Mission⑧ 『想いを伝えよ!』
メッセージカードに書かれていた内容、後回しにせずにフィーア先生と向かい合うこと、ソレがなにを意味しているかはすぐに理解することができた。
そう、すごく根本的な話ではあるが、フィーア先生はすでに俺に対して『異性として好き』だと告白した上で、六王祭などでも積極的にアプローチをしてくれていた。
それに対して、俺はどうかと言えば……フィーア先生が「返事はいますぐじゃなくていい、ミヤマくんに好きになってもらえるよう頑張る」と言ってくれたのをいいことに、いままでロクな返事をしていなかった。
ある意味、フィーア先生の優しさに甘えて目を逸らしていたと言っていいかもしれない。
俺が地球に戻っていた時間によって差はあるが、言ってみれば俺はフィーア先生を2年以上待たせてしまっているといっても過言ではないだろう。
フィーア先生は俺を急かしたりすることはないだろう。いや、それどころか性格上、本当に何年でも何十年でも待ってくれると思う。
だけど、その優しさに甘えて後回しにし続けていいわけが無い。いつかはしっかり考えなければならなかったことで、むしろいまこうしてトーレさんのメッセージカードを見るまで時間がかかってしまったのは、遅すぎるぐらいだ。
だから俺はいま、しっかりと考えなければならない……俺が、フィーア先生のことをどう思っているのか、フィーア先生の想いに対してどんな答えを出すのかを……。
少しだけ視線を動かし、離れた場所で真剣な表情でメッセージカードを見ているフィーア先生を見る。
フィーア先生との出会いは偶然だった。たまたまノアさんを助け、その縁で知り合った形ではあるが……なんとなく、仮にそこで会わなかったとしてもいずれは必ず巡り合っていた相手のように思える。
フィーア先生に対していただいた印象は、とても優しく、そして尊敬できる相手というもので、その印象はその後いろんな事情を知ったとしても変わることはなかった。
優しく頼りになる医者で、ところどころドジで抜けている可愛らしい面もあって、いろいろ複雑な過去もあった。
性格的に似ている部分もあるのか、他の人が呆れるような話題で互いに熱くなることもある。穏やかに見えて結構行動派であり、恋愛のアプローチもかなりガンガン行うタイプでこちらに対して真っ直ぐな好意を示してくれている。
……正直いまさら、考えるまでもなかったかもしれない。フィーア先生を好ましく思う理由ならいくらでも思い浮かぶが、嫌いになる理由なんてまったく頭に思い浮かばない。
フィーア先生自体は、自分のことに関していろいろ思う部分もあるのだろうが、それで俺のフィーア先生への気持ちが変化することはない。
本当にただ後回しにしていただけなのだろう。改めて考えてみれば、本当にすぐに答えは出た。あとはそれを言葉にするだけだろう。
そう考えつつ、気持ちが纏まったら9の封筒を開けろと書かれていたのを思い出した。
『じゃあ、その気持ちをしっかりフィーアに伝えておいで! ※伝え終えてひと段落したら10を開けること』
書かれていたのは背中を押す言葉。トーレさんは変に鋭いというか、本質的な部分を見抜くことがあるので、以前診療所であった際に俺とフィーア先生の関係や、目を逸らしている俺自身の想いを察していたんだと思う。
そして、俺がフィーア先生に向かい合うきっかけをくれて背中も教えてくれた。また今度、しっかりお礼をしなきゃいけないな……。
そうして心を決め、フィーア先生の方に向かおうとすると、フィーア先生もメッセージカードを見終わったみたいで、なにやら少し不安げな表情を浮かべていた。
「……フィーア先生」
「あっ、ミヤマくん……えっと……」
「覚えてます? 前に、この場所でフィーア先生が言ったこと……これからも償いは続けていくって」
「え? う、うん。結局のところ、私の自己満足みたいなものだからね」
それはかつて、フィーア先生を巡る一件に片が付き、フィーア先生とクロが和解したあとで口にしていた言葉。
「償いを続けながら、フィーア先生自身も幸せになりたいって思ったって言ってましたよね?」
「うん。過去の行いは反省して償わなくちゃいけないけど、ミヤマくんに教えてもらったみたいにそれは幸せを求めることと両立できることだって思ったからね」
「俺は正直、償いに関しては協力できないと思います。結局それは、フィーア先生自身が己をいつ許せるかどうかって話になってくると思うので……だけど、幸せになる方に関しては協力できるというか……一緒に目指せるんじゃないかって、思うんです」
「え? そ、それって……」
たぶん俺が言おうとしていることを察したのだろう、フィーア先生は不安と期待が入り混じったような表情でこちら見る。
俺はフィーア先生としっかり目を合わせながら、先ほど確認した己の言葉を口にする。
「……本当に、返事が遅くなって申し訳ない。俺も……いえ、俺は、フィーア先生のことが好きです。もちろん、異性としてという意味で」
「ッ!?」
出来過ぎた偶然ではあるが、かつてフィーア先生とクロが和解し、フィーア先生に告白された勇者の丘という場所で、俺は2年以上かけて、フィーア先生に返事を告げた。
シリアス先輩「……俺もじゃなくて、俺はって言い直してるところがよかったね。やべぇな、ヒシヒシと砂糖の気配が伝わってきやがる。次回、なのか……執行を待つ囚人の気分だ……誰か助けて……」




