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ペットを飼う事になったよ

 全財産を賭けたチケットを持ち、席に戻る。

 間もなくレースがスタートするみたいで、大型の魔物達がスタート地点の柵の前に集まっている。

 そしてその中で、またベヒモスがこちらをじっと見ていた。


 距離もそれなりにあるので伝わるかどうか分からなかったが、俺は感応魔法でベヒモスに意思を飛ばしてみた。

 どうなるかはお前の頑張り次第だ……と……

 少ししてベヒモスが小さく頷きこちらから視線を外す、それを確認してから席に座った。


「アリス、ベヒモスの勝ち筋ってあるの?」

「う~ん。このメインレースは……まぁ、見れば分かると思いますけど好戦的な魔物が多いので、乱闘になる事が多いんすよ。流石に赤ん坊のベヒモスじゃ他を全部倒すのは無理でしょうし……上手い事、レッドドラゴンやフェンリルが潰し合ってくれればあるいは……」

「成程」

「……ただ……」

「うん?」


 やはりベヒモスが勝つのはかなり厳しそうな感じだったが、他の強敵がぶつかれば可能性は出てくるらしい。

 実際にこのメインレースは大番狂わせが起こりやすい状況は整っているので、あり得ない話ではないとの事だ。

 しかしアリスはそこまで話した後で、何か気になる事があるのか首を傾げる。


「あの、ベヒモス……私の知ってるのと、少し違うんですよね」

「違うって、どこが?」

「いえ、私もベヒモス自体あまり見た事無いんですけど……ベヒモスの角は『赤かった』気がするんですよね」

「赤い角? いや、でもあのベヒモスの角は黒いけど?」

「そうなんですよね~だから、もしかしたら……」

『さあ、いよいよメインレースの開始です!』


 アリスが何かを言いかけたタイミングで実況の声が響き、一端話を止めて視線をコースに移す。

 魔物達の前にあった柵が消え、レースがスタートした瞬間……それは起こった。


 四足歩行していたベヒモスが、突然前足を上げて起き上がり咆哮。

 黒い角から漆黒の雷が放たれ、空を飛んでいたレッドドラゴンを貫いた。


『な、なんと!? 一撃でレッドドラゴンが沈んだあぁぁぁ! コレが伝説の魔獣の力なのか!?』

「やっぱり、あのベヒモス……特殊個体ですよ!」

「特殊個体?」


 特殊個体って確か、ブルーオーガであるアハトもそうで、通常とは違う個体だった筈。


「カイトさん! これ、可能性大きくなりましたよ! 私も文献でしか知らないっすけど、特殊個体のベヒモスは漆黒の雷光を纏い、通常の個体の数倍の力を持つと言われています」

「数倍……それって……」

『おおっと! ベヒモス速い! 先頭を走るフェンリルにぐんぐん追いついていく!』


 興奮気味に語るアリスの言葉を肯定する様に、レッドドラゴンを撃ち落としたベヒモスはそのまま凄まじいスピードでコースを走り、前を走る巨大な狼……フェンリルに迫る。

 フェンリルもベヒモスの接近を察知して足を止め、遠吠えの様な声を上げる。


『フェンリル、ベヒモスを迎え撃つつもりだ!!』


 フェンリルの周囲に巨大なつららが現れ、それが弾丸の様な速度でベヒモスに向かう。

 フェンリルクラスの魔物にもなれば、魔法を使う事も出来る様で、ベヒモスはそれを素早いステップで回避するが、時々かすっていた。


 複数の箇所に傷を作りながらもフェンリルの元に辿り着いたベヒモスは、フェンリルに向けて角を振るうが……狼みたいな見た目通り、フェンリルはかなり素早く軽々とそれを回避する。


「やっぱ、フェンリルのフットワークは軽いっすね。でも、あのベヒモスが特殊個体なら……赤ん坊でもアレが使える筈」

「アレ?」

「ええ、よく見ててください。たぶん勝負は一瞬……出ますよ、ベヒモスの『ブレス』が」


 アリスの言葉に従ってベヒモスを見ると、ベヒモスは再び後ろ足で立ち上がり、地鳴りの様な咆哮をする。

 その叫びに呼応する様に、角から迸る雷が口元に収束していく。


「こう言われてます。天のニーズヘッグのブレスは地を焼く業火、地のベヒモスのブレスは……天を貫く閃光と……」

「ッ!?」


 ベヒモスの口から、黒い閃光が走り……瞬き程の時間もかからず、その閃光はフェンリルを貫いた。

 文字通りの雷の速さで放たれたブレスは、いかにフェンリルが早くともかわす事は出来なかったみたいで、フェンリルはそのまま地面に倒れる。


『フェンリル撃沈! コレは決まったあぁぁぁ! 他の魔物達は今の戦いに怯えている! これは、まさか、まさかの……そして今、ベヒモスが一着でゴール! 一着はベヒモス! ベヒモスです!』

「いやったあぁぁぁ! カイトさん! 勝ちましたよ!」

「ああ、本当に凄かった!」

「やったあぁぁぁ!! 大儲けだあ――痛いっ!?」

「お前、もうちょっと空気読もうな……」



















 現在会場では第7レースが始まった頃だろうか? 俺とアリスは、5レース目以降には参加せず、現在はモンスターレース場の裏手にある大きな建物へと来ていた。


「ミヤマ・カイト様、本日はお買い上げありがとうございます。支配人のチャペルと申します。以後お見知りおきを……」

「あ、はい。宮間快人です。よろしくお願いします」


 煌びやかな服に身を包んだ、モンスターレース場を取り仕切る支配人……チャペルさんが晴やかな笑顔で話しかけてくる。

 まぁ、何と言うか、今の俺はベヒモスを買った……言うならば、大きな買い物をしてくれた上客という訳だし、この丁寧な対応にも納得出来る。

 まぁ納得はできるけど、自分より明らかに年上の人に深々と頭を下げられるのは……何と言うか慣れない。


「ミヤマ様のお噂は私の元にも届いております」

「噂?」

「ええ、六王様と親交が厚く、さきの宝樹祭にて見事優勝なされたとか」

「え、えぇ……まぁ……」

「流石、一流の御方は良い物を見定める目を持っていらっしゃる。是非、これからも御贔屓に」

「あ、はい」


 収穫祭で優勝したと言う話は、もう他国にまで伝わってるらしく、何と言うか物凄く気恥ずかしい。

 いや、単にチャペルの情報網が広いだけかもしれない……というかそっちであって欲しい。


 ちなみにベヒモスの倍率は205倍というかなりのもので、俺の手元にはベヒモスの代金を支払っても白金貨が100枚以上残っている。

 なんか、とんでもなく勝ってしまって申し訳ない気がするが、チャペルさんはニコニコと笑顔のままだ。

 そう言えば競馬とかは、どうあっても胴元は儲かる仕組みになってるとか聞いた事があるし、モンスターレースもそんな感じなのかな?


「すみませ~ん。お菓子おかわり――ぎゃうっ!?」

「お前、少しは遠慮しろ……」

「いえいえ、どうぞお好きなだけ……おっと、申し訳ありません。どうやら引き渡しの準備が出来た様ですので、どうぞこちらへ」

「はい」


 出された茶菓子を全部食べ切り、おかわりまで要求してる馬鹿を殴ると、丁度そのタイミングでベヒモスを引き渡す準備が出来たと言う事で、チャペルさんに付いて移動する。

 そしてその移動の最中、隣を歩くアリスが、俺にだけ聞こえる小さな声で話しかけて来た。


「……流石、取り入るべき相手ってのを分かってるみたいですね。この人結構やり手ですよ」

「……どういう事?」

「あのベヒモスは特殊個体です。本来なら倍以上の値になってもおかしくないですし……たぶん、他に買い取りを希望した大貴族も結構居た筈ですよ」

「そうなの?」

「予想ですけどね……そっちに売るより、カイトさんに好印象を抱いてもらった方が良いと考えたんでしょうね……だから、割引いてくれたでしょ?」

「確かに……」


 アリスの言葉通り、実はベヒモスの購入だが……白金貨300枚の所を、初めての購入という事で280枚にしてくれていた。

 2億円の割引……それだけ、俺に対して誠意を示したいと言う事らしい。

 実際アリスの予想は間違いでは無いみたいで、チャペルさんはチラリとこちらを見て笑顔で話しかけてくる。


「ミヤマ様、また是非いらしてください。もしよろしければ、冥王様や界王様と一緒にいらして下されっても……ああ、その際は勿論お声がけ頂ければ、精一杯おもてなしさせていただきます」

「あ、はい。分かりました。クロ……冥王様達にも、チャペルさんに良くして頂いたと伝えておきます」

「おぉ、何とありがたいお言葉……光栄の極みに存じます」


 どうやらチャペルさんの方も、打算がある事がばれているのは初めから分かってるみたいで、遠回しに望みを伝えて来たので、俺も形式的ではあるがお礼を込めて返しておいた。

 どうやらアリスの言葉通り、本当にやり手の方らしい……何で自分は全く商才ない癖に、他を見る目だけは鋭いのかな?


 そうこうしている内に非常に大きな檻の前に辿り着き、視線を動かしてみると中に先程のベヒモスの姿が見えた。

 ベヒモスは俺に気付くとゆっくりと起き上がり、檻の中でこちらに近付いて来て再び俺をじっと見つめる。


「大変凶暴ですので、まずは主の登録を――って、ミヤマ様!?」

「え?」


 つい何の気無く檻に近付くと、ベヒモスは俺を見て軽く頭を低くしてきた。

 敵意は感じず、むしろ感謝と好意が伝わってきたので、手を伸ばして頭を撫でると、ベヒモスは心地良さそうに顔を揺らしチャペルさんが驚いた様な声を上げた。


「……なんと……あのベヒモスが、こうも大人しく……いやはや、流石はミヤマ様と言うべきでしょうな」


 どうやらベヒモスの方はもう俺を主と認めてくれているみたいで、その後にあった首輪型魔法具による主の登録にも一切抵抗せず大人しかった。

 そして無事に主の登録が完了すると、檻開かれ、ベヒモスはゆっくりと俺の体に顔を擦りつけてくる。


「ガゥ……」


 赤ん坊という事だったし、甘えてるみたいに見える行動で大変微笑ましいのだが……鋭い2本の角が大変恐ろしい。刺さったりしないよね?

 

 拝啓、母さん、父さん――正直自分でもどうしてこうなったのかは分からないが、ひょんな事からベヒモスを買い取る事になった。まぁ先の事はちょっと不安だけど――ペットを飼う事になったよ。




















どこかの国王⇒己の感情を優先し針のむしろ

チャペル⇒大貴族等の要請を撥ね退け快人を優遇、年下の快人にも腰低く丁重に接する


大局を見据える目を持っていらっしゃる。

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1年後に帰る予定なのにペットを飼う?
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