Mission⑦ 『思い入れの場所に移動せよ!』
さて、トーレさんの指示により今度の目的地は俺が決めることになったわけだが……結構難しい。
というのも、基本的に北区画は普段あまり行かない場所なので、よく知らないのだ。アリスと来たときに印象に残っている芸術広場だとか、出禁くらったカジノだとかは覚えているが……。
そもそも引き出しが少ないわけだ。まぁ、他の区画に移動するという手もあるんだけど、せっかく北区画に来てるんだし北区画らしい場所に行ってみたいと思う。
「……フィーア先生、美術館とかでも大丈夫ですか?」
「大丈夫だけど、ミヤマくん芸術とか結構嗜むの?」
「いえ、まったく……たまたま、少し前に調べて場所を覚えているので……」
以前ロズミエルさんが家に来た際に、王都の北区画の話になった。その際にロズミエルさんにいろいろ話を聞いて、絵画専門の美術館について教えてもらった。
世界的にも有名な美術館らしく、名画とかが数多く展示されているとのことだ。
「じゃあ、行きましょうか。それで、美術館前に着いたらフィーア先生の封筒を開ける形でいいんですかね?」
「それでいいと思う。ちなみにミヤマくんの方の封筒って残り何枚?」
「あとは3枚ですね。10で最後みたいです」
「じゃあ一緒だね。私も10までしか番号が付いた封筒はないし……」
結局トーレさんの目的はなんだったのだろうか? 俺とフィーア先生をデートさせたかっただけ? う~ん……最後まで見れば意図がわかるのだろうか?
目的の美術館に到着して、フィーア先生が7の封筒を開けると……。
『カイトのエスコートのあとで、フィーアは景色がよく思い入れのある場所を選んでカイトを転移魔法で連れていくこと! ※目的の場所に着いたあと、両者とも相手に見えないように離れてから8の封筒を開けること』
これはまた、特殊なパターンみたいだ。俺の次にフィーア先生が場所を選ぶというのはいい。問題は次の封筒の指示だ。
ここにきて初めて、相手に見えないように確認しろという指示が出てきた。つまり、その指示は俺とフィーア先生で別々のものである可能性が高い。
「う~ん、なんだろう? いよいよ核心って感じがするね」
「ですね。まぁ、とりあえずその前に美術館に入りましょう」
「うん。じゃあ出発――「フィーア先生」――おっと、ど、どうしたの? 急に抱き寄せるなんて情熱的じゃない? いや、私は嬉しいけど……」
元気よく足を踏み出そうとしたフィーア先生を、俺は慌てて抱き寄せた。想像以上に軽くて華奢な体に少し驚いたが、なんとかギリギリ間に合ったようだ。
「……いえ、足元見てください」
「……えっと、ふむ、段差があるね」
「100%躓くと思ったので……」
「いやいや、ミヤマくんそれは失礼だよ。いくら私だって、そこまでドジじゃないよ……99%くらいだね!!」
「間に合ってよかったです」
「助けてくれてありがとうね」
さすが筋金入りのドジっ子だけあって、本人ですら段差を見て99%躓いていただろうと予測するほど……。美術館前で情けなくすっころぶ前に助けることができて本当によかった。
顔を見合わせて苦笑し合ってから、美術館の中に入っていった。
美術館に入って、いくつかの絵を眺めてみた感想としては……よく分からないだった。
正直、いま目の前にある『魂の躍動』とタイトルが付いた絵も、いろいろな絵の具をぶちまけたようにしか見えない。
これが、芸術なんだろうか? う、う~ん……やっぱりさっぱり分からない。こう、なんというかモデルがある系の絵はまだ分かるんだが、こういう抽象的な絵は分からないという感想しか出てこない。
「……フィーア先生、わかります」
「全然分からない。芸術って難しいね……ツヴァイお姉ちゃんとか、ゼクスとかは芸術に詳しいんだけど、私はサッパリだね」
「俺も案内しておいてなんですが、正直よく分からないです。まぁ、こうして飾ってあるぐらいですし、分かる人が見れば凄い絵なんでしょうね」
「だね。う~ん、芸術ってハードルが高いね。まぁ、とりあえずぐるっと一通り見てから外にでよっか」
「そうしましょうか……」
美術館に来たのは失敗だったかもしれないと思ったが、フィーア先生はそれほど気にした感じではなく、むしろどこか楽し気というか……俺と一緒に回るということ自体を楽しんでくれているみたいだった。
美術館を一通り見学したあとで、指示通りフィーア先生の転移魔法によって移動した。フィーア先生が景色がよく思い入れのある場所として選んだのは……。
「……ここって、勇者の丘ですか?」
「うん。やっぱりここかなぁって……私にとってはいろいろな意味で始まりの場所で、クロム様と再会できた場所でもあるから、思い入れって言うとやっぱりここが一番大きいよ」
「なるほど……というか、人が全然いませんね?」
「ここは有名な場所ではあるんだけど、友好都市からはちょっと距離があるから、ツアーとかの見学以外だと来るのが大変だからね」
「あ~言われてみれば、友好都市を見下ろせるぐらい高い丘ですし、結構遠そうですね」
フィーア先生の言葉に納得するように頷いたあと、少しの間勇者の丘から見える景色を眺めたあと、トーレさんの指示通り、それぞれ距離を離して8の封筒を開く。
中にはこれまでと同じようにメッセージカードが入っており、そこには……こう書かれていた。
『いい加減後回しにせずに、フィーアと向き合うこと! ※気持ちが纏まったら9の封筒を開けること』
そこに書かれていた言葉はまるで胸に突き刺さるかのようで、正直これ以上ないほど痛いところを突かれた気分だった。
シリアス先輩「……ヤバい、告白の気配だ!? これ以上こんなところに居られるか! 私は自分の部屋に戻るぞ!!」
???「いや、ここっすよ。シリアス先輩の部屋」
シリアス先輩「………………せやな」




