、ふたり一緒に頼む」
「了解ですよ~ほい、できました」
さすがというべきか、ほんの数秒で書き終わったみたいで、アリスは似顔絵を先輩に渡す。俺の位置からじゃ、先輩の手元が見えなかったので、少し体を動かして確認しようとすると……先輩はバッと絵をたたんで、凄い勢いで俺から距離を取った。
「……え?」
「おまっ、お前……ふざけるな!! なんて絵を描いてるんだ!!」
「よく描けてません?」
「捏造じゃねぇかぁぁぁ!!」
う~ん、状況はよく分からないけど、アリスの悪ふざけが発動して変な絵を描いて渡したのだろう。俺に見られかけて隠すということは、たぶん俺じゃなくて先輩の方が変な描かれ方してるんじゃないかと思う。
「……じゃ、捨てます?」
「……い、いや、これはこれで貰う……けど、ちゃんと書き直せ」
「はいはい、注文が多いっすね」
なんとなく不思議なやり取りだったので、意味が分からない俺は首を傾げつつ先輩に話しかける。
「あの、先輩?」
「よ、よるなぁぁぁ!」
「う、うん?」
「い、いまは、近寄るな。これは大変危険な品だから……私は絶対攻略されたりなんてしないからな!!」
「……はい?」
う~ん、さっぱり意味が分からないけど……またしても顔が赤くなっている。う~ん、アリスとのやり取りを見る限り、なんとなく先輩っていじられキャラのような、そんな気がした。
まぁ、なんだかんだでこういう騒がしい空気も嫌いではないが……。
シリアス先輩が、快人に見られないように必死に隠している絵……そこには、最初の要望通りシリアス先輩と快人のふたりが書かれていた。
ただし、アリスの悪乗りによって、シリアス先輩が快人の頬にキスをしているという構図で、まるで写真のようなクオリティで書かれていたのだった。
シリアス先輩(好感度99999)「いや、タイトルさらに短くなってるんだけど!? もうあとがきとすら書かれてない!?」
???「……これはもう攻略済みなのでは?」
シリアス先輩(好感度99999)「……されてない。キュンとかしてない。私は全然フラグとか建ってない」
???「……でも、キスしてる絵は飾ってるじゃないっすか」
シリアス先輩(好感度99999)「捏造だから! 実際にはしてないから……ま、まま、まぁ、捨てるのもしのびないから、仕方なくね……本当に仕方なくね!!」




