Mission③ 『指定の店に向かえ!』
とりあえず、人の入りも多くなってきたのでそろそろ演劇が始まるみたいだ。
「……えっと、それじゃあ、その、手を繋ぎましょうか? どう繋ぎます?」
「えっとね、ミヤマくんが掌を上にして私がそこに重ねる感じで!」
「了解です」
とりあえずここはフィーア先生の要望に従おうと、言われた通りに掌を上にするとそこにフィーア先生が手を重ねてきた。
思った以上に補足スベスベの手の感触にドキリとしたが、とりあえず演劇に集中しよう。幸い、トーレさんが釘を刺したおかげで、公演中という動けない状態でのこれ以上の攻勢がないのは安心だ。
そして演劇が始まったわけだが……結構ガッツリとした恋愛ものの舞台である。正直、映画とかでも敬遠するような、あまり得意なジャンルとは言えないのだが……演者の演技力が高く、物語も王道な感じで始まってみると結構惹きこまれた。
そこでふと気になって感応魔法を発動してみると……フィーア先生の方はあまり楽しめてないというか、伝わってくる感情から察するにもどかしさを感じているようあった。
まぁ、フィーア先生は恋愛に関しては割と押せ押せ……というか恋愛以外でも思い立ったら即行動というぐらいに行動力があるので、この手の恋愛ものにはもどかしさを感じるのかもしれない。
1時間ちょっとの演劇が終わり、劇場から人が出ていくのを見ながらフィーア先生に声をかける。
「フィーア先生、どうでした?」
「あ、あはは、恋愛ってのは難しいね。私としては最初の方で、相手のところにさっさと行って告白すればいいのにって思ってたよ」
「それだと一瞬で物語が終わっちゃうので難しいところですね……とりあえず手早く次の封筒を確認しましょう」
「あっ、そうだね。いつまでもここに居るわけにもいかないしね」
感想を語り合うのは後にして、先に4の封筒を開けて内容を確認する。今回は俺とフィーア先生の封筒の内容は同じだった。
『指定の店に行って昼食としてカップル限定メニューを食べること! ※5は食後に開けること』
封筒の中には地図が入っており、フィーア先生と顔を見合わせて頷き合い、指定の店を目指す。
北区画には俺もあまり高頻度で来るわけではないので、書かれている場所の店は初めてでどんな店か想像が付かない。
まぁ、昼も近付いてきてお腹も空いてきたので、丁度いいと言えばちょうどいいか……。
そうして、フィーア先生と共に指定の店に移動したわけなのだが、俺たちは店の前でポカンとした表情を浮かべていた。
俺とフィーア先生の視線の先、店のドアには一枚の札が掲げられていた。『本日定休日』と……。
「……あの、フィーア先生?」
「ミヤマくんにいいこと教えてあげるね。トーレお姉ちゃんの辞書に、下調べとかそういう言葉はないから、基本的に行動の九割は行き当たりばったりだから」
「……なるほど……けど、どうします?」
「う、う~ん、私は別に食べなくてもいいけど、ミヤマくんはお腹すくよね? どこか近場で別の店で食事しよっか。開いてないものは仕方ないしね」
まぁ、そうだよなぁ。企画したのトーレさんだもんなぁ……全部予定通り完璧に回る方が不自然だよな。うん、フィーア先生もなんか「トーレお姉ちゃんならしょうがない」みたいな顔してるし、よくあることなんだろう。
「そうですね。ちょっと待ってください、いい店がないか調べてみます」
「あっ、クロム様の本だ」
「なんだかんだでこれ、凄く便利なんですよね」
取り出したのは丸ごと食べ歩きガイド……本当に、この本想像以上に役に立つというか、本当にあらゆる地域を網羅しているから、出先でちょっと美味しい店を探したくなった時に丁度いいのだ。
しかもベビーカステラを除けば、クロの味に対する評価はかなり正確で、星の多い店は基本的に外れはなくどれも美味しい。
あと、俺の所には毎日きている関係上、閉店した店とかがあるとその場で修正してくれるので、情報もかなり最新である。
「フィーア先生って、なにか好きな食べ物とかあります?」
「う、う~ん、難しいなぁ。あんまり食事しないからね……あっ、でも私ハーブ使ってる料理は好きだよ。バジルソテーとか香草焼きとか……」
「なるほど、そういうのが推しの店は……あっ、こことかどうですか? 鶏肉のハーブ焼きが有名らしいですよ」
「美味しそうだね。場所もここから近いし……ミヤマくんがいいなら、そこにしようか」
クロの評価も星7とかなり高くよさそうな店なのでそこに決め、移動しようとすると不意にフィーア先生が話しかけてきた。
「ねね、ミヤマくん?」
「はい?」
「手を繋ごう!」
「え? い、いや、あの指示は演劇を見ている間って話では?」
「うん。だからそういうのとは関係なく、私がミヤマくんと手を繋ぎたいから手を繋いでいこうよ……駄目?」
「い、いえ、駄目では無いですが、急だったので驚きました」
「そうかな? だって好きな相手とふたりでデートだよ。手ぐらい繋ぎたいからね」
「……」
さすが、恋愛ものはまどろっこしいというだけある行動派のフィーア先生、ドストレートというか、こちらに対して好意全開という感じで思わず照れてしまう。
とりあえず断る理由もなく手を差し出すと、フィーア先生はニコニコと嬉しそうに手を繋いで歩き出す。
「よしっ! じゃあ、しゅっぱ~つ!」
「分かりま……ちょっ、フィーア先生! 看板!?」
「ふぇ――ふぎゃっ!?」
そして、天性のドジっ子を発動させ、突き出ていた看板に顔をぶつけるのもまぁ、なんというか……とてもフィーア先生らしかった。
シリアス先輩「これはアレだ、だんだんと甘くなってくるパターンのやつだ……知ってるんだぞ、私は詳しいんだ!!」
???「まぁ、いままでさんざんやられてきてますからね」




