閑話・集い始めた星々
次回からフェイトとのデート後半です
遠い昔、のちに六王と呼ばれる存在たちがクロムエイナの元で共に過ごしていた頃、クロムエイナが食道楽とでもいうべきか、なにかを食べることを好むこともあって家族たちで集まって食事をする機会が度々あった。
精霊であるリリウッドは水を飲むだけで、体躯が巨大すぎるマグナウェルも食事は行わなかったが、それ以外の面々はそれなりに食事を楽しんでいた。
……アイシスは、その時間がとても好きだった。家族たちと一緒に食卓を囲み和気藹々と食事をする。誰かと共に居るということを強く実感できるその温かな時間がとても好きだった。
だからこそ、アイシスは己の居城を作った際に大きな食堂を用意した。いつか、この城に住む大勢の人たちと一緒にあの時のように食事が出来たらと、そんな風に思いながら……。
だが生憎と長らく彼女は孤独に過ごすことになり、彼女自身が飲食が必須ではないこともあって、いつしか食堂は状態保存の魔法だけをかけて放置……使わない部屋となってしまっていた。
しかし凍てついていた夢が少しずつ動き出すのと連動するかのように、その幸せな思い出もまた新しい形となって表れ始めていた。
「……長らく食事をすることが無かったが、いいものだな。鍛錬ばかりの日々に後悔はないが、やはりアイシス様のいう通り少々余裕が無さ過ぎたのかもしれない。こういった一息つく時間もまた、必要というわけか」
「気持ちはよくわかるよ。私も、これでかなり鍛錬漬けの日々を送っていたからね。筆頭殿に付き合う形で食べるようになったが、食事というのもなかなかどうして素晴らしいものだと思うよ。まぁ、これも、筆頭殿の料理の腕があってのことかもしれないがね」
いまアイシスの目の前では、彼女の配下に加わったシリウスとポラリス、そして彼女にとって最初の配下であるイリスが居て、四人で同じ食卓に付いて食事をしていた。
というのも、元人間であるイリスは食事の習慣が強く残っており、いまもキッチリと三食食べている。そしてイリス自身の趣味が料理ということもあって、腕前は相当のものだ。
初めはイリスのみで食事をとっていたが、そこにアイシスが参加するようになり、同じく興味を惹かれたポラリスも加わり、いつの間にかアイシスの居城では朝と夕に配下とアイシスで食事をするのが恒例になりつつあった。
「しかし、驚いた。私はそこまで情報通というわけではないが、それでも魔界の強者はある程度頭に入れているつもりだったが……イリス殿ほどの強者が存在していたとは」
「我の場合は、少々特殊でな。知らなくて当然だ」
「ふむ、また手合わせを願いたいものだ」
今回配下に加わったシリウスもその恒例行事に参加するようになり、朝と夕は四人で食事をとることになって、食卓もかなり賑やかになった。
アイシスは、それがたまらなく嬉しかった。なにより、こうして共に食事をして笑い合ってくれるような素晴らしい配下と巡り合えた幸せを噛みしめ、同時に自分も彼女たちに恥じぬ存在であろうと、自然とそう思えた。
配下を得たことで、アイシスもまた王として少しずつ成長している。
「……アイシス様、おかわりはいかがですか?」
「……うん……もらうね……ありがとう」
「筆頭殿、私にも頼むよ」
「横着せずに自分でやれ」
「扱いの差っ!?」
「ふふふ」
王と配下という関係ではあるものの、そこに堅苦しさはなく、アイシスが心からのそんでいたように、彼女が得た配下たちは皆家族のような温かな存在だった。
その幸せを噛みしめるように微笑むアイシスの周囲には、不思議と死の魔力とはまた違う穏やかな空気が流れているように感じられた。
アイシスの居城の中でも見晴らしがよく、日当たりもいい部屋の窓辺で、一輪のブルークリスタルフラワーが揺れる。
(……なんや、思うてたんと違うなぁ。最初はあんな禍々しい魔力なんやし、恐ろしい人やろうて思うてたけど……ちょお、勘違いしとったかな。魔力は禍々しいけど、なんていうか……ブルークリスタルフラワーが大好きや~って気持ちも伝わってくるし、たぶん優しい方なんやろうなぁ)
アイシスが持ち帰ったブルークリスタルフラワーに宿る精霊スピカは、当初こそアイシスを見て早々に逃げようと考えていたが、いまとなってはそんな気持ちは消え失せていた。
ここから見える景色を気に入ったというのもあるが、アイシスがブルークリスタルフラワーを大切に思っているのが、彼女にいい印象を与えており、アイシスに対する評価は当初と大きく変わっていた。
(それに、なんや……この城の空気は、なんか温かくて、好きやなぁ。そして、その温かい空気の中心にいるんは、間違いなく死王さんやね。あの人の優しい雰囲気が、周りの人たちも優しい気持ちにさせてる……なんか、ええなぁ)
微かに聞こえてきた談笑の声を聞き、スピカは不思議と己の心まで温かくなっているように感じた。
(なんやろ、この気持ち。よう分からんけど……しばらくは、ここに居ろう。ここから見える景色は、やっぱり……好きやなぁ)
アイシスの元に集い始めた星々……そこに新たな煌めきが加わるは、決して遠い未来の話ではないだろう。
~おまけ・シリウスの剣~
【七星剣】
伝説の鍛冶師クラフティーの傑作にして『魔剣』と呼ばれる剣。
アリスがマキナの短剣を使う前に使っていた短剣を作る際に余った七星魔獣の素材を使って作った逸品で、切れ味強度共に桁外れ。
しかし、所持者の魔力を強制的に吸収して切れ味を上げるという特性があり、並の者であれば握っただけで根こそぎ魔力を吸い取られて干乾びてしまうような危険な剣であり、魔剣として魔界の奥地に封印されていた。
剣には意志のようなものがあり使い手を剣が選ぶ、まさに魔剣と言っていい品。
シリウスが七星剣を手に入れてすぐに剣が魔力を吸っているのに気づき、「なるほど! 魔力を注げば切れ味が上がるのか、素晴らしい!」と『アホみたいな量の魔力』を注ぎ込んだ。
魔力の総量も出力も並の魔族とは文字通り次元が違うシリウスの魔力は膨大過ぎて、危うく耐え切れずに粉々になるところだったが、剣が必死に『注いだ魔力で剣の外に魔力刃を作り出す』を編み出して、なんとか壊れずに済んだ。
なお、その際に『格付けが完全に終わった』ため、以後シリウスに滅茶苦茶従順になり、それこそ呼べばひとりでにシリウスの手元に戻ってくるレベルの忠剣となった。
要約すると……
七星剣(お、新しい持ち主か、魔力吸い尽くしたろ)
シリウス「微弱な魔力が吸収されて切れ味が上がった? そうか! 魔力を注げば、切れ味が上がるのか! さすがは魔剣、よし、そうと分かれば!」
七星剣(あっ、ちょっ、まっ……多い多い多い!? 無理無理、なんて馬鹿げた魔力注ぐんだコイツ!? らめぇぇぇ! 許容量余裕で越えちゃうから!? 破裂しちゃうからぁぁぁぁ!!)
シリウス「なんと、魔力刃を作り出す能力まであるとは、素晴らしい! 苦労して手に入れたかいがあった。これからよろしく頼むぞ、七星剣!」
七星剣(……押忍! 任せてくださいご主人様!!)
ちなみに、七星剣という名前なのに六本しかないのは『六本の剣を融合させることで七本目の剣……真なる最強の一振りが姿を現す』という中二心をくすぐるギミックが搭載されているからである。




