フィーアとのデート③
貴族御用達の高級チョコレート店、フロアは広くあちこちにショーケースに入れられたチョコレートがある。あちこちに店員らしき人はいるが、こちらに声をかけてきたりするわけではなく用があれば申しつけくださいみたいな感じで佇んでいる。
正直勧められるとなかなか断れない俺としては、この形式はありがたい。まぁ、いまはフィーア先生とふたりなので、会話を邪魔しないようにという配慮かもしれない。
「……ミヤマくん、見てこれ」
フィーア先生が小声で話しかけてきたので視線を動かし、フィーア先生の前のショーケースを見て見ると……宝石と言われても信じてしまいそうな、綺麗なチョコレートが飾られていた。
そして値段が書いてあるのだが……一粒30R……日本円で3000円である。
「……箱でとかじゃなくて、一粒で30R? 凄いですね。貴族って、このレベルのものをよく食べるんですかね?」
「う~ん、さすがにホイホイ買うわけじゃないんじゃないかな? でも、貴族は見栄も重要だから、来客とかがあった時にはこういう超高級なお菓子とか出すんじゃない?」
「なるほど……」
リリアさんの屋敷も、公爵家だけあってかなりレベルの高いお菓子や茶葉を用意しているらしいが、さすがにチョコレート一粒30Rなんてレベルのものは見た覚えがない。
ただそれはあくまで普段食べるものだからで、他の貴族の来客があった時とかはリリアさんもこういう高級品とかを出してるんだろうか?
そういえば、最初にクロがリリアさんの屋敷に来たときも、かなり気合入れて高級な菓子を用意していた覚えがある。ただ、残念ながらあの菓子類は、クロの好みを致命的に外してはいたが……。
クロは食べ歩きが趣味であり、食事に関してはかなりグルメなのは丸ごと食べ歩きガイドを見れば伝わってくる。
ただし、これはクロとそれなりに親しくなってから分かったことではあるが、クロは料理とお菓子では好みの方向性がまったく違うのだ。
料理に関しては複雑なものや高級なものも好むし、味や店の雰囲気なども含めて総合的に評価している。
しかし、菓子類に関しては、クロはまず大前提として『食べやすいもの』を好んでおり、食べにくそうな菓子に関しては評価がかなり低くなる傾向がある。
ベビーカステラは言わずもがなだが、クロに菓子を出すときは豪華なケーキとかより、クッキーやチョコレートなど一口で食べられるお菓子を出すと喜ぶ。
まぁ、それは置いておいて……トーレさんのお土産はどうしようか?
「フィーア先生、正直な意見が聞きたいんですが……」
「うん?」
「こことかにある一粒数十Rの見た目も宝石みたいな超高級チョコレートと……向こうにある、この店にしては多目に入っているシンプルなチョコレートトリュフ……どっちが喜ぶと思います」
「100%トリュフだね。というか、トーレお姉ちゃんに渡すと、大して見た目なんて確認せずにすぐ食べると思う」
「……ですよね」
俺も正直フィーア先生に同意である。たぶんだけど、宝石みたいな見た目のチョコレートを渡したとしても、普通のチョコレートトリュフを渡したとしても、トーレさんは「わ~い、高級チョコレートだ!」とか言って、即食べると思う。
ならやっぱり量があった方がいいのか……というか、なんなら麦チョコ渡しても喜んで食べそうな気がする。
「とりあえずトーレさんには、比較的量の多いものをいくつか買うとして……これはこれで、興味ありますよね?」
「うん。正直、私も一度ぐらい食べてみたい」
トーレさんへのお土産とは別に、一粒30Rとかのチョコレートはどんな味がするのか興味がある。
と、そんなことを考えていると近くにいた店員がスッと俺たちに近づいてきて、軽く頭を下げる。
「……お話中失礼いたします。高価なチョコレートをお探しでしょうか?」
「えっと、はい、まぁ、興味があるなぁと……」
「ショーケースに展示してある品は、比較的安価なものとなっておりまして、こちらのカタログに記載されていますのが、当店最高級のシリーズとなります。よろしければ、ご確認ください」
「あ……はい。ありがとうございます」
え? 一粒30Rが比較的安価? これ以上のレベルがあるってこと? フィーア先生と顔を見合わせながら、受け取ったカタログを見ると……。
「……ミヤマくん、凄いよ、凄い世界だよ……」
「俺最近金銭感覚狂ってきたなぁとか思ってたんですが、現実ってそれ以上なんですね」
なにこのチョコレート……一粒30000R? 日本円にして300万円? イカれてやがる……いったい何がどうなったら、300万なんて価格に? 中にダイヤモンドでも入ってるのだろうか?
一番高いのはその一粒30000Rのチョコレートだが、他にも数千Rのチョコレートがカタログにはゴロゴロ載っている。
フィーア先生の言うように、凄い世界である。
……まぁ、ただ、正直どんな味がするのか興味があるので、買ってみることにした。さすがにこの金額のチョコレートを作り置きとかはしておらず、オーダーメイドで後日家に届けてもらえるとのことだ。
リリアさんとかはこういうランクのお菓子を食べたことがあるのかな? 今度聞いてみよう。
~おまけ・エデン(マキナ)が六王祭後にやってたこと~
・各貴族への脅し
基本的にエデンの魔力の格自体が違うので、会えば明らかに逆らってはいけない相手だと即理解できるため、大抵の貴族は素直に快人への忠誠を誓った。
素直に応じさえすれば、特になにをするでもなくそれほどキツク脅しをかけたわけでもない。
ただ中には意地で反抗する者もいたらしく、そいつらはもれなく地獄を見せられ、現実時間で数秒後には泣きながら土下座していた模様。
いちおうクロとの約束通り誰も殺してはいない……9割殺しにした相手はいる。
・移住した過去の勇者役の元を訪問
三人の移住者の元に訪れており、それぞれこの世界での生活に不自由をしていないかを確認して、この世界には無いもので欲しいものはあるか? と尋ねて、欲しがったものに関してはシャローヴァナルに話を通した上でプレゼントした。我が子に対しては優しい。
・観光
各地で理不尽を振りまいているように見えて、普通に観光していることも多い。六王祭では粗方の貴族に脅しをかけたあとは、普通に出店などで買い物をしていたりした。
その際にたこ焼きを食べているところを目撃されており、目立つ容姿だったこともあって一時たこ焼きブームが到来した。
・各地に残る過去の移住者の墓参り
墓がある過去の移住者に関しては墓参りをしており、もう誰も墓参りに訪れなくなった古い墓などは綺麗に掃除したりしていた。繰り返しになるが、我が子には優しい。




