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大きな賭けをした

 モンスターレースの5レース目。アリスが言うにはこのレースがメインと言う事だが、どういう意味だろうか?


『さあ、いよいよ第5レース! 最も勝敗予測が難しく、しかし最も熱く盛り上がる……大型種レースだ!!』

「大型種?」

「ふふふ、見てれば分かりますよ」

『さあ、最初に登場するのは……1番、大空の暴君! レッドドラゴン!』


 実況の声と共に周囲から歓声が上がり、レース場を5メートル近いドラゴンが悠然と飛ぶ。

 あれは確か、ノインさんが以前に狩っていたドラゴンかな? 飛んでる所は初めて見るけど、迫力あるなぁ……後、あのドラゴン、美味しかったな……


『次に登場したのは……2番、絶対凍土の狩人! フェンリル!』

「お、おぉ……何か次々凄いのか……」

「このレースは魔物の中でもトップクラスの実力を持つ魔物ばかりのレースです」

「あれ、全部捕まえて来て調教したの?」

「まさか、殆ど竜王様の眷族から下賜された卵や子供を育ててるんですよ。じゃなきゃ、まず言う事なんて聞きませんから」


 どうやらこのレースは、それこそ伝説級の魔物ばかり出る様で、だからこそこんなに盛り上がってるみたいだ。

 通常は人に懐く様な魔物では無いみたいだが、子供の頃からちゃんと育てれば言う事は聞くらしい。


『おおっとここで、登場! 6番、伝説の魔獣! ベヒモス!』

「うおっ!? ベヒモスじゃないっすか……」


 6番目に登場した真っ黒な二本の角が特徴的な大型の魔物、他と比べればやや小柄……3メートル程だが、濃い紫色の体皮も相まって凄まじい迫力を感じた。

 アリスが驚いてるって事は、やっぱり凄い魔物なんだろうか?


「凄い魔物なの?」

「凄いも何も、ベヒモスって言ったら……高位古代竜ハイエンシェントドラゴン……ニーズヘッグと並ぶ、魔物の中でも最強に近い存在っすよ……天のニーズヘッグ、地のベヒモスと言われる文字通り伝説の魔獣です」

「おぉ、そんなとんでもない魔物なんだ……」

「まぁ、アレは『赤ん坊』ですけどね」

「赤ん坊!?」


 アリスが告げた言葉は正直すぐには信じられなかった。

 あれで、赤ん坊? 3メートルはありそうなんだけど……大人って、一体どれ位……


「大人のベヒモスは500mtメトンを超えますね」

「……とんでもないな」


 メトンとはこの世界の単位で、確か1mtが20cm位だったかな? って事は……100メートル越えか、それは本当に怪獣映画みたいな化け物だ。

 確かに成長するとそのサイズなら、あのベヒモスが赤ん坊と言うのにも納得出来る。


 っと、そこでふと気が付いた……気のせいかもしれないが、あのベヒモスこっち見てる様な……何か物凄く目が合ってる気がする。

 うん何かコースの中央辺りで立ち止まって、めっちゃこっち見てる。


「どうしたんすかね? ベヒモスに限って、ビビったりしてるって事は無いと思いますけど……」

「何かこっち見てる気がする」

「ベヒモスは物凄く気性が荒くて攻撃的ですから、カイトさんの事獲物だと思ってるのかもしれないですよ~」

「恐ろしい事言うなよ……」

「あはは、大丈夫ですよ。会場には結界が張ってありますし、いくらベヒモスでも赤ん坊では破れないですよ。それより、チケット買いに行きましょう!」

「あ、あぁ……」


 本当にそうだったんだろうか? さっき感じた感情は、敵意というよりは……

















 アリスと共にチケットを買いに行くと、一番人気はフェンリルみたいで、ベヒモスは意外な事に最下位だった。


「ベヒモス最下位だな」

「ベヒモスはパワーも耐久力もスピードも物凄いですけど……流石に赤ん坊では、そこまではって事でしょうね。私も正直、レッドドラゴンやフェンリルに勝てるとは思えません」

「……そうか。うん? あの横に書いてるのは、倍率じゃないよな? 何だあれ?」


 ベヒモスがいかに強大な魔物とはいえ、生まれたての赤ん坊ではそこまでの力は無いみたいだ。

 それでもこの大型種のレースに参加しているし、他の魔物とは格が違うみたいだ。

 そして気になったのは、ベヒモスやレッドドラゴンの名前の横に、50とか70とかの数字が書かれていて、今まで見なかったそれが気になり尋ねてみる。


「ああ、アレは魔物の販売価格ですよ」

「販売?」

「ええ、このメインレースに参加した魔物は、ペットとして買い取る事が出来るんですよ。それで、アレはその価格ですね」

「買い取るって……大丈夫なのかそれ?」


 なんとこのメインレースに参加している魔物……レッドドラゴンやフェンリルは買い取る事が出来るらしい。

 どれも物凄い魔物の筈だけど、そんなのを買い取って危険は無いのだろうか?


「大丈夫ですよ。さっき言った様にこのメインレースに参加してる魔物は、毎年竜王様から下賜されたものですから、竜王様に施された魔法があるので、主には決して逆らえません」

「へぇ、やっぱり良く売れたりするの?」

「いや、滅多に買う人なんていませんよ。あの横に書いてる金額、全部白金貨ですからね……大貴族位しか買えませんって」


 確かに白金貨と考えると、どの魔物も数億円……一般人に手が出る様なものではないと言う事か……

 ベヒモスは……300枚!? 30億円!? さ、流石……伝説の魔獣。


「……なあ、アリス」

「なんすか?」

「あれって、俺でも買う事は出来るの?」

「……そりゃ勿論、って、カイトさん!? まさか買う気っすか、そんな大金持ってるんですか?」

「いや、無いけど……」


 何故そんな事を口にしたのか、理由はハッキリしている。

 さっきこちらを見ていたベヒモスの目……アレが頭から離れない。

 感応魔法で読みとった感情は、幼い子供らしく小さなものだったが……とても純粋だった。


 ここに居たくない、連れて行って……そんな感情が真っ直ぐそそがれていた。

 だからどうしても、あのベヒモスの事が気になってしまう。


 いや、分かってる。現実的な問題では無い事も……俺は現在居候の身だし、いずれ100メートルを超える様な魔物を飼う事は難しいかもしれない。

 いや、それは最悪リリアさんに土下座でも何でもして、それでも無理ならクロ辺りの力を借りれば出来ない事もない。

 となると問題は、白金貨300枚か……


「……そうだな、今はギャンブルしに来てるんだったな」

「カイトさん?」

「チケット買ってくる」

「え? ちょっ!?」


 アリスに告げてから、チケットの販売所へ行く。

 そして受付の女性の前に、今まで稼いだ全てのお金を置く。


「6番、『白金貨2枚』分ください」

「へ? はっ!? か、畏まりました!?」


 白金貨2枚を出して告げる俺の言葉を聞き、受付の女性は驚愕しながらチケットを出してくれた。

 チケットを受け取った俺は、ゆっくりと看板に視線を動かす……さすがメインレースというだけあって金額が跳ね上がっているのか、ベヒモスの倍率は現在約400倍以上……俺が白金貨2枚を賭けたとはいえ、200倍は越えてくれそうだ。

 つまり、このレースでベヒモスが勝てば、俺はベヒモスを買う事が出来る。しかし負ければ所持金は全て無くなる。


 全く、自分の性格に呆れてしまいそうだ。

 アリスに散々注意したくせに、今自分の方が散財しようとしているとは……

 そんな事を考えていると、いつの間にかアリスもチケットを買って戻って来た。


「事情はよく分からないですけど、カイトさん今イケメンですよ……って事で、お付き合いします」

「え?」

「私もベヒモスにオールインしてきました。一蓮托生と行きましょう」

「お前は……本当に……」


 ニコニコと笑顔を浮かべながら、俺の賭けに付き合うとチケットを買って来たアリスを見て、思わず苦笑する。


 拝啓、母さん、父さん――自分でも馬鹿なことしてるなぁとは思うんだけど、やっぱり俺はああいう目に弱いみたいだ。今日人生で初めてのギャンブル、そこで俺は――大きな賭けをした。





















「お嬢様? 頭を抱えて、どうかされたのですか?」

「……いえ、よくは分からないんですが、今とんでもない寒気が……」

「冷えて来ましたかね?」

「いえ、そう言うのじゃなくて……なんだか、物凄く嫌な予感が……ルナ? カイトさんは?」

「今朝方から出かけて行かれましたが……」

「……」






















個体数が少ないから有名じゃないけど、黒い角のベヒモスは特殊個体。


次回「ベヒモス勝利(仮タイトル)」


私はシリアスを見逃さない、絶対にだ……

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― 新着の感想 ―
[一言] どうせ、カイト側についただけでしょ笑 ここまで当たってるから。
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