Mission⑤ 『支払いを完了せよ!』
フィーア先生と共に、トーレさんの封筒を開く。俺の封筒のメッセージカードも同じ内容が書かれていた。
『支払いはじゃんけんで決めること! ※6は店を出たら開けること』
なるほど、じゃんけんときたか……フィーア先生から、喜びの感情が伝わってくる。たしかに、コレはどちらに有利に働くかと言えば、フィーア先生だろう。
そもそも先ほどまで劣勢だったフィーア先生にとっては、これ以上ないほどの逆転といえる。
「じゃんけんか~じゃあ、ここは指示通りに……」
「待ってくださいフィーア先生。普通にじゃんけんするんじゃ、俺が不利過ぎますよね? フィーア先生なら、俺の手を見てから自分の手を変えるなんてことも出来るわけですよね?」
「……まぁ、それはそうだね。どうしても能力で差はでちゃうよね」
そう、このままやれば身体能力や動体視力で圧倒的に劣る俺が不利なのは、六王祭での異常なじゃんけん大会を見ていたら分かる。
仮に途中で手を変えないというルールを作ったとして、本当に手を変えたかどうかを俺には判断できない。
アリスに審判を頼むなんかの手もあるにはあるが……それでは、結局俺の有利にはならない。
「なので、こんな方法はどうですか?」
そう言って俺はマジックボックスからメモ用紙とペンを取り出し、一枚破ってフィーア先生に手渡す。
「それぞれ紙に手を書いて見せ合うという形でじゃんけんするのは、どうでしょうか?」
「……いいよ。たしかにこれなら公平だね。ミヤマくん、私パーを出すから」
本当にフィーア先生は流石というべきだ。ここでパーを出すという駆け引きを仕掛けてきたのは、俺の持つシロさんの祝福による運の補正への対策だ。
咄嗟にそういう手を打ってくるのは見事というほかないが、今回は無駄に終わるだろう。
「フィーア先生の狙いは分かりますが、安心してください。『じゃんけんに関してはシロさん祝福の補正はかからないようになってます』」
「え? そうなの?」
「ええ、以前葵ちゃんや陽菜ちゃんとじゃんけんをすることがあって、その時に不公平だからってことで俺からシロさんにお願いして調整してもらったんですよ。なので、じゃんけんに関しては、そういった運の追加補正とかは一切発生しません」
「……わかった。じゃあ、本当に公平な勝負だね」
いま語った言葉に嘘はない。事実としてシロさんにお願いして調整してもらっているので、俺はじゃんけんに関しては普通の運しか持たないので、適当に出せば必ず勝てるとかそんなことはない。
フィーア先生も納得してくれたみたいで、こちらに背を向けて紙に手を書き始めたので、俺も同じように背を向ける。
少しして互いに手を書き終わり、テーブルの上に裏向きで紙を置く。
「……ミヤマくん、結構時間かかってたね。やっぱり悩んだのかな?」
「これで勝負が決まると思うと考えてしまって……まぁ、前置きはこのぐらいにして決着を着けましょう」
「うん。ちなみにあいこだった場合は?」
「その時はもう一回書き直しですね」
「了解。じゃあ、いくよ……せーのっ!」
フィーア先生の声に合わせて紙をめくると、俺の手はパーでフィーア先生はグー……つまり、俺の勝ちである。
「俺の勝ちですね」
「ぐぅ、ま、負けた……」
悔しそうな表情で顔を俯かせるフィーア先生の前で、俺は勝ち誇った表情で伝票を手に持つ。
「……悔しいなぁ……うん? あれ? ミヤマくんの紙、なんか折り目が付いてない? なんで、一度折ってからわざわざ開いて……あぁぁぁっ!?」
小さな声で呟いたあと、なにかに気付いたような表情を浮かべるフィーア先生……どうやら、俺の仕掛けた策に気が付いたようだ。
「や、やったなぁ、ミヤマくん! ズルしたでしょ!?」
「はて? なんのことやら?」
「とぼけないでよ。その紙にある折り目……君、三枚の紙にそれぞれの手を書いて、『くじ引きの形でランダムに選んだ』でしょ! じゃんけんにシャローヴァナル様の祝福が適応されないとしても、くじには適用される……そういうことなんじゃないの!?」
「さすが、フィーア先生……その通りですよ。あぁ、ちなみにルール違反はしてませんよ。そういう方法で手を選んではいけないとは互いに一言も言ってないですしね」
フィーア先生の言葉に俺はニヤリと笑みを浮かべる。そう、ここまでの展開はすべて俺の掌の上だったのだ。
「そもそも、なぜ俺がこの形式を提案したかと言えば、普通にじゃんけんをすればフィーア先生が手を変えないという縛りがあったとしても、五分五分の勝負になってしまうから……くじ引きという、運の補正を受けられる要素で手を決められる、この形を提案したんですよ」
「ぐ、ぐぬぬ……」
「それだけじゃないです。じゃんけんに祝福の効果が及ばないという情報を話したのも、くじ引きという手段から目を離すため……分かりますか? この形式での勝負を受けた時点で、貴女の敗北は決まっていたんですよ」
「ふぬぅぅぅ……わ、悪い子めぇ~」
そもそもの戦略で敗北していたことを悟ったフィーア先生は、なんとも悔しそうな表情を浮かべる。
「いい勝負でしたよ。ですが、今回は俺の勝ちです」
「ぐぅぅぅ、く、悔しいぃ。こ、これで終わったとは思わないことだね。今回は負けたけど、次は倍返ししてやるからね!」
「次も返り討ちにしてあげますよ」
不敵な笑みを浮かべる俺と悔しそうなフィーア先生は、互いに睨み合い……少しして同時に噴き出した。
「……あはは、なに馬鹿なことしてるんでしょうね、俺たち」
「ふふ、本当にね。こんだけ真剣になって、互いに自分が奢る~って勝負してるんだから、おかしい話だよね」
「まぁ、なんだかんだで楽しかったりするんですけどね」
「本当にね……ミヤマくん、今日はご馳走様」
「はい」
そう言ってもう一度笑い合ってから、支払いを終えてふたりで店の外に出た。なんとなく、くだらない戦いを繰り広げて、よりフィーア先生と親密になれたような、そんな気がした。
シリアス先輩「なにがおかしいって、コイツら負けたほうが奢るとかそういうので競ってるんじゃなく、どっちも自分が奢るって争ってるんだからな……」
???「まぁ、なんだかんだで似た者同士なんでしょうね」




