ニアミス④
予定していた取引を無事に終えた茜はフラウと共に移動商会の馬車へ向かってきた道を戻っていた。
「そういえば、アイツらお土産よろしゅうとか言うてたな。しゃあない、なんか適当に食いもうでも買うて帰るか」
「そうですね。露店は多いですし……そう言えば、思い出したのですが、この首都にはたしか噂の異世界人が住んでいるのでは?」
「あ~あのごっつい噂が立っとる奴か。そういや、ウチもチラッと噂話は聞いたな」
「前回の勇者祭には参加しなかったのですが、ずいぶん凄い勇者役だったということでしょうか?」
「いや、ウチが聞いた話やと召喚に事故があって勇者役とは別の異世界人が召喚されて、そっちの方がアレコレ噂になっとる方らしいで」
フラウが降ってきた話題には茜も興味があったのか、ややテンション高く言葉を返す。とはいえ、正直彼女たちが持っている情報というのはせいぜい噂話程度だ。
快人の存在は特に貴族など国の上層においては有名で、宝樹祭のことなどもあり一般人にもある程度の噂は伝わっているが……本当に噂程度だ。
むしろ召喚に事故があったことすら知らないものが多いだろう。茜は商会長としてある程度は耳の広さも持つので多少の情報は得ているが、それでも彼女の商会はあまり貴族等とは取引が無いためあまり詳細な情報は得ていない。
「そうなんですか? 召喚に事故があったというのは初めて聞きましたね」
「そりゃ、わざわざ恥になるようなこと言うて回らんやろ。ウチも知り合いから話を聞いた程度やな」
「ふむ、しかし勇者役でないとすれば、ある程度時間に余裕はあったはずですし例の噂にも信憑性が……でますかね?」
「いや、だいぶ尾ひれついてると思うで、六王様や最高神様やはては創造神様とまで交友が深くて、クロム様の恋人で、死王様の恋人……それどころか創造神様に特別愛されてて、宝樹祭でも優勝して、並の貴族が相手にならんほどの財力を持ってる? たった一年で? 誇張するにも限度があるやろ」
「その噂もいろいろハッキリとしませんしね。幻王様を従えてるだとか、運命神様の本祝福を受けたとか、いろいろ言われてましたね」
「そないなもんが全部事実やったら、一体どんな桁違いのバケモンやっつう話やろ。そんなんうちと同じ人間に出来るわけないやん」
「ですよねぇ」
なお、いまふたりが語った噂はすべて事実なのだが……あまりにも内容が内容すぎて、尾ひれがついて誇張された噂だろうと、ふたりともそう思っていた。
「……ただ、全部が全部嘘ってわけでもないやろな。火のないところになんとやらとはいうし、面白がって誇張されとる部分はあるやろうけど、いくらかは真実も混ざっとるやろ」
「ふむ、会長はどのあたりが真実だと思います?」
「う~ん、クロム様と恋人っていうのがマジやと思うわ。六王祭の時に挨拶した時に、クロム様ごっつ機嫌よさそうやったし、六日目にカイトくんちゅう子と祭り回るのが楽しみや~言うてたからな。そのカイトくんってのが、噂の異世界人やと思うわ」
「というか、そもそも会長は六王祭でその異世界人を見ていないんですか?」
「見てへんな。ウチはブロンズやったし、開催式とかも大外も大外でステージとかは見えてへんし、最終日のパーティにも参加してへんからな」
茜はクロムエイナとは多少面識があり、また界王配下の一部とも取引があるのでその縁でクロムエイナとリリウッドのふたりから招待を受けた。
しかし、それ以外の六王とはまともに話したこともなく、当然最終日のパーティにも参加していないので快人を見たことはない。
「……そんなわけでクロム様と恋人ってのはマジやと思うわ。それで、クロム様繋がりで他の六王様と知り合っても不思議やない。まぁ、親密とかは誇張されとるとしても、顔見知りてはあるんやろな。死王様と恋人ってのは、尾ひれついただけやろ、そもそも死王様と会話なんて無理やない?」
「まぁ、そうですね。あり得ないと言っていいかと……」
「神界関連はようわからんけど、クロム様の恋人ってだけでビックニュースやし、それでアレコレ尾ひれつきまくって広まったんちゃうかな?」
「なるほど、しかし不思議ですね。冥王様の恋人ともなれば、もっと大々的に話が広まっていてもおかしくないと思うんですが……噂レベルなんですよね?」
「せやな。ウチもクロム様と直接話してなければ質の悪いゴシップやなぁ~で無視してたと思うしな」
実際快人に関する情報は、貴族などはともかく他へは噂レベルでしか広まっていない。それはもちろん、世界の情報を管理しているともいえるアリスが手を回した結果なのだが、ふたりにそれを知る術はない。
結果としてふたりの快人に対する認識は、噂だけは物凄い異世界人という感じである。
「せっかくですし、探してみますか?」
「顔もフルネームも知らんのにどうやって探すねん。アホなこと言うてないで、はよう土産買って帰るで」
茜とフラウがワイワイと話しながら歩いていると、不意にふたりとすれ違った男性が振り返り、歩くふたりの背を見ながら小さく呟いた。
「……ヒョウ柄の服って目立つなぁ。というか、関西弁? 自動翻訳されてるはずの言葉が関西弁に聞こえるってどういうことだ? う~ん、訛りの表現みたいなものかな?」
不思議そうに首を傾げながらも、それ以上気にしないことにしたのか……『宮間快人』はふたりが歩いて行った方向とは逆方向に歩き出した。
シリアス先輩「快人や茜はともかくとして、フラウは魔力で異世界人って分からないの?」
???「見ようとすれば分かるんでしょうけど、常時魔力を感知しているのはそれこそ爵位級レベルの実力者ぐらいですから、気付かなくても無理は無いですよ」
シリアス先輩「なるほど」




