フィーアとのデート②
雑談をしながら辿り着いたフィーア先生曰く、一番ランクが高いと思われるチョコレート専門店。正直俺は、いくら貴族向けとはいえ、それでも普通の洋菓子店ぐらいの規模だろうと想像していた。
しかし目の前にあるのは、高級ブランドの店と言われても納得してしまいそうな、いかにも高級ですと言いたげな艶のある黒塗りの大きな建物……え? 俺のイメージしていた洋菓子店の四倍ぐらいあるんだけど、このデカさでチョコレート専門店なのか!?
「……その、想像以上に凄い店ですね」
「う、うん。私も、名前聞いたことあるぐらいで見たのは初めてだったけど……商会の本部って言われても信じちゃいそうな大きさだね」
「こ、これは結構入るのは勇気がいりますね。ひとりだったら確実に引き返してましたよ」
「あはは、それは同感。まぁ、とりあえず入ってみようよ」
フィーア先生の言葉に頷いて、大きな扉を開けて中に入ると……まず目に飛び込んできたのは、高級そうな絨毯が敷き詰められた広いフロア……え? これ、土足で大丈夫? 怒られない?
入り口のすぐ横には警備らしき人もいるし、ショーケースっぽいのもあちこちに見える。宝石でも取り扱ってそうな雰囲気である。
その溢れ出る高級感に気圧されていると、入り口の近くに立っていた燕尾服を着た執事風の老紳士がスッと近づいてきて、綺麗な所作で頭を下げる。
「いらっしゃいませ、お客様。大変失礼ではございますが、『会員証』を確認させていただいてもよろしいでしょうか?」
「え? か、会員証? す、すみません、持ってないです」
「左様ですか、ではどなたか会員様からのご紹介でしょうか?」
「あ、いえ、紹介とかもとくには……」
ヤバいなこれ、想像を遥かに越える高級店っぽいというか、いまのやり取り的に考えて明らかに会員制の店だよね? これ、完全に店の選択を間違えたパターンでは?
そんな風に考えていると、老紳士は申し訳なさそうな表情で頭を下げる。
「せっかくご来店いただいたところ、大変申し訳ございません。当店は取り扱う品の性質上大量生産を行うことができませんので、商品を提供する相手に制限をかけさせていただいております。会員証をお持ちか、すでに会員である方の紹介以外のお客様に関しては、商品を提供させていただくことができません」
「そうなんですね。すみません、よく知らずに来店してしまって」
「いえ、ご期待にお答えすることが出来ず申し訳ございません」
丁寧に断りを入れられて、なんだかこちらが申し訳ないような思いになった。とりあえず、コレは無理そうなので別の店に行くことにしよう。
「これは別の店に行くべきですね」
「うん。これはしょうがないよ。他の店に行こう、次はミヤマくんがさっきの地図から選んでよ」
フィーア先生とそう言葉を交わして、店から出ようと背を向けると、不意に小さな声が聞こえてきた。
「……ミヤマ?」
「え?」
反射的に振り返ると、老紳士がなにやら驚いたような表情を浮かべていた。
「た、大変失礼ですが……お客様のお名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「あ、はい。宮間快人です」
「そうでしたか、大変失礼いたしました。どうぞ、お入りください」
「は? え? あ、いや、でも俺会員証は持ってないんですが……」
「すぐにご用意させていただきます。失礼ですが、お連れ様のお名前もお伺いしても?」
「えっと、フィーアです」
「ミヤマカイト様にフィーア様ですね。おふたり分の会員証をご用意させていただきます。本日は当店にご来店いただき光栄の至りに存じます。どうぞ、心行くまで買い物をお楽しみください」
「……わ、分かりました。ありがとうございます」
なぜか先ほどまで以上に畏まった感じで深々と頭を下げた老紳士に促されるまま移動しつつ、フィーア先生と小声で言葉を交わす。
「……えっと、コレはいったい?」
「たぶんだけど、貴族御用達の店だからミヤマくんの噂とか聞いてるんじゃない? ミヤマくんって貴族の間では有名らしいし」
「あ、あ~なるほど、そういうことですか……」
なるほど、来店した貴族とかから聞いて名前を知っていたパターン……しかし、あの驚きと畏まりよう……いったい貴族たちの間で俺はどういう風に噂されているんだろうか?
……すっごい不安だなぁ。なにが不安って、聞いた話だと『六王祭で大半の貴族に脅しをかけた天使』が居るらしいし……滅茶苦茶恐れられてたりするんじゃなかろうか。
う、う~ん、気にはなるけど知るのも怖いというジレンマ……と、とりあえずは、入店できてよかったとそう思っておくことにしよう。
シリアス先輩「……本当になにしたんだヤベェ神」
マキナ「安心して、六王祭終わった時は『大半』だったけど、いまはもう『貴族に関しては全部』になったから」
シリアス先輩「いや、六王祭の後も継続して脅しかけてたのかお前!?」
マキナ「脅し? 違うよ。『愛しい我が子に忠誠を誓わせた』だけだから、愛しい我が子が至高なんだから、それは当たり前のことだし問題ないよね。クロムエイナとの約束通りちゃんと誰も殺してないしね!」
シリアス先輩「…………快人は知らない方がいいな、絶対。アイツも胃薬のお世話になりそう」




