友好都市で③
俺のマジックボックスを見て心底驚愕した様子で後ずさった香織さんだが、すぐにハッとした表情で近付いてきて興味深そうに俺の掌の上のマジックボックスを見つめる。
「……すごっ、コレってあれだよね? 純度90%以上の魔水晶ってやつだよね」
「え、ええ」
「黒い魔水晶は普通の魔法具の店じゃ高価すぎて取り扱いがないし、私も雑誌の高級魔法具紹介記事でみたぐらいだけど……マジックボックスなんだよね? えぇぇ、じゃあ、これ目ん玉飛び出るぐらい高いんじゃ……」
「あ、えっと、貰いものなので……」
「いやいや、誰がくれるのこんな超高級品!?」
……世界一の大富豪である。なんなら、クロとクロの家族からは合わせて三つのマジックボックスをただで貰っている。
最初に貰って今はアニマが使っているゼクスさん作のものと、アインさんがプレゼントの大量の菓子を渡すついでに包装紙のような扱いでくれたマジックボックス、そして俺がいま使っているクロが作ったマジックボックスだ。
ちなみにアインさんのマジックボックスは、食料とかを管理してくれているイルネスさんに預けている。なお、全部魔水晶の色は黒色である。
「とと、そういうのあんまり詮索するのも失礼だよね……けど、少しだけ聞いていい? このレベルのマジックボックスだと、どのぐらいの容量になるのかな?」
「えっと……そこそこ大きめな家ぐらい、ですかね」
俺が使っているんはマグナウェルさんもすっぽり入るぐらいのそこそこ大きめな島ぐらいあるらしいのだが、それはクロが作ったからそのレベルなのであって、普通に売られているものは違う。
最近ネピュラに買ってあげたマジックボックスの容量が屋敷とまではいかないが、大き目の家ぐらいの容量だったので、そちらを伝えておいた。
もちろん可愛いネピュラに買うものなのだから、セーディッチ魔法具紹介の本部に行って最上級グレードのものを買ってきた。
お値段はまぁ……豪邸が建つぐらいだった。さすがに転移魔法具には及ばないものの、トップクラスに高価な魔法具というだけはある。
「うわ、凄いなぁ、そんなサイズのがあれば便利だろうね~まぁ、絶対持て余しそうだけど……あっ、そうだ。ごめん、話は急に変わっちゃうんだけど……快人くん、お腹空いてない?」
「え? まぁ、そこそこは……」
昼時にはまだ早いが、今日は朝食を食べた時間も早かったのでそこそこお腹は空いている。なんなら、観光のついでに買い食いしようと思ってたぐらいだ。
すると香織さんはなにやらパァッと明るい表情を浮かべる。
「ほんとっ!? じゃあ、お姉さんがご馳走してあげるよ!」
「は? え、えっと……」
「えへへ、実は同郷の子にご飯をご馳走してあげるのが夢だったんだよね。あっ、これがお品書きだよ。なんでも好きなもの頼んでくれていいよ! 今日は私の奢りだから、一番高いのだってかまわないからね!! ……まぁ、うちで一番高い定食15Rだけど……」
夢だったと本人が言う通り、どうも本当にご馳走するのを楽しみにしていたらしく、どこかはしゃいだ感じでメニューを手渡してきた。
見て見るとザ・定食屋といった感じのメニューが並んでおり、なんというかこの世界では珍しいごはんメインの品ぞろえで、新鮮でもあり懐かしくもあった。
……一番高いのは、特選牛カツ定食……めっちゃ美味しそう。あぁ、でも豚の生姜焼きもいいなぁ、これ結構悩むぞ……。
「これ、悩みますね。この世界だとなかなか見ない料理が多くて……香織さんのおすすめはありますか?」
「やっぱり特選牛カツ定食だね! 結構いいお肉だから柔らかいし、おろしポン酢と醤油ベースのつけだれ、それに柚子胡椒とワサビの四つの味で楽しめるよ」
「美味しそうですね……じゃあ、お言葉に甘えて牛カツ定食をいただいてもいいですか?」
「うんうん! 任せて、美味しいの作るからね!」
いいなぁ、特におろしポン酢とカツの組み合わせは凄く楽しみだ。つけだれや柚子胡椒にワサビもいい。
「……そういえば、この世界にも柚子とかあるんですね」
「……どうだろ? あるのかな?」
「え? 柚子胡椒なんですよね?」
この世界で柚子ってみたことないなぁと思って尋ねると、なぜか香織さんもよく分からないような表情を浮かべていた。
「いや、もしかしたらどこかにはあるのかもしれないけど、私には見つけられなかったんだよね。柚子とかすだちとか欲しくて探してたんだけど、私程度の伝手じゃ見つからなかったよ」
「……じゃあ、その柚子胡椒はどこから?」
「えっと、快人くんもこの世界に何年かいたならたぶん知ってると思うんだけど……私たちの世界の神様でエデン様って知ってる?」
「……ええ、よく知ってます」
本当によく知っている。なんなら軽くトラウマになるレベルでよく知っている。
「ある時そのエデン様がお店に来てね。こっちの世界に移住して困っていることはないか~って聞いてくれたんだ。特に困りごととかは無かったから楽しく過ごしてますよって言って、そのあとで『なにか欲しいものはあるか?』って聞かれたから、柚子とかすだちを探してるって話したら……なんか『毎日柚子とすだちが五個ずつ生る鉢植えの木』をくれたんだよ」
「な、なるほど、そうだったんですね」
「うん。おかげで料理にも幅が出て本当にありがたいよ。失礼覚悟で定食を振舞ったら、『良い味です』って褒めてくれたし、本当に穏やかで優しいいい神様だよね!」
「……ソ、ソウデスネ」
う、う~ん。まぁ、たしかにエデンさんって我が子に対してはすっごく優しいし、暴走さえしなかったら穏やかな感じではある。
……いや、待て、そう言えば俺相手以外だと暴走しないのか? じゃあ、普通にいい神様である。
というかいま思い出したけど、そう言えばエデンさんが前に新しくシロさんと契約を結んだとかで、いくつかの元居た世界の食材をくれた覚えがあるけど、アレはつまり香織さんみたいにこっちの世界で生活する我が子のためにというわけか……本当に我が子に対してはマメだ。
マキナ「当たり前だよね! 異世界移住したとしても我が子は我が子なんだから、困ってたら母が力になるのは当然だね! 直接要求した以外にも、心の中も見て『この食材があれば~』とか思っててトリニィアにない食材も、シャローヴァナルと契約を結んでトリニィアでも栽培するようにしてもらったから、もう流通するようになってるよ!」
シリアス先輩「……本当に暴走さえしなければ、我が子にとってはいい神なんだよなぁ……我が子にとっては……」




