友好都市で⑧
やはりなんだかんだで同郷の相手というのは話も弾むもので、しばらく香織さんと他愛のない雑談をしていた。
香織さんが世界を旅していた頃の話を聞いたり、この世界に他の移住者もいるのか? という話題で盛り合ったりと、楽しく過ごすうちにあっという間に時間は過ぎていった。
「……っと、そろそろ店を開ける準備しなくちゃ」
「あっ、長々とすみません」
「ううん。むしろ、私の方こそ長く突き合わせちゃってごめんね。快人くんとの会話は楽しくて、つい時間が経つのを忘れちゃったよ。快人くんの方は時間は大丈夫?」
「ええ、俺の方はまだある程度余裕はありますね」
元々観光しようと思って早めに出てきたので、教主さんとの約束の時間まではまだそれなりに余裕がある。
なんならもう少し居座って香織さんとの話を続けてもいいのだが、さすがにそれは迷惑だろう。
「ちなみに香織さん、この店って夜は何時までやってるんですか?」
「ウチ? ウチはお酒の取り扱いは少ないから、夜は9時までだね。ラストオーダーは8時半……え? もしかして、夜も来てくれるの?」
「時間的に余裕があれば、ですが……豚の生姜焼きも食べたいなぁと思いまして、今度はちゃんとお金を支払って食べにこようかと」
そう、牛カツと最後まで悩んでいた豚の生姜焼き定食……食べたい。というか、日本の定食屋といった感じのこの店のメニューは食べたくなるものがとても多い。
チキン南蛮とかも美味しそうだし、から揚げも鉄板……なんとなく、日本の味が恋しくなったらここに来れば間違いないような気がする。
「そっか、嬉しいな。じゃあ、快人くんが来てくれるのを楽しみに待ってるよ」
「……あくまで、時間に余裕があれば、ですよ?」
「期待しとく」
「うぐっ」
「ふふふ」
いたずらっぽく笑う香織さんに釣られて、俺も軽く苦笑を浮かべる。冗談交じりとはいえ、ここまで言ってくれているのだから、なんとか夜も時間作って来店したいものである。
そのあと、もう少しだけ香織さんと雑談をしてから店を後にして、中央大聖堂へ向かうことにした。
香織さんの店から出て、大聖堂に向かう途中でふと思いついた俺は近くにいるであろうアリスに声をかける。
「アリス、聞いてもいいか?」
「なんすか?」
「香織さんと大蔵さんの他にも移住者っているのか?」
「居ますね。いま生きているという条件で言えば、もうひとり……三雲茜という方が居ますね」
俺が尋ねたのは他の移住者について。今回香織さんと出会ったことで、他にも同郷の人がいるのか気になったからだ。
そして当たり前ではあるがアリスは移住者の情報もしっかりと把握しており、他に三雲さんという方がいることを教えてくれた。
「どんな人なんだ? 名前を聞く限り、女性っぽい感じだけど……」
「三雲商会という移動商会を率いる会長で、現存の移住者の中では一番地位も財力もある方ですね。というか、言っときますけど……カイトさん、アカネさんのこと見たことありますからね?」
「え? そうなの!?」
三雲さんの話を聞いていると、予想だにしない言葉が飛び出してきた。俺が三雲さんと会ったことがある? あっ、いや、違うか……見たことがあるって言い方だと、直接会話とかはしていないけど遠目とかに見たことはあるって感じか?
う~ん、なんかそれらしい人っていたっけなぁ?
「前に釣り具を買いに行った時に、シンフォニア王国に移動商会が来てるって話を聞いたのを覚えてますか?」
「覚えてるけど……あぁ、もしかしてその移動商会が」
「ええ、三雲商会ですね」
そう言えばあった。フェイトさんと旅行に行く前に買い物に行った際に、移動商会がきているという話を聞いた。
その時はあまりの繁盛っぷりにちょっと気が引けて、結局立ち寄らなかったのだが……まさか移住者の商会だったとは、それは惜しいことをした。
立ち寄っていれば三雲さんと会う機会があったかもしれないのに……。
「ちなみに、そのあとでカイトさんがすれ違った関西弁でヒョウ柄服着た紫髪の女性が、アカネさんですね」
「えっ!? そうなの!?」
お、覚えてる。あの人だ! なんで関西弁? って感じで印象に残ってて結構はっきり覚えてる……けど、あれ?
「でも、あの人かなり若く見えたんだけど……それこそ10代ぐらいな感じで、香織さんより前の勇者役とは思えないけど」
そう、あの女性はかなり若かった。少なくとも30以上には見えなかった。けど、光永君、香織さんがそれぞれ前回と前々回の勇者役とすれば、それより前の勇者役とくれば最低でも40近い年齢のはずだ。
「あぁ、それはライフさんの仮祝福で若返ったんですよ。アカネさんは傘下ってわけじゃないですが、クロさんの商会ともそれなりに仲良くしてて、その伝手で六王祭に招待されていましたからね」
「なるほど……」
香織さんから聞いた大蔵重信さん、そしてアリスから聞いた三雲茜さん……この世界に移住した同郷の人たち……また機会があれば会ってみたいものだ。
シリアス先輩「むっ、前回のはまだフラグってわけではない……のか?」
???「どうでしょうね。『もしかして相当優良物件かも?』とかそんな風には思ってるかもしれないぐらいかもしれませんね。まぁ、定食をカイトさんが気に入ってる感じがするので、今後もちょくちょく立ち寄ってフラグ建てるんじゃないっすか?」
シリアス先輩「快人って、いままでの話でもそうだったけど、庶民的な食べ物というか味が好きだからなぁ……」




