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勝負を挑まれた

 本当に色々あった一日が終わり、翌日は疲れ切っていたので、一日開いた日の昼前、俺は再びアリスの元を訪れようと道を歩いていた。

 アルベルト公爵家に滞在したフェイトさんは、日付が変わるギリギリ位に「私は諦めない! 今後は、ちょくちょく通ってカイちゃんと仲良くなって、最終的に養ってもらう!」と告げて帰っていった。

 本当にぶれないよあの方……あの働かない事に対する熱意を半分でも仕事に向けたら、余裕で楽できそうな気がする。


 そしてフェイトさんが帰った後で、クロにアリスの事を相談してみた。

 ありがたい事にクロは快く協力を約束してくれ、例の電卓の件が一段落したら一緒にアリスの店に訪れて交渉してくれると言ってくれた。

 なのでアリス側の予定も確認しておこうと、一昨日行ったばかりだがで再び訪れようとしている。


 店の前まで辿り着き、ゆっくり扉を開けると……


「……いける、いける筈……人間は進化する生き物……今、ここで『何もない所から食べ物を創造する魔法を』習得してみせ――痛いっ!?」

「……何してるんだお前は……」


 何やら虚空に向かって両手を掲げ、意味不明な事を呟いていた猫の着ぐるみをぶん殴った。

 何でコイツは、店に訪れる度に奇行に及んでるんだ!!


「いや、ほら、カイトさんが次来るまで、前の売り上げをギャンブルで使うなっていったじゃないですか……」

「うん、言ったね」

「なので、ちゃんと一昨日の昼から『1Rも使ってません』よ!!」

「……いや、食材買えよ……」


 どうやらアリスは、無駄遣いするなと俺が言った事で、今まで一銭も使わずに待っていたらしい。

 そしてその結果、当り前だが再び空腹に襲われ……虚空から食材を生み出そうと試みていたらしい。

 なんで、コイツこんなに馬鹿なの?

 

「……はぁ、とりあえず何か食べに行こうか?」

「え? 奢ってくれるんすか!?」

「……ああ」

「やった! カイトさん、素敵! 惚れるぅ!」

「……」

「あれ? あれれ? 何で、この流れで殺意籠った目で見られてるんですかねぇ……」


 何と言うか、フェイトさんも中々に駄目な方だったが、アリスはそれとはまた別のベクトルで駄目な奴だ。

 仕事をしない訳ではない。いや、それどころかそちらの方面に関してはむしろ余念がないのではないかと思う。


 店内には過去二回来た時と比べて、服の数が明らかに増えている。

 恐らく俺がアリスの作った服を気に入ってるのが分かっているのだろう、増えた服の多くは俺好みのシックな色合いの落ち着いたもので、明らかに俺へターゲットを絞って来ている気がする。

 けど、コイツ本当にセンスいいなぁ、あの飾ってある服とか複雑な編み目で、編み目が模様の様になっていて光の角度で見え方が変わってくるみたいでちょっと欲しい。


「まぁ、とりあえず何か食べようか……」

「あ、それなら丁度いいですから、カイトさんも一緒に行きましょう!」

「うん?」

「え~と、よいしょっと」

「ッ!? これは?」


 とりあえずご飯位は奢ってあげようと思って声をかけると、アリスは何やら良い事を思い付いたと言いたげに手を叩き、マジックボックスから巨大な魔法具を取り出す。

 その魔法具は俺が今まで見た中で最大の大きさで、2メートルくらいはありそうだった。


「あれ? カイトさん『転移魔法具』見るのは初めてですか?」

「小さいのなら見た事はあるけど、これだけ大きいのは初めて見たよ」

「ふふふ、結構良いやつですよ。再使用までの時間も最大で30分程ですし、長距離も飛べますからね」

「へぇ」


 以前クロと行った店で見た転移魔法具は精々サッカーボール位の大きさだったが、クロはそれを見て小さすぎると言っていた。

 やはり性能の良いものだとこの位のサイズになるみたいだ。


 俺が転移魔法具を興味深く眺めていると、アリスはいつの間にか着ぐるみを脱いで転移魔法具に触れながら俺の方に手を伸ばしてくる。


「ちょっと触りますよ~接触して無いと同時に転移出来ないので」

「ああ、で……結局どこへ行くの?」

「『アルクレシア帝国・首都アレキサンドリア』ですね」

「……は?」

「れっつご~」

「ちょっ!? まっ!?」



















 シンフォニア王国の王都より活気があると言うか、やたら賑やかで大都会と言った印象を感じる街並みを眺めながら、頭を抑えている馬鹿アリスと一緒に歩く。


「……痛い……殴る事無いじゃないすか……」

「いきなり他国に連れてこられたら、殴りたくもなるよ。と言うか、これ国境とか問題無いの?」

「転移魔法があるんすから、そもそも国境なんてあって無い様なもんですよ」

「成程」


 アリスに連れられて訪れたのは、シンフォニアから北に位置する人界の三大国の一つである、アルクレシア帝国だった。

 緑の多いシンフォニア王国に比べ、アルクレシア帝国は鉱脈のある鉱山が多く、鍛冶技術等が発展している国らしい。

 確かに建物もシンフォニア王国より大きなものが多く、建築技術が高い事が伺えるが、同時にやや武骨な印象も受ける。


「さっき、見かけた小柄な人は、ドワーフ族かな?」

「ええ、そうですよ。シンフォニア王国にはエルフ族が多く、アルクレシア帝国にはドワーフ族が多いです。ちなみに南にある『ハイドラ王国』は海に面してる関係上、マーメイド族が多いですね」

「へぇ~国によって色々特色があるものなんだ」

「ええ、食のシンフォニア、住のアルクレシア、衣のハイドラって言われてて、それぞれ発展してる文化に違いはありますよ」


 アリスが歩きながら軽く国ごとの特色を教えてくれる。

 緑が豊かなシンフォニアは食文化が発展しており、鉱山が多いアルクレシアは鍛冶と建築技術が発展しており、ハイドラは衣服の文化が発展しているらしい。


 そのまま国についての話を聞いていると、一際巨大な建物が見えてきた。


「あ、着きましたよ!」

「なぁ、アリス……」

「何ですか?」

「俺の目が可笑しくなってなかったら、あの建物には『モンスターレース』って書かれてるんだけど……」

「ええ、書かれてますね」

「……モンスターレースって何?」

「調教した様々な魔物を競わせ、勝敗を予測してお金を賭け――痛っ!?」

「賭博場じゃねぇか!!」


 何ごく自然な流れで、ギャンブルに移行しようとしてるんだコイツ!

 てかご飯食べに行こうって言ったのに、なんで賭博場に連れてきてるんだ!?


「だ、大丈夫です……ちゃんと中に屋台とかありますから」

「……いや、そういう問題じゃないだろう。アレだけ無駄遣いを……」

「大丈夫です、昨日『臨時収入』があったので!」


 違う、そうじゃない。

 どうやらアリスは、この前俺が帰り際に言った発言をそのまま……次に俺が訪れるまでギャンブル禁止と受け取っていた様で、俺が来たからもう解禁だって発想になったらしい。

 止めたいが……もう駄目だ。完全に雰囲気がギャンブラーになってる。


「……分かった。でも、あまり熱くなって無駄遣いしない事……酷かったら途中で引きずって帰るからな」

「了解です!」


 本当に分かってるんだろうなコイツ……いや、まぁ、コレはある意味丁度良い機会かもしれない。

 アリスの事を更生させようと思ったら、彼女がどの位ギャンブルにのめり込んでるかも知っておいた方が良いだろう。

 それに俺の居ない日に行かれて散財されるよりも、近くで止められる状況の方が良いだろう。


 そう結論付けて、モンスターレース場に入る事は許可した俺を見て、アリスはニヤニヤと腹の立つ笑みを浮かべながら口を開く。


「……さて、カイトさん。折角なんで一勝負しませんか?」

「勝負?」

「ええ、お互い同額で賭けて、どっちが多く勝てるかです!」

「……なんでそんな……」

「折角なんでカイトさんにも楽しんでもらいたいっすからね! 私が勝ったら、今晩豪華なディナーを奢ってください!」

「俺が勝ったら?」

「その時は、え~と……じゃあ、カイトさんの言う事を『何でも一つ』聞きますよ」

「ふむ……分かった」


 余程ギャンブルに自信があるみたいで、アリスは余裕の表情で勝負を持ちかけてくる。

 まぁ、競馬とかでも経験者の方が強いと思うし、こう言うのは慣れによる部分が大きいのかもしれない。

 ご飯については、以前俺にも臨時収入……収穫祭優勝の賭けの分け前があるし、元々奢るつもりだったので、まぁ良しとしておこう。


 拝啓、母さん、父さん――アリスに連れられてアルクレシア帝国に来たよ。そしてどうしてこうなったか分からないけど、アリスに――勝負を挑まれた。















備考

アリス:運20

快人:運100030(祝福補正あり)


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― 新着の感想 ―
[一言] 祝福補正www 多分30が元の運なんだろうけどそれでも負けてるやん
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