閑話・天刃星 前編
1話で終わらせるつもりが、ちょっと忙しくて書き切れなかったので分割します。
今回少し短めで申し訳ありません。
快人がフェイトと共に旅行に行っていた時、魔界の最北に位置する死の大地、そこにある死王アイシスの居城にひとりの人物が訪れていた。
左右三本ずつ計六本の剣を腰に差した虫人型の魔族。纏う魔力はかなり強大であり、その者の実力の高さ示していた。
虫人剣士……伯爵級最上位の実力者であるシリウスは、やや緊張した面持ちで門に設置された来客用の魔法具に触れる。
少しすると巨大な門が開き、白い三角帽を被ったウィッチ……ポラリスが現れる。
「はて? 来客があるとは聞いていなかったが……さすがに、道に迷って死の大地の中心付近まで来たわけでもないだろう?」
「突然の訪問、失礼。我が名はシリウス……六王が一角、死王アイシス・レムナント様に手合わせを願いたく参上した。身勝手な物言いではあるが、死王様に取り次いでいただけないだろうか?」
「……アイシス様に、挑戦?」
アイシスに挑みに来たというシリウスの言葉を聞き、ポラリスは少し表情を険しくした。
「一応確認するけど、アイシス様と知り合いというわけではないのだろう?」
「ああ、面識はない」
「手合わせの約束をしていたわけでもない?」
「その通りだ」
「……なるほどね」
瞬間、ポラリスが纏う魔力が鋭くなりそれに合わせるようにシリウスの魔力も大きくなる。ふたりの中心で魔力がぶつかり合い、地面にはヒビが入る。
「手合わせをしたいからと面識のない相手が訪れて、はいどうぞと挑めるほど、六王の名は軽くないと思うのだが……どうかな?」
「配下ができたとは聞いたが、これほどの強者だとは、少々誤算だったな……だが、異論はない」
ポラリスが拳を握り、シリウスは剣の柄に手をかける。
「アイシス様の配下、名はポラリス……アイシス様に挑みたければ、まずは私を倒してからにしてもらおうか!」
「再度名乗ろう。我が名はシリウス……押し通らせてもらう!」
共に伯爵級最上位の実力者同士であり、臨戦態勢で向かい合えば相手の実力を察することなど容易い。激しい戦いになることを両者が予感した瞬間、静かな声が響いた。
「……待って……ポラリス」
「アイシス様?」
姿を現した死王アイシスを見て、ポラリスとシリウスはほぼ同時に構えを解く。
「……話は……聞こえてた……」
アイシスの姿を見て、シリウスは刀を収めて片膝をつく。
「お初にお目にかかります、死王様。私はシリウスと申します。無礼は承知の上で、私の力試しのため手合わせに応じていただけないでしょうか?」
「……うん……わかった……いいよ」
「感謝します」
「アイシス様がそう仰られるなら……私は結界の用意をします」
「……よろしく」
アイシスがシリウスの挑戦に応じ、ポラリスが用意した結界の中で、剣士シリウスの王への挑戦が始まった。




