教主オリビア⑥
中央広場で出店巡りはそこそこにして、広場から離れて移動する。途中で雑貨店があったので、オリビアさんと一緒に入ることにした。
その雑貨屋はインテリアっぽい小物が多い店で、シンプルながらお洒落な感じだった。まぁ、普段いく雑貨屋は……食品以外は何でもあるレベルのごった煮店なので、また違う雰囲気だ。
「これはどうするものなのでしょうか?」
「小型のインテリアなので、机の上とかに飾る感じですね」
「飾ることによってどのような効果が?」
「こ、効果? え、えっと、部屋の彩りが増える……とか、ですかね」
「彩が増えることによってなんらかの影響があるのでしょうか?」
「……気持ちが前向きになるとか、雰囲気がよくなるとか……」
「なるほど、精神に作用のある品なのですね」
間違ってはない、間違ってはないのだが……魔法具かなにかと勘違いしているような気がする。興味深そうにいろいろなインテリアを見ているオリビアさんを見て、なんだか少し微笑ましい気持ちになりつつ声をかける。
「せっかくですし、なにか買うのもいいかもしれないですね」
俺宛てに手紙を送ってきていたので、最低でも執務机とかはあるだろうしそこに置いてみるのもよさそうだ。
「いえ、私の精神に問題はありませんので不要です」
「置いちゃ駄目とかってわけではないんですよね?」
「はい」
「じゃ、買ってきますね」
「わかりました」
一瞬不思議そうな顔をしたオリビアさんだったが、俺が自分用のものを買うと思ったのだろうか、納得した様子で頷いた。
なので俺はなんとなくオリビアさんの雰囲気に合っているクリスタルっぽい手の平サイズのインテリアを購入し、戻ってからオリビアさんに差しだした。
「勝手に俺が選んだもので申し訳ないですけど、よかったら貰ってください」
「……え?」
「オリビアさんは不要と言っていましたが、実際に置いてみると印象も変わるかもしれないので、試してみてください」
「……は、はい」
まさか自分に渡されるとは思っていなかったのか、オリビアさんは戸惑った表情を浮かべていたが、とりあえず強引に手渡すと受け取ってくれた。
そして、手に持ったインテリアをジッと見つめてから、少し戸惑いが浮かぶ表情で告げた。
「……ありがとうございます」
戸惑ってはいるが、嫌がっているわけではなく……感応魔法で伝わってくる感情には、少しの喜びが含まれていた。
雑貨屋を出たあと、特に目的なく歩くのもアレなのでとりあえずの目的地を考えてみることにした。
「オリビアさん、この辺りに有名な観光地とかってあるんですか?」
「この辺りですと、近くに大きな湖のある公園があります。手漕ぎボートが有名と観光資料には記載がありました」
「手漕ぎボートですか、それはかなり大きな公園なんでしょうね。面白そうですし、行ってみませんか?」
「ミヤマカイト様の御意向のままに」
オリビアさんは実際に足を運んだことは無くても、観光資料とかはすべて頭に入っているみたいで、スラスラと観光地を教えてくれる。
しかし、手漕ぎボートってあんまり経験がないけど、結構楽しそうだ。有名というからには、景観とかもいいのだろうし楽しみだ。
オリビアさんが教えてくれた方向に進んでいると、少しして公園が見えてきた。入ってみてすぐにわかるほど、非常に大きい公園であり、大きな案内の看板もあった。
公園の半分ほどが湖になっており、そこでボートに乗れるみたいだ。公園の景色をのんびりみながら手漕ぎボートのある場所に辿り着く。
受付で料金を支払って案内をしてもらうと……木のオールが備え付けられた、なんともイメージ通りの手漕ぎボートがあった。
オリビアさんとは向かい合う形で乗るのがよさそうだったので、俺が先に乗ってオールを漕ごうとすると……そこでオリビアさんが慌てた様子で声をかけてきた。
「お待ちください。ミヤマカイト様にそのような雑事をさせるわけには……私が行います」
「いやいや、ここは俺が……というか、正直ちょっとやってみたいなぁって気持ちもあるので、やらせてください」
「うっ、そ、そういうことでしたら……途中で変わります」
ボートのサイズ的に考えて、途中で位置を入れ替えるのは難しそうな気もするが……。
まぁ、とりあえずオリビアさんも渋々ながら納得してくれたので、俺がオールを漕ぐことにする。
漕いでみると、想像よりは結構重たく力が必要だったが、それでも必死になるほどではなく景色を楽しむ余裕もある。
「景色もいいですし、風も気持ちいいですね」
「……あの、そろそろ、交代をしたほうがいいのではないでしょうか? ミヤマカイト様もお疲れではないでしょうか?」
「大丈夫ですよ。気にせず、オリビアさんも景色を楽しんでください」
滅茶苦茶オロオロしている。どうも俺にオールを漕がせているというのをかなり気にしているみたいだが……まぁ、途中で変わる気はないのでこのまま押し切ることにしよう。
シリアス先輩「……観光じゃないよね? デートだよね? 思い出のプレゼントもして、一緒にボートにものって……完全にデートじゃねか!」




