教主オリビア①
友好都市ヒカリの中央広場の先……一際巨大な建物が、中央大聖堂だ。
遠くからでも分かるほど巨大ではあったが、近くに来ると圧倒されるほどの大きさだった。
ちなみにこの大聖堂は、友好都市ヒカリの中心……というわけではなく、あくまで中央に位置するのは中央広場である。
入り口から中に入ると、スッと司祭服を着た人が近づいてきた。
「本日は見学でしょうか? 礼拝でしょうか?」
「あっ、いえ、宮間快人と言います。教主さんと会う約束をしていたのですが……」
「お話は伺っております。教主はただいま教主専用の祈りの間におります。どうぞこちらへ、ご案内いたします」
「あ、はい。よろしくお願いします」
しっかり話は通していてくれたみたいで、すぐに取り次いでもらえることになった。しかし、教主専用の祈りの間とかもあるんだ。聞いた話では時間が空いていれば何ヶ月もぶっ通しで祈ったりしているみたいだが……。
そんなことを考えていると、少し小さめの部屋に通される。そこには転移用の魔法陣があり、それが祈りの間に繋がっているとのことだった。
案内してくれた方に促されるままに転移魔法陣の上に乗ると、一瞬の閃光と共に景色が変わる。
思ったほど広くはなく、普通の教会よりやや小さいぐらいの部屋の奥には祭壇があり、その前で両膝を付き祈りを捧げている教主さんの姿が見えた。
祭壇の上にはなぜか豪華な装飾の施された……それこそ王様とかが座っていてもおかしく無いような椅子が置いてあるが、なんの用途でおいてあるのかよく分からない。
まぁ、それはそれとして……なんというか、祈りの間が驚くほど静かなのも相まって声をかけづらい。
俺が戸惑っていると、視線の先で教主さんがスッと立ち上がりこちらを振り向き、美しい碧眼が俺の姿を映す。
そのまま淀みのない足取りでこちらに向かって歩いてくる教主さんは、ステンドグラスから差し込む光もあってどこか神秘的な感じがした。
「……本日は足を運んでいただき、恐縮です。改めまして、こうしてミヤマカイト様とお会いできたこと、心より嬉しく思います。友好都市ヒカリの都市代表ならびに中央大聖堂の教主を務めております、『オリビア』と申します」
それは透き通るような綺麗で高い声ではあったが、どこか感情をあまり感じさせないものだった。
シロさんのように抑揚が無いというわけではなく、なんとなく淡々としているというか、書かれている文字をそのまま読んでいるかのような独特の雰囲気の声色だった。
「初めまして、宮間快人です。えっと、よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
「はい」
「……」
「えっと、オリビアさんとお呼びしても構いませんか? 俺のことも好きに呼んでいただいて大丈夫なので」
「はい」
「……」
「……」
こ、困ったな……あんまり会話が続かないぞ。というか、オリビアさんが物凄く淡々としていて、クールな印象。なんというか、積極的に話すタイプではないというのは伝わってきた。
となると俺の方がリードして会話を振るべきなのだろうが……な、なんの会話を振ればいいんだろうか?
「……え、えっと……大聖堂って、すごく綺麗なところですね。ここに来るまでチラッと見たんですが、どこを見ても綺麗で、なんだか神秘的な感じがしました」
「そう言っていただけると、作った者も喜ぶと思います」
困った、本当に困った。会話がマジで続かない。感応魔法で伝わってくる感情もすごくフラットな感じで、オリビアさんがなにを考えているのかいまいちよく分からない。
微妙に気まずいこの感じをなんとか解消できないかと考えていると、オリビアさんが静かに告げる。
「ミヤマカイト様、少し祈りを捧げても構いませんか?」
「え? あ、はい。大丈夫です」
俺には祈りのことはよく分からないが、先ほど祈りを中断させてしまうような形になったし、祈りにもなんかキリのいいタイミングとかがあるのかもしれない。
そう考えて了承の言葉を返すと、オリビアさんはスッと俺の前で両膝を付き、手を組んで目を閉じた。
……いや、祈るって俺に対して!? なんだこれ、この状況はいったいなんだ……祈りの間に佇み、銀髪碧眼で純白の司祭服に身を包んだ女性に祈られている。
これ、どうすればいいんだ? 祈りっていつ終わるんだろうか……。
「短い時間の祈りで恐縮です」
「い、いえ……」
「席をご用意しております。こちらへどうぞ」
「あ、はい」
と思っていたら短い時間で祈りは終わったみたいで、オリビアさんは立ち上がって俺を案内してくれる……『祭壇の上に置いてある豪華な椅子の前』に――いやこれ俺のために用意してたの!? なんで、祭壇の上に不自然に椅子があるんだろうとは思ってたけど……え? これに座れと?
「……オリビアさん、俺がこれに座ったとしてオリビアさんは?」
「お目汚しでなければ、正面に跪かせていただこうかと思っております」
「……立ったまま話しませんか? なんとなくいまは座りたい気分じゃないので……」
「ミヤマカイト様のお望みとあらば」
……な、なんというか、先行き不安な出だしである。
シリアス先輩「……たぶんこれはアレかな、普通に最高神とかと同じような感覚の快人と、シャローヴァナルに連なる信仰の対象として接するオリビアの間で微妙に相違がある感じかな?」
 




