紅茶の革命④
アインさんの要望をネピュラが快く了承したあと、用件が終わったのではいさようならというのもアレだったので、アインさんと他愛のない雑談をしていた。
ネピュラはアインさんように少し例の茶葉を用意してきてくれると部屋を出て行って、少しするとイルネスさんが茶菓子を持ってきてくれた。
「……なんとっ」
「アインさん?」
「メイド力、330000!? 以前は確か280000だったはず、僅か数ヶ月で50000もメイド力を上げたというのですか……」
おっと、またなんか変なこと言い始めたぞ。メイド力とはたしか、基本となる心技体を身に着けたメイドが発するメイドリックオーラを数値化したもので、メイドの能力の高さを表す数値だったはずだ。
……やだなぁ、この意味不明のメイド論を覚えてしまっている自分が凄く嫌だな。
「末恐ろしいですね。280000という数値でも、私を除けば既存のメイドの誰よりも高い数値だというのに、ソレが限界ではなく発展途上とは……やはり貴女こそ、メイド界に現れた超新星に違いありません! 是非メイドオリンピアに……」
「でません~」
どうやらイルネスさんがメイドとして以前より大きく成長しているみたいで、アインさんは興奮した様子でイルネスさんを四年に一度のメイドの祭典メイドオリンピアに誘うが……イルネスさんはそんなアインさんの圧に圧されることはなく拒否する。
しかし、まぁ、それは置いておいて、イルネスさんのメイド力が上がっている? たしかに、最近は以前より凄くなっているような気がしなくもないが……。
「残念です。気が変わったらいつでも連絡をください……しかし、短期間でこれほどメイド力を上げるとなると、貴女はメイドを飛躍させる複数の要素のうちのひとつを手にしたのでしょうね」
「う、うん? アインさん? 今度はなにを……」
「カイト様もご存知の通り、一流のメイドに必須とされる要素として、献身的な心、卓越した技術、そして圧倒的な戦闘力の三つがあります」
いや、ご存知じゃねぇよ……前ふたつはともかく、圧倒的な戦闘力って……本当にどうなってるんだアインさんの中の一流のメイド像って……。
「その三つの要素はメイドが己の努力で得ることができるものであり、一流メイドにとっては基本でもあります。しかし、メイドとは決してひとりで完結するものではありません。それ以外に、メイド当人の努力だけでなく運や縁といった不確定な要素が絡むものが存在します。それを得るのはとても難しいですが、得ることができればメイドとしてさらにひとつ上のステージに上がることができるでしょう」
「……そ、そうですか」
本当にメイドのことになると普段のクールさが嘘のように語りまくるよなアインさんって……。
「例をあげるなら、心から仕えて幸せだと思える主などがそうですね。良き主を得れたメイドはそれだけで、大きく成長できるものです。とはいえ、貴女は以前からソレに関してはすでに持っていました。今回得たのはおそらく……『尊敬できる友』或いは好敵手でしょうね。それもまた、メイドを大きく成長させる要素になります」
「なるほどぉ」
「私も現在の530000というメイド力を得れたのは、クロム様という素晴らしき主だけでなく、シャルティアという互いに尊重し高め合える好敵手が居たからです」
グッと拳を握りながら語るアインさんの言葉を聞いて、俺の横に呆れ顔のアリスが出現して口を開く。
「……いや、なに勝手なこと言ってんすか、アインさんが勝手にライバルだとか言って、たびたび突っかかってくるだけで、私はそんなものになった覚えは無いですし、今後なる予定も無いです」
「私もシャルティアとの数々のメイド勝負のおかげで大きく成長できました。貴女の巡り合った相手も、そういった得難い相手のようですね」
「おいこら、なにスルーしてんすかメイド馬鹿」
まぁ、アリスのクレームはさておき、イルネスさんが得たという尊敬できる友というのは、おそらくネピュラのことだと思う。
イルネスさんはネピュラを絶賛していたし、その発想にはいつも驚かされるとも言っていた。それに、ふたりは非常に仲が良く一緒にいろいろなことに挑戦していて、それもまたイルネスさんのメイド力を高める要因になっているのだろう。
……とまぁ、俺はそういう普段の様子を見ているから分かるんだけど……それをメイドリックオーラとやらを見ただけで言い当てるアインさんは、本当になんなんだろうか……。
「……そういえば、ちょっと疑問だったんすけど、アインさんはやたら私のことをメイドとしてのライバルだとか、そんなこと言いますけど……私にはさっき言ってた仕えられる側のオーラ的なのは無いんすか?」
「貴女の場合は、相手を極端に選ぶだけでメイドにはとても向いてると思います。カイト様への献身ぶりは目を見張りますしね。そもそも、仕えられる側、仕える側のオーラ自体を持つ者は少数です。普通はどちらでもないフラットなものですね……まぁ、貴女は素直でないだけで、カイト様に対してはこれ以上ないほどの仕える側のオーラというか、溢れんばかりの愛情を――ッ!?」
「……よし、ちょっと、表出ろ腐れメイド」
アインさんの言葉にスッとナイフを取り出し、ドスの効いた声を出すアリスだが……横から見ると、耳が赤くなっているのがよく分かった。
シリアス先輩「メイドリックオーラってそんなのも分かるんだ……メイドッテスゴイナァ」




