閑話・これからの貴女の未来へ祝福を
快人が神域で花火を楽しんでいたころ、リリア達の一行もスカイの案内によって花火のよく見える場所で花火を楽しんでいた。
その場所はテラス席のような形式になっており、いくつか存在するテーブルの中でも一際大きなテーブルに全員でつき、花火を見ながら雑談を楽しんでいた。
途中一度下層に赴き、出店で買ってきた軽食などを食べつつ、今日の思い出を語り合う楽しい時間……そのはずだが、陽菜は少しだけ浮かない表情を浮かべていた。
そんな陽菜の様子にいち早く気付いたスカイが、心配そうな表情で陽菜に問いかける。
「ヒナさん、どうかしましたか?」
「スカイさん……」
「花火は楽しめませんか?」
「い、いえ、すごく綺麗で見てて楽しいです。私、お祭りは好きですし……けど、えっと、もうすぐ終わりだなぁと思うと少し寂しくて」
ともすれば花火の音にかき消されてしまいそうな小さな声ではあったが、陽菜の言葉を聞いたスカイは軽く微笑み陽菜の隣の席に座る。
「ヒナさんの気持ちはとてもよく分かりますよ。楽しい時間が終わるのはとても寂しいものです。私は立場上普段は神族以外と関わる機会は少ないので、こうして皆さんと知り合えて案内ができたのは新鮮で楽しく感じました」
「……私も、スカイさんが案内してくれて本当に楽しかったです」
「そう思っていただけたのなら、なによりですよ。たしかに、楽しかった一日が終わってしまうのは寂しいものですが、今日感じたもの得たものは、明日以降に繋がっていく。終わりではなく次につながっていくのだと、私はそう思いますよ」
「次に……」
優しい声で話しながら、スカイは軽く視線を動かし、周囲で花火を見上げている人族や魔族、それぞれの役割をこなしつつも合間に花火を眺めている神族たちを見る。
「……今回の白神祭で私を含めた神族が得たものは、言葉では表せぬほどに大きいと思います。今後、神界は大きく変化していくと、そう感じています。いままで少し閉鎖的だった神界に、人界や魔界との繋がりが増えました。きっと、良い方向に変わっていくのでしょう」
そう告げるスカイの横顔を見て、陽菜も少しはにかむような笑みを浮かべたあとで、ポツリと独り言のように呟いた。
「……お姉ちゃんが居る友達が、羨ましかったんです」
「うん?」
「私は末っ子で……兄はふたり居るんですけど、姉はいなくて、なんとなく憧れてました。偉い神様にきっと失礼なんだと思いますけど、スカイさんは凄く優しくて温かくて……なんか、漠然と思い描いてた理想のお姉ちゃんみたいだって、思いました」
そこで一度言葉を区切り、再び寂しそうな表情を浮かべて俯く。
「もっと、スカイさんといっぱい話がしたかったですけど……分かってるんです。今回は快人先輩のおかげで会えただけで、本当はスカイさんはとっても偉くて、私が簡単に会えるような相手じゃないんだって……それが、なんだかちょっと、寂しくて」
「……ヒナさん」
「す、すみません、変なこと言っちゃって、気を取り直して花火を――え?」
話題を切り替えようとした陽菜の頭にポンッとスカイの手が置かれる。少し驚いたような表情を浮かべた陽菜に、スカイは優しい顔で告げる。
「そんな風に思っていただいて、とても嬉しいですよ。神族には上下はあっても家族というものはありませんので、少し理解が難しい部分もあります。それでも、私はヒナさんと出会えてよかったと思っていますし、ヒナさんがそう思ってくれているように、これからももっといろいろな話をしたいと感じています」
「……スカイさん」
「この繋がりを終わりにしたくない。これからも続けていきたいと、そう感じる気持ちも、この白神祭で得ることができた……貴重でよい変化です」
穏やかな声で告げながら陽菜の頭を撫でつつ、スカイは言葉を続ける。
「貴女に……『天空の祝福』を」
「え? ス、スカイさん!?」
「その祝福があれば、神界の中層に入ることができます。また、いつでも遊びに来てください。私は、貴女の来訪を心から歓迎しますよ」
「っ、うぁ……あっ、ありがとうございますっ!」
「おっ、とと……ふふふ」
スカイに祝福を貰え、いつでも遊びに来て良いと言ってもらえ、陽菜は感極まったような表情で目に涙を浮かべ、衝動的にスカイに抱き着いた。
一瞬驚いたスカイだったが、すぐに優しい表情に戻り陽菜の頭を撫でる。その姿は本当に仲のいい姉妹のように温かな空気に満ちていた。
???「やはり予想通り、スカイさんはヒナさんに祝福を行いましたね。ほっこりといいお話です……え? シリアス先輩? 治療中ですね。ああちなみに86時間というのは『おさらい』の時間で、本番の治療? はそこからなのでどうなるやら……」




