友好都市で②
偶然会った過去の勇者役と思わしき女性。身長は150少しぐらいのやや小柄な感じで、割烹着に似た服を着ている。
黒色のセミショートヘアで、頭にはほっかむりを被っており、パッと見た印象だと定食屋とか居酒屋の女将さんといった感じだ。
過去の勇者役であるなら、年齢は確実に俺より上のはずだが、童顔で若く見える。20歳ぐらいと言われても信じるぐらいだ。
「うわ~そっか、ついに同郷の子が私の店に……ささっ、立ち話もなんだし店の中に入ってよ」
「え? あれ? 開店前なんじゃ……」
「そうだけど、日本人なら話は別! ずっと、同郷の子と話したかったんだよね……って、ついつっぱしちゃったけど、君は時間とか大丈夫?」
「え、ええ、問題ないです」
ニコニコと明るい笑顔で話す女性は、傍目に見てもテンションが上がっている。たしかに、過去の勇者役……仮に光永君のひとつ前の勇者役だとしても、同郷の相手に巡り合うのは12年ぶりぐらいなわけだし、テンションが上がるのも必然かもしれない。
そんなことを考えつつ女性に促されるままに店の中に入ると、店内は定食屋と居酒屋の中間ぐらいのイメージで、カウンター席などもあった。
カウンターを勧められたのでカウンター席に座ると、女性は水を入れたコップを俺の前に置いてくれた。
「それじゃあ、改めて自己紹介だね。私の名前は水原香織、もう気付いてると思うけど12年前の勇者祭に勇者役として招かれた日本人だよ」
「宮間快人です。よろしくお願いします、水原さん」
「あ、香織って名前の方で呼んでくれていいよ。こっちの世界の人はファミリーネームがない人が多いから、普段から名前の方で呼ばれる機会が多いからね。私も快人くんってよぶからさ」
「わかりました、香織さん」
香織さんは、明るく人のいい感じで、感応魔法で伝わってくる感情でも心から俺と会えたことを喜んでいるのが伝わってきた。
「……というか、つい雰囲気で年下だと思って快人くんって呼んじゃったけど……私より前の勇者役とかじゃないよね? さすがに40前後には見えないんだけど……」
「あ、はい。22歳です」
まぁ、俺の年齢に関しては若干微妙ではある一度二ヶ月、こっちの世界だと一年八ヶ月の間元の世界に帰っていたので、前回の誕生日から経過している日数が変にずれているので、もう23歳と言っていい気もするのだが……まぁ、とりあえずは22歳でいいだろう。
「あっ、よかった年下だ……けど、ううん? あれ? おかしいな……確か前回の勇者祭の勇者役って、快人くんとは違ったような? い、いや、勇者祭の時は店が忙しくて少ししか見えてないから、勘違いだったらごめん」
「いえ、間違ってないですよ。俺は勇者役ではなく……」
勇者役として召喚されたわけではなく、召喚事故によって本来の勇者役である光永君以外に俺を含めて三人召喚されたことを話すと、香織さんは心底驚愕したような表情を浮かべていた。
「えぇぇ、しょ、召喚事故!? そんなことがあったんだ……た、大変だったね」
「あれ? 御存じでは、無かったんですね」
「うん。私みたいな一般人のところには、そんな話伝わって来てないしね」
そうか、言われてみれば貴族とかには結構俺の話とかも伝わっているらしいけど、市井にはほぼ広まってないというし、そもそも召喚事故があったこと自体普通の人は知らないのだろう。
「まぁ、いまは楽しく過ごせてますし、むしろ巻き込まれて召喚されてよかったぐらいですよ」
「そっか、それならよかった」
「あっ、香織さん。せっかく知り合えたんですし、ハミングバードの魔力登録をしませんか?」
「ハ、ハミングバード?」
穏やかな笑顔を浮かべていた香織さんだったが、俺の言葉を聞いた直後なにやら引きつったような顔になった。
あれ? 急過ぎだっただろうか……もう少し仲良くなってからの方がよかったかな?
「……快人くん、あのね、知ってるかな? 魔法具ってね……高いんだよ」
「え、えっと……」
「ハミングバードの魔法具ってさ、あれメールぐらいの機能だけど、スマホより高いじゃん……」
「……そうですね」
「それに私の知り合いでハミングバードの魔法具持ってる人自体ほぼいないから、私も持ってないんだよ」
俺はどうも、認識を間違えていたらしい。というのも、俺の周りにいる人でハミングバードの魔法具を持っていない人、無いしハミングバードの魔法が使えない人は居なかったので、それこそスマホみたいにみんな持っているのが一般的だと思っていた。
だが、たしかに香織さんの言う通りコストパフォーマンスを考えると、なかなか手が出ない魔法具かもしれない。
例えば、俺と仲のいい人の中で庶民的な感覚だと思う相手は、ジークさんとかルナさんがいるが……よくよく考えてみれば、片や元騎士団副師団長で現在は公爵家の警備隊長、片や元最上位冒険者で現在は公爵家の当主付きメイド……どっちも一般人より確実に稼いでいる立場である。
ルナさんもアレで結構お金持ってる感じだし、ジークさんに関しては『毎月の給料の7割ほど』をレイさんとフィアさんに仕送りしているが、六王祭以外でお金に困っているような場面は見た覚えがない。
まぁ、その仕送りに関してもジークさん的にはレイさんが宮廷魔導士を辞める切っ掛けになったことに負い目を感じて始めたものだ。レイさんとフィアさんは不要だと思っているが、その辺りはジークさんも結構頑固なところがあるのでいまも仕送りを継続しているらしい。
……もっとも、コッソリ教えてもらった話だが、レイさんとフィアさんはその仕送りは手を付けずに貯めているらしい。
『ミヤマくんとジークの結婚式で使う予定』とはレイさんの弁である。
まぁ、それは置いておいて……どうも、ズレを修正できているようで、微妙に金銭感覚のズレがあるみたいだ。香織さんの感覚が一般人の感覚なのだろう。
「いや、もちろん買えないわけじゃないけど、それ買うぐらいならほかに欲しい魔法具いっぱいあるしね」
「あ~マジックボックスとかですか?」
「うん、そうだね。やっぱりマジックボックスは飲食店を経営する身としては、最優先で欲しいけど……高いんだよね。まぁ、それでも、一応は持ってるよ」
そう言って香織さんが取り出したのは、薄いオレンジ色の魔水晶……見た感じ、純度はかなり低そうだ。
「これは、小さ目の木箱ぐらいの要領しかないけど、それでもそっちに置いてある冷蔵庫みたいな魔法具より高いからね。本当は全部の食材を入れられるぐらいおっきいのが欲しいんだけど、とても手が出ないよ」
「なるほど」
「……ちなみに快人くんはマジックボックス持ってるの?」
「え、ええ、まぁ……」
「見せてもらっていい?」
「……どうぞ」
断る理由もなかったので掌にマジックボックスを出現させて見せると、香織さんは驚愕した表情で後ずさる。
「く、くく、黒いやつだぁぁぁぁ!? えぇぇ、雑誌以外で初めて見た……」
シリアス先輩「そう言われてみれば、そもそも公爵家に勤めてるってだけで、リリアの屋敷のメイドとかもそこそこエリートだよな」
???「まぁ、たしかに後輩組除けば、マジの庶民の知り合いってこれが初めてかもしれませんね」




