白神祭を終えて①
終了式を見終えたあと、下層の出店で軽く買い食いをしながら戻ろうとしたのだが……よく考えれば俺たちは最初上層を経由してきたので、下層の転移門の混み具合を分かっていなかった。
転移門に近づくにつれてどんどん増える人……さすがにこの流れに乗って進むと、相当の時間がかかりそうだったので、道から逸れて俺の持つ転移魔法具で帰還することにした。
というのも俺はシロさんの祝福のおかげで、神域以外の転移阻害を無視することができるので自前の転移魔法具で移動することができる。
転移魔法を使って、ひとまず俺の家の門の前に転移すると、直後に目の前に広がった光景に驚愕した。
「……お、おぉぉ」
「す、すごっ、快人先輩の家の庭、自然公園みたいになってますよ!?」
俺と同じように陽菜ちゃんも驚愕した様子で、他の皆も明らかに驚いた顔を浮かべている。
その理由はよくわかる。なにせ俺の家の庭が、出発の際とはまったくと言っていいほど変わっていたからだ。
もちろんなぜそうなっているかは理解している。ネピュラとイルネスさんから庭を大きく変える提案をされ、図面も見せてもらった上で許可を出している。
しかし、図面で見るのと実際に目にするのでは大きく違う。陽菜ちゃんが言った通り、まるで自然公園のように見え方とかも相当考えて作られているだろう庭は、まるでひとつの芸術のように美しい。
ベルやリンが広くスペースを使えるように芝生の個所が多くなりつつも、門から屋敷までの道は歩きやすく整えてあるし、照明魔法具の配置なども絶妙で眩しいわけではないのに、夜でもしっかり全容を確認できる感じになっている。
随所に綺麗な花や小型の木なども植えられており、小さな丘があったりと高低までも含めて相当作り込まれている。それこそ、有名な観光地にある自然公園と言われても信じられるほどで、普通に散歩するだけでも楽しそうな雰囲気だ。
「……こ、これを、一日で? イルネスが付いていたとはいえ……お、驚きました」
「というか、これは……イルネス様でも果たしてと思うような感じですよ。中央の道なんて足元に反応式の照明魔法具が埋め込まれているように見えますし、相当な手間ですよ」
「元あった噴水なども撤去して、コレだけの上質な芝生を敷き詰め、観賞用の木や花も? 一年がかりの仕事と言われても納得するレベルなのですが……」
俺の庭のあまりの完成度に、リリアさん、ジークさん、ルナさんの三人も心底驚愕したといった様子だ。
そんな驚愕を露わにしていると、庭の中でも一際大きくスペースを割いている場所……俺が要望として、出来るだけ広いスペースを取ってほしいと伝えておいたのだが、小さく丘のようになっている場所に生えている世界樹が光ると、ネピュラがこちらに飛んできた。
「主様! 皆さん、おかえりなさい」
「た、ただいま、ネピュラ……庭、凄いね。一日で終わるとは聞いてたけど、本当にこんなに完璧にリニューアルされてるのを見るとビックリしたよ」
「イルネスさんとふたりでやりました。細かく紹介したところですが、主様たちも祭りでお疲れでしょうし、明日改めて説明します。あと、主様に許可をいただけたので、屋敷の裏手には茶畑なども作っています」
「え? そっちも完成してるの!?」
たしかに、ネピュラからお茶を作りたいから、どこか使っていいスペースはあるかと尋ねられたことがある。
リリアさんの屋敷で言えば、屋敷の裏手には訓練場や馬小屋などがあるのだが、俺の家に訓練場などは必要ないので、現状はベルとリンの小屋があるだけで、スペースは余りまくっていたのでそこを自由に使っていいと許可は出した。
だが、そっちもまさか一日で全部終わってるとは……。
「ネピュラは、仕事が早いんだね」
「もちろんです! 妾は、絶対者ですからね!」
「すごいな、絶対者」
なんか気のせいか最近、ネピュラが口癖のように告げる絶対者という言葉が、某メイドのようにあらゆることに優れた超人という意味で認識できた気がする。
「と、ともかく、お疲れ様。ネピュラのいう通りまた明日にでも、ゆっくり見学させてもらうね。あっ、これ、ネピュラに……白神祭のお土産」
「わざわざありがとうございます、主様! 祭りはいかがでしたか?」
「凄く楽しかったけど、さすがにあちこち歩きまわったから疲れはあるね。といっても、一日でこれだけの作業をしたネピュラには及ばないかもしれないけど……ネピュラ、大丈夫? 疲れてたりはしない?」
「はい! 庭の作業自体は『昼には終わりました』ので、その後はイルネスさんとのんびり茶畑を作っていただけなので、問題ありませんよ」
「そ、そうなんだ……」
……そっかぁ、昼には終わってたのか……やっぱすげぇな、絶対者。
シリアス先輩「教えてくれ! フェイト編はすぐ始まるのか?」
???「いや、先にブロッサムさんに会う話でしょ」
シリアス先輩「……そう言えばまだ会ってないのがひとり残ってたか……」




