ニアミス①
前々から企画していたフェイトさんとの旅行の予定も決まり、クリスさんにお願いして予約を取ってもらった。その際にクリスさんから、フェイトさんが来たことを宣伝に使ってもいいかと尋ねられたので、一応フェイトさんに確認したら「別にいいよ~」とのことだったので、そのまま伝えておいた。
そのフェイトさんとの旅行も明日に迫り、俺は明日の旅行に備えて買い物に来ていた。
まぁ、買い物とは言っても特にコレを買うって決めてるわけではない。のんびり過ごす予定であちこち観光に歩くわけではないので、のんびりフェイトさんと一緒に出来るものを買いにきた。
湖畔みたいだし、釣りも候補に入るが……フェイトさんは寝そうな気がする。まぁ、でもあって困るわけでもないし、いろいろ買っておこう。
今回はいつもの中央区画から結構足を延ばして首都の南門付近までやってきた。ここには結構大きい広場があって、露店とかでかなり賑わっていて、ぶらぶらとショッピングするにはかなりいい場所だ。
俺の家からはやや遠いのであまり来る機会はないが、たまにこうして足を延ばして訪れるとかなり楽しい。
いくつかの店を眺めつつ、途中で見かけた串焼きの屋台で串焼きを買ったタイミングでふと、広場の一角……ここからは離れた場所にかなりの人だかりができているのが見えた。
「……あそこってずいぶん人が集まってますけど、なにかあるんですか?」
「ああ、いま移動商会が来てるんだよ。珍しい商品とかシンフォニア王国じゃ手に入り辛いものが多いから賑わってる訳さ」
「なるほど……」
屋台の店主が口にした移動商会。言葉のまま受け取るなら、大規模な行商みたいなものだろうか……ちょっと興味があるし見てみようかな?
教えてくれた店主にお礼を言って移動商会のある場所に近づくと、遠目ではよく分からなかったがかなり巨大な馬車があり、そこが店舗になっているみたいだった。
いわゆる移動式店舗というかそんな感じか、面白そうではある……面白そうではあるが……いかんせん人が多すぎて、全然近付けない。
この人だかりをかき分けるには相当の体力が居るだろうし、明日から旅行に行く身としてはちょっと尻込みしてしまう。
まぁ、興味はあるが……今回は諦めて、また次の機会に見かけたら立ち寄ってみることにしよう。とりあえず、先程思い付いた釣竿を買いに釣具店にいくとするか、えっと、確か前にアニマに教えてもらった店のメモがあったはず……。
快人が移動商会を見るのを諦めて立ち去った頃、賑わう移動商会の店舗にもなる巨大な馬車の裏手では、ひとりの女性が電卓の魔法具を使って売り上げの計算を行っていた。
「う~ん、ええ感じや。今回はそこそこ利益も期待できそうやな」
「それはよかったですね。けど、そのデンタクでしたっけ? たしか、会長の『居た世界』の品なんですっけ?」
薄紫の髪を首の後ろで二束に括った女性が計算結果を紙に書き写しながら呟くと、メイド服を着た女性が湯呑を差し出しながら尋ねる。
「……まぁ、別に『電子式』ってわけやないし、果たしてこれを電卓って呼ぶんがホンマに正しいかは分からんけど、たしかにウチの居た世界にあったものや」
「その魔法具は便利ですね。売り出された瞬間に会長が大金払って最上級の品を購入した時には驚きましたが、素晴らしい魔法具です」
「いや、欲しかったんよ。もうええ加減手計算はしんどいて思うてたしな。しかもこの最上級グレードのはホンマに多機能で、電卓っていうより表計算ソフトみたいなもんやしありがたいわ~。欠点としてはプリンターが無いから手書きで書き写さなあかんとこかなぁ。まぁ、贅沢ばっか言うてもしゃあないけど」
「ヒョウケイサンソフト? プリンター? よく分かりませんが……欲しかったのなら、会長が作ったらよかったのでは?」
楽し気にはなす会長に、メイドが苦笑しながら尋ねる。
「いや、こないなもん作れるか!? これ、術式みたか? どえらいで……どないな頭しとったら、こんな術式思いつくねん。こんな複雑極まりない術式が、綺麗に動いてんのもとんでもないわ。コレをウチが一から作ろうなんて思うたら、何十年かかるか分からん」
「なるほど、その辺りはやはり流石はセーディッチ魔法具商会といったところでしょうか」
「せやな。というか、聞いた話やとこの術式組んだのクロム様らしいで、まぁせやったら納得やわ。一般販売されてる安値タイプも何で動くか分からんほどえげつない術式簡略化さてとったし、さすがやなぁ。この調子でコタツとかそんなのも作ってくれへんかなぁ~コタツ入ってたこパしたいねん」
「あぁ、たまに会長がするあの変な儀式ですか? 最近では妙な道具まで……どこで買ったんですか、あの変な道具」
楽しげに話す会長の言葉に、メイドはやや呆れたような表情で返す。メイドはそれなりに長く会長に仕えており、たこパなるものをよく開催することを知ってはいたが……彼女にはイマイチ理解できないものだった。
「いや、買ったんちゃうねん。もろうたねん、神様に」
「……そう言えば、前もそんなこと言っていましたね。頭がおかしくなったのかと聞き流しましたが」
「いや、聞き流すなや!? ホンマに神様にもうろてん。ある日突然、『エデン様』ちゅうウチらの世界の神様がやって来てな、なんか欲しいものはないか~っていうから、たこ焼きプレート欲しいっていうたらホンマにくれたんよ」
「なんでその問いかけで、たこ焼きプレートと答えますかね貴女は……もっといいものを貰えばよかったのに」
「いや、だって……小型のたこ焼きプレート欲しかったから……」
バツが悪そうに頬を書く女性の名は『三雲茜』。
彼女は移動商会である『三雲商会』の会長にして、快人たち4人を除き『現在世界に3人存在する過去の勇者役』……『異世界からの移住者のひとり』である。
シリアス先輩「おっ、移住者が出るのは初じゃないか? 存在自体は、レイジハルトが友人宅真似て縁側作ったりとか、チラッと語られてたような? けどニアミスってことは、快人とは会わないのかな……そして3人ということはあと2人居るわけか」




