教主オリビア②
とりあえず立ったまま話をすることになったが、オリビアさんは無言でじっとこちらを見ており、完全なる待ちの態勢である。
「えっと、ちなみにこのあとどうするとか、オリビアさんの方に構想とかは?」
「いえ、私の用件は終了しました。この後に関してはミヤマカイト様の意向に従います。私の本日の予定は空けてあります」
……うん、まぁ、一応挨拶が終わったと言えば、終わったのか? そして今後については俺に一任するというわけだ。
つまり極端な話、これではい終わりと帰っても問題はないのだろう。しかし、それはそれで気が引けるので、なんとかして親睦を深めたいものだが……。
「と、とりあえず、俺はオリビアさんのことをよく知らないんですが……オリビアさんは、一応神族って扱いになるんですかね?」
「いえ、私はシャローヴァナル様より三世界のどれにも属さない、極めて中立な存在として創造されました。出自は神族に近いですが、最高神を含めた神族に私への指示権はありません。私に命令を下せるのはシャローヴァナル様のみです」
これはある程度認識によっても差があるだろう。シロさんを神界のトップと取るか、あくまでシロさんは世界の頂点たる創造神という別格の存在であり、神族の代表は最高神であると取るかによってオリビアさんが神族の枠内かは違ってくだろう。
とりあえず、やはりというべきかシロさんに関する話題……あるいはシロさんから与えられた役割についての話題には、先ほどまでより饒舌に答えてくれた。
話をするのなら、この方向性がいいかもしれない。
「極めて中立な立場ってのは、やっぱり友好都市の代表だから、ですかね?」
「はい。友好条約は三世界は平等であるという理念の元締結されております。故にシャローヴァナル様は、この都市の代表として、神界、人界、魔界、いずれにも属さない存在として私を創造し都市の代表と友好条約の原典を守護する役割を与えました」
「友好条約の原典……やっぱりそれって、凄く重要なものなんですね」
「友好条約の原典が無くなったからと言って、三世界の友好が崩れるわけではありませんが、世界的に考えて極めて価値の高いものであるため私が守護しています」
「なるほど」
……結構話せてる感じがする。よし、この方向で次は友好都市に関する話に移行しつつ、話題を広げていくことにしよう。
「そういえば、話は変わりますが……ここに来るまでに軽く友好都市を観光してみたんですけど、やっぱり他の街では中々見ない店も多いですね。勇者祭の時とも大きく雰囲気が違いますし……ちなみに、どこかおすすめの場所とかってありますか?」
「こちらに都市の案内を用意していますので、ご確認いただければ参考になるかと思います」
「……え? あ、いや……えっと、オリビアさんのオススメの場所とかってありますか?」
「分かりません」
「……分かりません?」
あれ? おかしいな、都市の代表であるオリビアさんに友好都市の話を振るのは、かなり盛り上がりが期待できると思ったのだが……パンフレット渡されただけである。
挙句、おすすめの場所に関しては分からないと来たものだ……例えばこれが、無いとかであれば極めて中立の立場って言ってたし、特定の場所や店を勧めるのはまずいのかなぁとも思ったが……分からないというのは、奇妙な返答である。
「勇者祭の折に中央広場に出るのと、以前の白神祭以外で『大聖堂の外に出たことはない』ので分かりかねます」
「……は? え? 外に出たことが無い? 10年に一度の勇者祭と、この前の白神祭以外で?」
「はい。私はあくまで都市の代表であり、視察等に関しては区画代表が行いますので私の役割ではありません。基本的に私は、会議等で最終的な可否を決定するのみです」
「……会議とかが無いときは、なにをしているんですか?」
「祈りを捧げています」
淡々と答えるオリビアさんに絶句する。たぶんというか、確実に嘘は言っていない。この人は本当に、数えるほどしか大聖堂から出ておらず、それこそ友好都市の町並みすらまともに見たことはないのだろう。
「私に与えられた役割は都市の代表と友好条約の守護。それ以外の時間は余計なことを行わず、ただ静かに祈ることこそ私という存在のあるべき形であり、ひいてはシャローヴァナル様の望む在り方そのものと思っています」
「……違うと思います」
「違う? 私の考えが間違っているということでしょうか?」
「はい。いや、オリビアさんがどうしたいとか、どんなことをしたいとかそういうのは分かりませんけど……ソレをシロさんが望んでいるっていうのは、確実に違います」
「……そう……なのですか? 私は……シャローヴァナル様のご意向に……従えてない?」
静かに告げた俺の言葉を聞いて、オリビアさんの表情に初めて変化が現れた。なにやら不安そうというか、心から戸惑っている感じだ。
「……そんな……まさか? いえ、ですが……この世の誰よりもシャローヴァナル様を知っていると言っていいミヤマカイト様のお言葉であるのなら……」
これは俺の立場が上手く働いたのかもしれない。たぶん他の人が同じことを言ったとしても、オリビアさんは一蹴して揺らがなかっただろう。
ただやはりシロさんの祝福を受けていて、シロさんと恋人である俺の言葉は無視できないようで、かなり動揺している感じがする。
……なんとなくではあるが、オリビアさんのことが少しわかった。そして今の時点での考えは、ちょっと強引にでも軌道修正すべきものだと、そう感じたので……まずはしっかり、オリビアさんの勘違いを正すとしよう。
シリアス先輩「さて、特級フラグ建築士が動き始めたぞ……どうなることやら、不安しかない」




